銃床素材に付いて - パーツ&アクセサリー

2000年 1月 4日 築地

銃床に使われる材料はクルミ材です、クルミ材は多くの木材の中でもっとも粘りがあり、木質も緻密でなおかつ非常にきれいな木目をしています、日本にもクルミ材はありますが木の色は白く木目も綺麗ではありませんので使われるクルミ材料は100%輸入された物です。
クルミ材は大きく分けるとイングリッシュウオルナットとアメリカンウオルナットに大別する事が出来ます。
イングリッシュウオルナットと呼ばれる種類は木質が緻密で木目は繊細ですが育ちが遅い木材です、アメリカンウオルナットは木質が荒く木目も緻密ではありませんが育ちが早いのを特質とします、日本ではイングリッシュウオルナットの事をフランスクルミと言う名称で呼んでいますが、勿論フランスで産出されるわけではありません、だからと言ってイギリスで産出される訳でもありません、たぶん昔から最高級の散弾銃を作成してきたイングリッシュガンからその名称が由来してきた物だと思います。

これらイングリッシュウオルナットの最大の産地はトルコです。
恐らく何百年も昔はヨーロッパ中にこれらの材料はあったと思いますが先進国ほどその伐採が進んで最初に材料が枯渇したのだと思います、従って現在残っているのはトルコだけと言うことになります、クルミ材料は寒い地方で産出された物でないと育ちが良すぎて道管が荒くなります、熱帯地方の木代であるラワンなどと比較されるとおわかりいただけるでしょうか。
最良の銃床材となると樹齢は100年を越さないと良い銃床材料はとれません、最低ランクの銃床材なら30年程度で使えますが、最良の銃床材料となると樹齢は1000年を越します、1000年を越すような材料になると木材自体の重量が非常に大きくなるため、木の下端の部分には相当な何トンと言う相当な重圧がかかっています、そのため緻密な木質はさらに圧縮され木目はさらに繊細になります、若木の内は木の目は真っ直ぐに成長しますが、木の重量が増大するとその重さのために根本の部分は波状にうねるうねりながら上に伸びることになります。そのため銃床材料として切り出したときに、その表面が虎目として浮き上がることになります。虎目の銃床材は100年程度の樹齢の木で認められますが木質が特に緻密で木目が入り組んでいる物は数百年、あるいは1000年以上の樹齢がある材料から作られています、イングリッシュウオルナットの場合、薄い黄色い地肌に黒のグレインの入った物がありますが、こうした材料は数百万する銃の材料に使われます。
こうした最高級の銃床材料を使っているのは、ブローニングのDグレードの散弾銃、またはベレッタのSO6の最高級モデルだけです。こうした材料が最高級で虎目はありません、虎目があるのはこれらの銃よりワンランク下の銃に使われています、日本では虎目のある銃床は最高級との見方がありますが、決して最高級ではありません。
最高級の木目として根っこの部分だけにみられるバードアイと言われる部分の材料があります、ここの部分はほぼ根の部分で成形されており、木質はパイプの材料として使われるホワイトヒースと同じように小さな渦の集合でできています、その渦の一つ一つが鳥の目の様に見えるのでバードアイと呼ばれています、カエデなどの木でもバードアイはありますが、これはあまり高い材料ではありません。
ウオルナットのバードアイの方がはるかに高級品です。
オールトリアのフェラッハで作られるダブルライフルの材料は伝統的にバードアイの材料だけが使われています。残念ながら日本ではこれらの材料を使った銃を使っている人は今まで見たことはありません。

現在一般的な銃に使用される銃床材料の大半はアメリカンウオルナットです。
現在は作られる銃にはウオルナット以外の材料は全く使用されていません、昔の日本軍の38式にはクルミ材ではなく桜が使われました、ソ連の銃には白樺、フィンランドの銃にはカバの木が使われ、ドイツの98kはクルミの合板が使われました、美的な一面を無視するならこれらの材料も使えますが、クルミの持つ独特な色合いは、残念ながらいずれの材料では再現することは出来ません。
参考までに言いますと日本の火縄銃に使われているのは樫材です、関東の火縄には白樫、関西の国友、堺などの火縄には赤樫が使われています、樫も強いのですが以外と割れに弱い材料です。
話を戻しますが、銃床の色は塗装で色付けされている物だと思っている人もいますが、あの色はクルミ独特の色なのです決して染料を使っている訳ではありません。
きわめて安物の銃の場合、銃床に染料を塗って色をごまかしているメーカーもありますがこれらの銃床の場合、銃床を削ると色が変わります。
量産される銃に使われるアメリカンウオルナットの材料はあまり木目の入り組んだ材料は使われません、最大の理由は値段が高いことですが量産する場合は不都合が多いのです。
銃床はコピーマシンと呼ばれる機械で外形が作られます、アルミで出来た型を通りに回転している刃物が材料を削り上げていきます。この際木目が入り組んでいると逆目を削る事になるので銃床が割れることがあるのです、ですから木目は出来るだけ素直な物が量産向きなのです。
銃床は出来上がると塗装されます、使われる塗装はほとんどがウレタン塗装です。
塗装の場合、最初にレタンシーラーが塗られ、レタンサンジングシラーが重ねられ、最後にクリアーで仕上げられます。塗装の種類を変えるのは木材との定着性をよくするためです。
中にはつや消し仕上げで塗装される銃床もありますが多くの方がこれはオイル仕上げだと誤解される方が多いのですが、オイル仕上げまがいの銃床はレタンシーラーをしみこませてあり、いわば塗装を2~3ミリ奥の方まで浸透させて奥で硬化させてあるので表面にいくらオイルを塗っても何の効果もありません。
本当のオイル仕上げの銃床は表面にオイルを塗っておくと染みこみますので判断できます。
オイル仕上げの方法はひたすら時間との勝負です、使用するオイルはボイル油といって画材やさん等で売っていますので買い求めてください。ボイル油は黄色い沈殿物がある物が最良です、この沈殿物は松ヤニでして銃床のつや出しに効果があります。
オイル仕上げは単に油を塗るだけではだめです、蒲鉾板に1500番~2000番の耐水ペーパーを巻いて油をつけながら銃床を研ぎ上げるのです。
そうすると塗装仕上げでは得られない非常に美しい表面を作り上げることが出来ます、耐水ペーパーで研ぎ上げる理由は、研ぎ上げる行程で出る微細な木のパウダーを木の道管に塗り込むことが目的です、そうすると表面が非常に綺麗になります。
お試しください。

銃床の寸法について
よく質問される事なのですが、その銃床は日本人向けに作られたのですか? と聞かれる事があります、この質問が一番回答に窮するのですが、これは一部の業者が "当社で輸入する銃は日本人向けに特別に作ってある" というコマーシャルトークを流しているのが原因だと思うのですが、残念ながらどこのメーカーも日本人向けと言う銃は作っておりません。勿論輸入元は独自のスペックの銃床を特注で作らす事は可能です、しかし、日本人の寸法と言っても一体身長がいくつ、体重がいくつ、年齢がいくつの人を対象にしているのか、肝心な輸入元からその基準サイズは未だに公表されたことはありません、もしそういう基本サイズが存在するならば、逆にそれ以外のサイズの日本人は全部サイズが会わないと言うことになってしまいます。
ペラッチでも基本サイズは4種類あり、1種類の銃床を以して、これが日本人向けに作られた特別の銃床と言うのはあまりにも現状を無視した話です、同じ日本人でもいろいろなサイズがあると言うのが本当だと思いますがみなさんはいかがお考えでしょうか?
銃床サイズについてもう少し話を続けますが、日本のミロク製作所はブローニングの散弾銃を生産しており、ミロク製作所で制作する90%の散弾銃はブローニングのブランドで海外に輸出されております。
同じくSKBもウエザビーブランドの散弾銃を制作しており、これまた90%以上を海外に輸出しております。
そして両社とも10%以下の銃を国内で販売しております、両社の技術担当の人に一度聞いてもらうと簡単にわかると思いますが、"国内で販売される銃は日本人サイズになっているのでしょうかと?" 答えは同じ物を販売しておりますと言われるはずです。
しかしながらペラッチは日本人向けに作られていると、何のためらいも無く話している射手、銃砲店の人がミロクの銃は外国向けと同じサイズだと言うことには全く気づきません。しかしこれは当たりまえなのです。
それは元々日本人サイズの銃と言う物が存在しないからなのです。
銃床のサイズは国によって決まるのではなく、それぞれの体型によって異なるという基本的な事が解らないからなのでしょう。

銃床の寸法の決め方ですが、一番確実なのは実際に銃を構えてもらって目視で判断するのが最良ですが、お客さんが自分自身で最良の寸法を判断するのはかなり難しいと思います。
特にビギナーの場合は判断に迷うところです、ではベテランに聞けばどうかと言いますと結構いい加減なベテランが多いのでこれまた下手にアドヴァイスをもらえないと思います。
一般的に言われていることに手の長さとプルの寸法をあわせると言う事がありますが、実際にはこの寸法から1~2センチ長い寸法が良いのではないかと思います。
それと絶対やってはいけない事ですが、銃砲店で的を撃たずに構えだけで "使いやすい" 寸法にしないことです、これだけはよく覚えてください、使いやすい銃がよく当たる銃ではありません、むしろ少し長めでちょっと長いなと感じる程度の銃が一番よく当たるはずです、使いやすい銃は銃身が走りやすい、流れやすい銃になり決して当たり易い銃になるわけではありません、ライフル銃の場合は使いやすい銃は引き金を引く瞬間に銃口が動いてしまう可能性が高いのです。
銃砲店で銃床の長さを合わせて"これならイケル"と喜んで射撃場に行って思いの外当たらないと言うのはほとんどそれが原因です。
勿論短すぎる銃床はかなり悲惨な結果を生むはずです。 

実は私は20年前、アメリカでガンスミスをしているとき、多くの特別注文の銃床を作る仕事もしていたので、普通の人よりはいくらか銃床には詳しいと思います。 

ブランド
カテゴリー
ページの先頭へ