2001年 ベンチレスト世界選手権 - 海外遠征 (ベンチレスト射撃大会)

2001年11月 7日 築地
更新 2001年11月13日 築地

日本は秋から冬に、ニュージーランドでは、春から夏に季節が変わり行く時期。
ニュージーランド、ネルソン市、ラザフォードホテル503号室にて。

ニュージーランドのネルソン市で、2001年度の世界選手権が開催されることになった。
我々ベンチレスト協会にもニュージーランド射撃協会から参加要請があり、会員の中から参加者を募集する事となった。
世界選手権と言うと、誰でも幾多の予選を勝ち抜いてきた強豪選手達が参加すると思っているかも知れないが、日本ベンチレスト射撃協会の場合は、暇と、多少の金のある人なら誰でも参加できるレベルなのである。勿論、外国の場合は違う、アメリカ等は猛烈な予選を勝ち抜いて選手が選抜されているが、我が日本では概ね希望者はだいたい選手として参加できる。
そんな訳で日本選手に関しては、世界選手権日本代表と言う名前が付いていても、町内会のゲートボール大会の参加選手と、資格、資質とも大差はないのである。
同じ世界選手権でも女子マラソンの高橋尚子選手とはこの辺が劇的にレベル違うところである。
この程度のレベルでの参加なのであるが、現実を知らないと言うのは恐ろしい物で、参加選手の一人Sさんからは、大会に優勝したときのスピーチを教えてくれと言われた。

勿論当人は、あくまでも"万一の場合"と念押しするが、我々日本チームはどんなに間違っても優勝することはあり得ない、この所は絶対と念押ししても大丈夫なくらいである。
Sさんは「あくまでも、万一の、万一の場合の事です」と食い下がるが、我々のメンバーが優勝する確率は、拾った宝くじが3億円に当たり、その3億円で北海道の原野を買ったら、そこから原油が噴き出したと言うくらいの確率である。
そもそもSさんは、我々のベンチレストの大会でも久しく上位に食い込んだ事がない、日本国内の大会ですら穴馬的存在なのに、世界選手権に出て優勝するなどと言う事は間違ってもあり得ないのだが、この当たりの雰囲気を皆さんに説明するにはどうしても私の文章能力では書ききれないので、ここはNHKのプロジェクトXのナレーション風に読んでいただく事で雰囲気を察していただきたいと思います。では、以下、山田トモロヲ氏のナレーション風に読んでください。

男達がいた・・・・・・・
それぞれが強烈な個性を持つ男達であった・・・・・・・
リーダーの築地は言った・・・「ニュージーランドで世界選手権があります、日本からも選手を送るつもりです、都合の付く人は参加してください」・・・・・・・・・
男の一人が言った・・・・・「私は参加しますが、優勝のスピーチは何と言うのですか」
築地は絶句した・・・・返す言葉を失った・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私にはSさんの心の中は全く読めないが、世界選手権に参加する心づもりを決めたSさんは、その時から優勝したときのイメージを大きくふくらませて居たのかも知れない。
普通の観光旅行と違い、ベンチレスト射撃では銃の外にレスト、ヘビーサンドの入ったサンドバックなど、色々余分な物まで持ち込むことになり、勢い全員が重量オーバーとなり、合計で14万円相当の超過料金を徴収される。
飛行機の中はテロの影響なのか、60%程度の混み具合である、大会が開催されるネルソン市までは飛行機の直行便があり、本来はそれを利用して行くのが本当であるが、我々の大会参加目的は大会参加の他に、物見遊山という目的もあるのであえて、クライストチャーチで飛行機から降りて、レンタカーでネルソンまで向かうことにした。
距離的にも、時間的にもこの間は東京~大阪間に相当する。途中、いたる所に牧場が続く、多くの牧場は羊を放牧しているが、中には牛、そして、鹿を放牧しているところもある、今回参加した選手の中に宮川雅雄氏がいる。かれは大藪春彦さんのビックハンテングに登場する人物で、本の中で大藪さんは"私の若い友人、宮川雅雄君"と言うフレーズで宮川さんを紹介している。宮川さんは昔ニュージーランドでハンテングガイドをしており、大藪さんのニュージーランドハンテングをコーデネイトしたのは彼である。従ってニュージーランドには殊の外詳しい。宮川さんにニュージーランドの人口は何人ですかと聞いたら、3000万人だという、物の本には300万人と書いてあったので、彼の頭の中では羊の数まで人口の中に入っているらしい。昔の船乗りは港々に"オンナ"が居たらしいが、宮川さんの場合はニュージーランドの山々に雌羊が居たのかも知れない。
宮川さんは大会の途中で友達に会いに行くと言って3日ほど姿を消したが、選手達の間では、宮川さんは、昔、ニュージーランドに残して来た雌羊に逢いに言ったのではと言う話が流れた、こういう事からしても、昔、宮川さんが日本に帰国するときに雌羊が飛行場に見送りに来たという噂は、案外真実なのかも知れない。

ネルソンに付いた時にはすでに夕暮れ時であった。
ホテルにチェックインを済ませ、その足で近くのレストランに直行した。
ビール、ワイン、をしこたま空けて、ビーフに、ラム、を平らげた、勘定を払って驚いた。合計金額を頭割りすると、一人頭2千円程度しかかかっていない、日本なら1万円と言われてもおかしくないボリュームであった。

翌朝、射撃場に向かう、ネルソンの射撃場は町の中心から僅か7分の所にある、町が大きくないと言うせいもあるが、町の周りに自然が多く残っているのでわずか7分の所に射撃場が存在できるのであろう、射撃場に向かう途中、最初公園がある、公園を過ぎるとクリケット専用の球技場がありその先にゴルフ場が見えてくる、ゴルフ場の先が射撃場である。

射撃場への道
射撃場への道
クラブハウス
クラブハウス

射撃場の周りには川が流れその周囲を山に囲まれた美しい射撃場である。
土地はネルソン市の所有で、そこを射撃クラブで借りて使っていると言うことである。


大会1日目、100ヤード ライトバーミント

大会前日に参加者全員で撮影した画像を見るとみんな一応に明るい表情をしている、この明るさが、大会が進むに連れて暗い表情に変化していくのであるが、この時点ではまだ誰も現実の厳しさに気付いていなかった。開会式は会長のスミス氏の来賓紹介から始まり、ネルソン市長の大砲の"ズドン"で開始された。

参加者全員
参加者全員
開会式の
開会式の"ズドン"

大会参加国はアメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、フィンランド、フランス、ドイツ、イギリス、南アフリカ、スエーデン、フランス領ニューカレドニア、そして日本である。参加選手総数は78名である。
ベンチレスト射撃は5発の射撃を5回撃ってそのグルーピングの大きさの平均点で採点する、当然グルーピングが小さい方が上位になる。ベンチレスト射撃では弾痕を1,2,3,4,5,発と数えられるようでは到底勝負にはならない、5発撃って、弾痕は1発しかないのが普通である、つまり5発の弾は同じ弾痕の中に入るからである、勿論6ミリの弾を撃って弾痕が6ミリと言うことは無い、普通7~10ミリくらいの弾痕になる、つまり1~4ミリ程度は上下左右にずれると言うことである。

5発の弾が同じ弾痕に入れるなら、3発、あるいは2発でとぼければ解らないのではと言う疑問が湧くだろうが、そこは標的の後ろにバックターゲットと言う標的があり、これがモーターで常時動いているので、バックターゲットは絶対に同弾にならない、バックターゲットに5発の弾痕があって初めて成績として認められるのである。

バックターゲット
バックターゲット

ベンチレスト射撃は、銃の重さは10.5ポンドに制限されているが、射撃方法はライフルレストの上に銃を置いて撃つ、いわゆる依託射撃という方法である。ライフルスコープは36倍の物を使っている、この倍率だと標的に当たった弾痕が視認できる、弾痕が視認できないと、風の影響で弾丸がどれくらい流されたかを視認できないのでベンチレスト射撃用としては使い物にならない。ワールドカップと言う以上、参加している選手達は風さえ吹かなければ5発の弾を同じ弾痕に撃ち込める技術がある。従って順位の優劣を決めるのは風の動きをどう読むかで大方の勝敗が決まる。
標的の左右には横縞の線を引いたボードがある、これはミラージュボードと呼ばれる物で、これをスコープで覗くと、陽炎が見える、その陽炎の流れで風旗がなびいていなくても風の流れが読めるのである。
ベンチレスト射撃で一番大切な物は道具である、使用する銃身、銃身のツイスト、機関部の材質、銃床の材質、使用する弾頭、使用する火薬、どのくらいの重さの弾頭に対して、どこの火薬をどれくらい入れるか、そうした諸々の知識を総動員して最高に命中精度の良い銃器に仕立て上げているのである、だから無風状態なら5発の弾が1発の弾痕にしか見えないくらいよく当たるのであるのである、車で言えばF-1にあたるレベルである。そのために徹底した銃器弾薬の研究は欠かせない。
しかしながら、何よりもまして重要な技術は風の流れを読むテクニックなのである。
弾丸のスピードは速くなれば早くなるほど風の影響を受けにくい、この大会で使用される口径はほとんどが6ミリPPCである、ごくまれに6ミリBRと言う口径も存在している、初速は3200~3400フィートは出る。
銃器の世界で言えば、超高速弾と言う事になる。
これほどの高速弾頭をしても、風が"そよ"と吹くだけで、100ヤードで1センチはずれる、"そよそよ"と吹けば2センチはずれる。
"ブワー"と吹けば10センチはずれる。幾ら長瀞で練習してもこうした風を読む練習には全く役立たない。これが日本選手達にとって致命的な問題なのである。

我々日本チームも多くの装備のため荷物超過でオーバーチャージを取られたと書いたが、アメリカチームは我々より遙かに多くの装備を持ち込んでいた、風の流れを読むために自分たちが常時使っている風旗まで持参している。
ここの射撃場は峡谷の合間に出来ているので常時風が吹いている、ただ単に吹くだけではなく常にその方向と強さが変化する、また風の特徴として常に同じ方向に吹いているわけではなく、射座の手前と標的の当たりでは、吹く風が逆になっていたりする。

アメリカチームの荷物
アメリカチームの荷物

多くの人は無風状態が一番射撃の条件が良いと勘違いしているが、ベンチレスト射撃みたいに1ミリ2ミリを競う競技では無風状態と言うのは決してベストコンデションではない。
何故なら無風と言っても完全に風がないわけではなく、風旗がなびかないだけであって気圧の変化は存在する、つまり見えないところに風は存在するのである、風旗がなびかないのは、たまたまそこに風旗が無いからその風が見えないだけなのである、また無風状態と言うのは、風自体が色々な方向に勝手に舞っていたりして決して大気の状態が安定している状態ではないのである。であるから無風状態で撃つと以外と命中精度に乱れが起きる、一番理想的な風は、あまり強くない風が均等に、そして同じ方向に吹いてくれることある、

この状態だと当然にして風が舞うと言う現象は起こらないし、風による変移量だけを把握できれば必ず最高の命中精度を発揮できる、しかしながらこの様な安定した風が吹くのはホンの数秒である、極めてラッキーな場合は数十秒吹くこともあるが、1分以上吹くことはほとんど無いので、この決められたチャンスに5発の弾を出来るだけ素早く撃ち込むのがベンチレスト射撃の極意とも言えるのである。

理想的な風
理想的な風

今回のアメリカチームは新型の機関部を持参していた、新パンダアクションのブルーの銃床をご覧いただきたい、この銃を使っている射手は左利きである。従ってボルトハンドルは左側にある、弾を装填するポートは目で見て手で確実にそして素早く装填できるように右側にある、画像で言うと機関部の反対側から弾を装填するわけである。従来のベンチレスト専用ライフルは、弾を撃つと装填した手で薬莢をしていたが、これはボルトにエジェクターを取り付け、ボルトを下げると新規に作られたエジェクションポートから排出される、つまり右から弾を装填して、左から排莢するように作られている、これだと5秒~10秒程度で5発の弾を撃つことが出来る。5発の弾の射撃制限時間は7分間あるので、一番風の安定した一瞬を狙って、5秒~10秒程度で5発の弾を集中して撃つ裏技なのである。

新パンダアクション
新パンダアクション

風は3時方向から真横から吹く風に対しては9時方向の真横に流れるのではなく、時計で言うと少し上の10時方向に流される、9時方向から吹く風に対しては真横の3時方向ではなく、少し下の4時方向に流される、これはライフルの弾頭は猛烈なスピードで回転しているのでこの様な独自の運動を起こすのである、前から吹いてくる風に対しては、弾頭は上にホップし、後ろから吹く風には下に押される。このお約束を完璧なまでに頭に入れておかないとベンチレスト射撃競技では絶対に勝つ事は出来ない。
真面目に真ん中だけを狙って撃てば、先ず保証付きで最下位と言う事になる。
風を読むのも結構リスキーな選択である。ある一定の風が吹いているときに変移量考えて、2センチ位、狙点をずらして撃とうとした瞬間、風の向きが変わる、その時には逆方向に4センチずれてしまい、たった1発で優勝候補が最下位に直行と言うことになりかねない。
この大会は全てのトータルで競技成績が決まるので、4日間の大会開催中、たった1発で全てのチャンスを失してしまうことになる、私が常々、"泣きの1発"という根拠は正しくここにあるのである。
我々は、Sさん以外、総合優勝と言うことは全く念頭にない、残念ながらそれが我々の実力なのである、従って、私は、1シリーズの中の、その瞬間で良いからトップ20位以内に入るのを一応の目的としてきた。

ここの射撃場は山間にあるので非常に天気が変わりやすい、おまけにニュージーラをンドは季節の変わり目であるので非常に天気が変わりやすく、10分で快晴から豪雨に天気が激変する、夕立みたいに突然雨になり出すことが少なくない。しかしながら命中精度に対しては雨の影響は以外と少ないのである、雨に伴う風、これが最大の問題なのである。

突然の雨
突然の雨

テントで雨宿りしている日本選手の表情を見ていただくと、成績=表情として現れているので余計な説明は不用かも知れないが、選手達のひんしゅくを買うことを承知の上であえて発表させていただこう、大会1日目の、ライトバーミント、100ヤード競技での成績は、47位、上野選手、50位、不肖築地、53位、川村選手、55位、湖東選手、65位、平澤選手、71位、清水選手、78位宮川選手、この大会で宮川選手より以下の選手が居たかどうかについては彼の名誉のためにあえて言わない。

成績=表情
成績=表情

成績のふるわなかった我々は、その夜のデナーは海の上に建てられたシーフードレストランに突入、その夜はまるで優勝祝賀会のように盛り上がってしまった、なんせ全ての料金が日本の半額以下だったからである。

シーフードレストラン
シーフードレストラン

2日目、100ヤード、ヘビーバートライフル

ベンチレスト射撃の大会は、日本では1種目であるが、世界的には10.5ポンドのライトバーミントと13.5ポンドのヘビーバーミントクラスの2種目がある。
競技の内容は全く同じで、ヘビーバーミント競技の場合、少し重めの銃を使うことが出来るが重いからと特段有利と言うことはなく、私の感覚からすれば再度、勝負の士切り直しみたいな感覚でしかない、アメリカ国内の試合の場合なら、ほとんどの人が車で来るので何丁もの銃を持参してくるので問題ないが、こうした外国の大会に遠征試合するとなると、ほとんどの人が1丁の銃で2種目参加している。
勿論、私も1丁の銃で参加したのだが、K君の場合、ヘビーバーミント対応の銃身を持ち込んでいたので、それと銃身交換して大会に参加した。
ところが、この銃身交換が後にあって考えると命取りの結果になることになる。私は1射群であったが、風が強くて弾があちこちに振られた。
私の後はK君の番であった、大した風もなく撃ちやすい状態であったが、最後の4発目を撃ったときに火薬の圧力が高かったと見えて、雷管突破で、破片がボルトの中に入り撃針をスタッグしてしまった、最後の1発が撃てない・・・・・・・・・・
結果、時間切れでその回は1発撃たなかった分のペナルテーとして1インチが加算されてしまった、この1インチの加算はベンチレスト射撃では絶望的なペナルテーとなる、初回からK君は最下位にランキングされてしまった。
雷管突破が起きるのは色々な原因がある、初心者は激針が長いからと思いがちだが、撃針は幾ら長くても雷管突破は起きない、それはスプリングの強さを必要以上に強くしていないからである、撃針が規定上に出過ぎていても、スプリングの強さが規定以内で収まっていれば何の問題もない。これは銃器設計のイロハである、時折、別売りしている強いスプリングに交換する人もいるが、私から言わせると、これは結構リスキーな選択である、スプリングを強くしなければならないのは共産圏の雷管を使った時だけである、自由主義諸国の中で唯一だめなのがイタリアだが、イタリアは雷管を売っていないので心配ない、雷管で信頼できるのは、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本である。
話が横道に逸れて恐縮だが、私はトラップ射撃にはレミントン製の弾を使っているが、最近はイタリアで生産されるようになった、品質管理の技術者に聞いたら、全ての物はイタリアで調達しているが、雷管だけは日本製だそうである。
さて、話を元に戻そう、雷管突破のもう一つの原因は撃針の先端の傷にある、ここに目で見えないような微細な傷があると、何らかの理由でそこに雷管の真鍮が付着することがある、それが一定量を超えた瞬間、雷管突破が起きる。しかし、その衝撃で付着した真鍮は撃針から吹き飛んでしまうので原因は永久に解らないことになる。
私はアメリカでガンスミスの修業時代、撃針の先端はビカビカになるまでバフ研磨しろと厳しく言われた事を思い出した。
物理的現象だけでなく、気象条件によっても雷管突破は起きることがある、使用する銃身によっても火薬の圧力が変化する、たとえば銃身の公差は上と下とでそれぞれ5/100ミリ公差が認められている。同じ6ミリで作られている銃身でも100分の5ミリ口径が細い銃身もあれば100分の5ミリ口径が大きい銃身もある、それぞれの違いを考えると10分の1ミリになる、その違いは大きめの口径に合わせて作った限界ぎりぎりの弾の場合、口径の細い銃身で撃てばたちまち異常高圧が発生する。
もともと、ベンチレスト射撃ではローデングブックに書かれているマキシマムよりも多く火薬を入れるので、常時ホットロードで撃っている事を忘れてはいけない。
そのため、射撃場の条件により、気圧、外気温度、に応じてローデングデーターは微妙に変化する。別の射撃場で何の問題も無かった弾も、気圧の高いところでは弾に抵抗が生じる、温度が低いと空気は濃くなり、温度が高いと空気は薄くなる、勿論、標高差で空気の濃さが違うのは当然の事である。

当然、何の問題もなかったとして日本でローデングした弾を持ち込み、そのまま使うととんでもないアクシデントに見舞われることになる。そのためベンチレスト射撃では現場でリロードするのは大原則なのである、実際に撃ってホットロードだと感じたら火薬を減らすし、逆にスピードが足りないと感じたら火薬量を増やす臨機応変さが必要なのである。

リローデング
リローデング

ちなみにK君は2射群では頑張った、それでもやっと順位を一つ上げただけだった。順位は27位、28位の宮川さんと入れ替わった。
競技大会中、わずか1発でもおかしな弾を撃つと、天国から地獄へ直行することになる。
私は初回こそふるわなかったが、2射群、3射群、と撃ち込んでいく内に、3射群の結果はトップ20に食い込んだ、勿論多分にラッキーな結果ではあるが、瞬間的にせよ、世界大会で上位20位に食い込むことが出来たのは、私にすれば望外の結果である。
しかし、4射群では23位、最終の5射群では30位と順位を下げてきたが、これはプレッシャーとか、そういうたぐいの物ではなく、あえて言い訳を許していただけるなら、全てが風のせいなのであるが、しかし、泣き言になるのでこれ以上言うことは止める。
ヘビーバーミント、100ヤードの成績は、30位、不肖築地、65位、湖東選手、70位、清水選手、73位、上野選手、75位、川村選手、76位、平澤選手、78位、宮川選手である。

さあ、シーフードレストランに行くぞ!


3日目、ライトバーミント 200ヤード競技

何時の場面も私は最初の射群なので、朝、射撃場に到着するとあたふたと準備を進める、ニュージーランドの国旗掲揚の後、すぐに競技が開始される。
私は射座に入り、南無八幡大菩薩と心に念じ弾を放てばあやまたず、同弾、同弾、同弾、また同弾と、まるで講釈士の講談みたいに連続して同弾が続く、思いもしない間に5発の弾を撃ち尽くし、標的を見ると、驚くことに弾痕は1個しか見あたらない、ありがたや、かたじけなやと、柏手を打って東方に一礼する。
これは普段の善行の賜か、はたまた信心の賜か、遂に日本人としては前人未踏の快挙を成し遂げたりと、八百万の神に感謝しつつ静かに射座を降りる。

果たして結果をと、表示板に駆け寄ると、ななななんと、それがしが、なななななんと、3位にランキングされているではないか。
これは著者の私が驚くべき所ですが、どうか皆さんも私以上に驚いて下さい。これはあってはならないことなんですから。
あってはならないことが起きるのがベンチレスト射撃です。
私は、単なる一つの射群でしかありませんが、遂に日本人として初めてワールドカップで3位にランキングされたのであります。ところが冷静に考えると、最初の回はワームアップと言って、ベンチレスト射撃特有のお約束事で、ワームアップは成績の対象にはしないことになっているのである。

あっ、3位だっ
あっ、3位だっ

嘘だろ~って叫んでもむなしかった・・・・・・・・・・・
私は、これからの射撃の運を、いや、人生における全ての運をこの瞬間のために全て使い果たした。そう感じた・・・・・・・・・・・・
例えそれがワームアップであっても、私はワールドカップで、瞬間的かも知れないが、3位に入ることで人生における全ての持ち点を失ってしまった・・・・・・そう感じた・・・・・
事実、その後の5回の射撃で、最初の3発は文字通りの同弾で、後の1発、あるいは2発が、信じられない所に飛ばされると言うアクシデントに毎回見舞われた、風のせいとしか考えられないアクシデントなのだが、原因は今もわからない。
私は、未だに最初に自分の持っているラッキーポイントを全部使い切ってしまったためだと今でもそう信じている。
200ヤード、ライトバーミントの成績は以下の通りである。
39位、上野選手、41位、不肖築地、47位、平澤選手、48位、湖東選手、72位、川村選手、77位、清水選手、記録では78位、宮川選手となっているのだが、彼の名誉のために説明しておくと、彼はこの日は参加していないのである、この日の朝、大会が終わるまで帰らないと言い残して、ニュージーランドの何処かに旅立ってしまったからである、如何なる理由によって旅立ったか、私は知らない。

試合が終わって、我々日本選手団はネルソン市内のCUT(カット)と言うレストランになだれ込んだ。
さんざんワインを飲んで、ラムを食べて盛り上がっていたら、お店のお客が「これ、貴方達でしょう」と言って新聞を持ってきてくれた、新聞を見るとなんと! スポーツ紙の一面に我々の写真が出ているではないか! そういえば射撃場で、新聞社のカメラマンが色々と写真を撮っていた、(新聞取材)の画像を見て貰えば解るが、カメラマンが選手を撮影しているこの写真はオーストラリアの選手がベンチレスト射撃の世界新記録をマークしたので、その取材のための撮影である、当然にしてこちらの方がニュースとしての扱いは大きくなるのが当然なのに、世界新記録達成の記事は白黒写真で扱いも極端に小さい。

新聞取材
新聞取材

しかしながら紙面のトップを飾ったのは・・・・・・・・何と、我々だった。
カメラマンは会場で何十枚という数の写真を撮影していたが、他の写真は全部"没"扱いだったらしい。新聞社のデスクはどんな写真もあまりニュース性がないと感じたのだろう。

しかしながら、日本人がニュージーランドに来て射撃をする、それほど我々の事はニュース性が有ったと言うことである。日本人はゴルフとパチンコしかしないと外国では思われているのかも知れない。スポーツ紙の一面トップの扱いなので、ここニュージーランドでは、我々はイチロー並みの扱いである。

新聞に写真が!
新聞に写真が!

そういえば、前日、全ての選手が集まって射撃場の隣のゴルフクラブでパーテーが行われ、我々日本選手団は、フランス領ニューカレドニアの選手達と一緒に、わざわざ遠いところから来てくれてありがとうと言う事で、ニュージーランド射撃協会から記念品をいただいた、私はこの原稿を書くためにパーテーには欠席したが、日本でベンチレスト射撃をやっていると言うことは世界的な視点で見ると、なにやら大変な事をやっていると言う評価らしい。だんだんそういう事が見えてきた。
たとえば今日、会場でわざわざアメリカのトニー、ボイヤー選手が私の所に来て、ベンチレスト射撃で解らないことが有ったら、何でもEメールで聞いてくれて言って、名刺を渡してくれた、トニー、ボイヤーと言えば、この世界では伝説的な射手である。
しかし、決して愛想の良い方ではなく、日本選手の中には過去の大会で挨拶しても返事をして貰えなかったと言う射手も少なくない、到底ベンチレストの事を教えて下さい等と言える雰囲気ではない人なのである、それがわざわざ自分の名刺を持ってきて"何でも聞いてくれと"言われたときは、この人、愛想は悪いが、本当はいい人なのだなと思えた。
そして、アメリカで開催された第4回ワールドカップ大会参加から4年を経過して、やっと我々も世界で認知されたかと言う想いがよぎった。


大会4日目、200ヤード、ヘビーバーミント競技

大会がここまで進んで、我々日本チームは箸にも棒にもかからない状態でいる。こうなると楽しみはランチタイムと言うことになる。ランチには毎回色々な肉を焼いて、それでパンに入れてくれる、初日はビーフ、2日目はラム、3日目はチキン、4日目はポーク、と言う具合である、こちらで食べるラムは全く臭みがない、牛肉と間違いかねないおいしさである。大会のレポートを書いているのにこうしてランチの事を書かなければならないのは誠に残念ではあるが、唯一の朗報と言える出来事は、第1射群で、湖東選手が6位になったことである、いずれにしても私と同じであくまでも瞬間記録なので最終結果はいつものとおりとなる。そのいつもの結果は以下のとおりである。
48位、不肖築地、49位、湖東選手、58位、平澤選手、62位、上野選手、70位、川村選手、76位、清水選手。

ランチタイム
ランチタイム

大会5日目、200ヤード、ヘビーバーミント、10発競技

この試合は1個の的に5発撃つ競技ではなく、10発の弾を撃ち込んでそのグルーピングを競う、従って撃つ弾数が多く、射撃開始時間が30分早められた。

1射群、2射群、と撃っていく内に思いがけない奇跡が起こった、なんと、2射群で私がトップになったのである、読者の皆さんはすでに私が3位に入った時点で、強制的に驚いて貰いましたが、今回はもっと驚いてください!
瞬間的といえども、トップを極めたのです、その瞬間には確かに私は世界一になったのです。

遂にトップに
遂にトップに

何時の瞬間か解らないが、確かに、何かが私の頭の中でひらめいた。
長年考えていた難問が初めて解けた様な気がした。
それは、風の読み方である、今までは風を読もうとしていた、風を読むなんて人間の慢心以外の何物でもない。風を読むのでは無く、風に聞くことだ!
この事についてもう少し要点を詳しく説明しよう、この事こそベンチレスト射撃の秘伝とも言える、誰も教えてくれなかった事で、私自身、この事を理解するまで何年もの時間が過ぎてしまった。

射座
射座

射座に着いたら風の流れを確認し、今、吹いている風、あるいは自分の好きな風の時に試射的に1発撃ち込む、それが何処にあたってもかまわない、しかし、無風の時には必ず狙点に命中するように調整してある銃で有ることは絶対に必要な事である。
試射の弾が何処に当たってもかまわないので、風が変わらない内にそのまま本射に入る、風が変化しない間に出来るだけの弾を撃つ、しかし風の変化が起きない内に5発の弾を撃ち尽くすのは現実問題では出来ない、風は常に変化している。
風の強さが変わり、風の方向が変わったときは、直ちに試射に戻る。試射をしてその変移量を見る、風が変わらない間にその変移量を見越して狙点をずらして撃つ。
これだけである。これこそが秘伝である! 今までに技術書を見ると、この風の時にはこれくらい流される、如何に風を読むかと言うことが書かれていたが、風を読むなんてとんでもない事である。風に聞くこと。これが秘伝中の秘伝である。

ついでにもう少し補足すると、一定の風が吹いているときに、風が弱くなるときがある、つまり風が息をついて、この時はこれから風が変化しようとする時である、この瞬間には悪魔が住んでいる、この時に撃つと、狙いとおり命中することも有る変わりに、信じられないところに吹き飛ばされる事がある。
風が変わる瞬間は風旗では見えない風が何処かに潜んでいると考えた方がよい。

射座
射座

私は最終日の試合の2射群目でトップを引いた事は書いたが、実を言うと、次の回はさらに良いグルーピングを撃っていた。
10発競技であるが、5発よりいいグルーピングであった。このまま行けば前のシリーズよりもさらによくなる、またトップになれる、そう思った。
9発目を撃ち、最後の弾を撃つとき風は弱まり、無風に近い状態になった。風が変わる瞬間だ、本来ならばここで試射に戻るべき所だが、9発同弾を撃っていて、無風に近いので狙ったとおりに当たるはずである。それに、今の俺は"ツイテイル"そう思った。
その時、私の耳元で悪魔が囁いた、「そのまま撃っちゃいな!」
私は弾痕の真ん中を狙い、"タン"と軽い音を残して引き金から指を外した。
会心の射撃であった、完全に命中したと信じていた・・・・・・・・・・・
スコープを覗くと体が凍り付いた! 完全な同弾だと信じた的の、右2インチの所に小さな弾痕が見える、虫なら動いてくれて念じた、弾痕は動かなかった。
頭の中がホワイトアウトした!
風のせいであることは間違いないのに、見ると、風旗は動いていなかった。
風に聞けばよかった・・・・・・・
風を読んでやると思った自分がいけなかった・・・・・・

最終結果は29位に終わった。
しかし、私は試合で勝つことよりも多くの教訓を学んだ。
風を読んではいけない、風に聞くことだ。
そう思った瞬間、ネルソンの風が心地よく頬をすり抜けた。


追記

ネルソンでの最後の夜を我々はホテル内のスシバーで過ごしていた、そこに同じホテルに宿泊している、アメリカチームの選手が来た、手を上げて呼び寄せ隣の席に座ってもらい、色々と話が出来た。以下その要約です。
川村選手が、私はネックターニングの極限まで極めて千分の数ミリの精度を出しています、と言うことを通訳してくれと言ったが私は通訳をお断りした、何故なら、私自身は常々それが命中精度に関してそれ程は重要な要因ではないからと考えているからである、私自身の理論からすると納得していない。そのかわり別の言い方で聞いた、貴方達はネックターニングするときに、手でやっていますか、それとも電動工具を使っていますかと言う聞き方をした、機械でやると千分台の寸法までコントロール出来るが手の加工だとせいぜい100分台でしかないからである、答えは手でやっていますと言う答えである、つまり、ネックターニングはあまり重要視していないと言うことである。
逆に我々が聞かれた、貴方達は何回薬莢を使っていますか?
川村選手が答えた、15~20回です、アメリカチームの選手達は顔を見合わせ、r
両手を広げ、肩を持ち上げ、口をへの字に結んだ。アメリカ人がコメントしにくいときに見せる仕草である。
私が聞いた、「多いですか?」
アメリカ選手が答えた。多すぎる! それも異常に多すぎると!
アメリカ選手は言った、我々はせいぜい薬莢を使うのは2回だよと。
驚いた!意外な結果であった。千分の数ミリまでネックターニングを極めた、ネックターニングの巨匠、K君は驚きのあまり、血が逆流したかも知れない。
K君は薬莢を20回ぐらい使っているのでは無いだろうか。
それはネックテンションをいくら厳密に作っても、薬莢の使用回数が多いと、薬莢自体の材質が堅くなり、それにより、逆にネックテンションが変化するではないかと言うのが彼らの言い分である。
確かに、試合中にK君の薬莢はネックから切れ、残りが薬室に残り、次の弾が撃てない。時間が無い、K君はチャンバーブラシを取りに走る。何とか間に合ったが、薬莢が切れた瞬間は、K君の頭も切れたのでは無いかと思った。
いくらネックターニングの精度を競っても、日本で誰もネックの硬度に言及しないのは絶対におかしい、ネックターニングに関して神懸かり的な精度を求めての悪いことではないが、使用回数が増すごとに硬度が高くなる真鍮の特性を無視して、寸法精度だけを追いかけるのは意味がないと言う理論には返す言葉が無かった。
それと、貴方達はランドタッチしているのかと言う質問に対して、我々はランドタッチをしていないと答えると、ほんの僅かでもランドタッチした方が良いと言うアメリカチームの答えである。これも我々の常識と逆の考えだ!
その理由は、ネックターニングを幾ら正確にしても、使用回数が2回以上になると、薬莢のネックの堅さが堅くなり過ぎ、抜弾抵抗がバラバラになるとのことである。
それならばほんの僅か、ランドタッチさせた方が、抜弾抵抗はかえって安定しているとの話である。
つまり、ランドタッチの抵抗の方が大きいため、ネックターニングの誤差が有ってもうち消せると言う事である。つまりネックターニングの誤差など取るに足らないと言うことである。でも、と、私は食い下がった。ランドタッチさせると、何らかの理由で装弾を抜くときに弾頭が薬室に残り、火薬がこぼれて、その火薬が薬室や引き金に入り込み、撃てなくなるではないですかと聞いたら、弾頭を抜くときは銃口を上にして、ソーットボルトを引くと、火薬は一切こぼれないでエジェクション出来ると言われて、成る程と納得出来た、これこそ全くコロンブスの卵だと思った。
我々は、装弾を抜くときは必ず銃口は標的の方向に向けておくべき物と考えていたが、よく考えれば、ボルトアクションライフルの場合、ボルトを起こせば絶対に激発する訳が無く、その時点で銃口を上に向けてボルトを引けば、仮に弾頭がランドタッチして、弾頭が抜けても薬室に火薬をばらまくことは無い訳である。
今まで、なんで気付かなかったのだと思った!
これで我々の世界観が180度、急展開した。
明日から、ランドタッチOK、ネックターニングは重要で無いとの結論が出ました。
薬莢の使用回数はせいぜい2回です。
今まで私のHPを読んでいただいた皆さん、今日から頭のスイッチを切り替えて下さい。

"パチン" はい、私自身はOK、切り替え完了です!

今日から私、私、築地はベンチレスト射撃に関してのテクニカルな質問には、今までの定説と逆のことをお話しする事になりますが、これは私の頭の回線がおかしくなったからではありません。

ではネルソン市から"グッダイ"・・・・・・・・

ベンチレスト世界選手権にて
ベンチレスト世界選手権にて

更新 2001年11月13日

追記の記事中で、私は薬莢の使用回数はせいぜい2回と書きましたが、K教授から、アメリカの選手はそんなに沢山の薬莢を持ってきていなかった、また2回で廃棄しているのを見なかったと指摘を受けて、早速トニーボイヤーさんにメールを出して事実関係に付いて聞きましたところ、以下のような返事が来ました。

"アメリカの選手で2回しか薬莢を使わないと言う人は知らない、普通の射手は15回くらいは使う"

との返事を貰いました。従って薬莢を2回しか使わないと言ったアメリカの選手は、酒を飲んでいる場だったので、単なる冗談で言ったか、さもなければ、その選手だけが2回しか使わなかったと言うことでしかありません。

また2回しか使わないことで命中精度が向上するという合理的な理由もありません。

またランドタッチも、アメリカの選手が言ったからと言って必ずしも正しいと言うことにはなりません、アメリカでもランドタッチさせている選手もいればさせていない選手も居ます、私自身はランドタッチさせていませんし、これからもランドタッチさせないで使います、それはランドタッチさせない方が、より初速が出るからです。

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