引き金について - パーツ&アクセサリー

2000年 1月16日 築地

引き金について書くと、散弾銃の場合は散弾銃の引き金だけ、ライフル銃の引き金の場合はライフル銃の事だけ、書くのが今までのスタイルです。
私は最もデリケートな競技用拳銃の引き金からから銃器の中では最悪とも言える散弾銃銃の引き金まで今まで色々な引き金をチューニングしたり、そして実際に作ったりしてきた人間ですから、このコラムでは今まで誰も書かなかったすべての銃器の引き金について説明してみましょう。

あらゆる銃器の中で最も繊細で最も軽いのは競技用のフリーピストルの引き金です。
固定的を撃つ射撃競技の場合、一番銃口が振れるのはピストル射撃です、そのため激発のチャンスはほんの一瞬しかありません。またピストルの場合、引き金に力を加えると簡単に銃口が振れてしまいます、そのためフリーピストルの場合極限まで引き金のウエイトを軽くしています、その引き金ウエイト、わずか15グラムです。もっと軽くしようと思えばまだ軽くは出来ますが現状ではこの位で使っています。
引き金を15グラム以下に調整すると、ピストルの銃口を上に向けただけで、引き金の自重だけで激発してしまいます。いくら軽くできても15グラム辺りが限界でしょう。
この15グラムの引き金でもしばらく使うと重く感じてくるから人間と言うのはまことに不思議です、こんな引き金を使っていても、もう少し軽いととか、もう少し切れ味がいいと、とか色々考えてしまいうのが人間のエゴと言う物でしょうか。
実は、引き金を軽くするというのはそれほど難しい技術ではありません、一番シンプルな散弾銃の引き金の場合、ハンマーを止めているストッパーを直接引き金力で外して激発します。引き金としてはこの方法が一番お粗末というか、一番シンプルなシステムです。
ハンマーの重さを直接引き金自体で受ける場合、必然的に重さも、ストロークも長くなりますが、シェアーを一つ介在させると、それだけでかなり軽い引き金にする事が出来ます。
原理を図面ではなく、文章で説明するとかなりの難しさを感じますが、引き金の間にもう一つ引き金を組み入れるような物です、フルーピストルの場合、そのシェアーが5段階に出来ているのです。
つまり15グラムの引き金を引くと、最初のシェアーがはずれて、それが外れると次のシェアーが外れ、その次、その次、その次と段階的に外れ、最後にハンマー自体が外れて激発します。メカ的には、カチャ、カチャ、カチャ、カチャ、カチャ、ドッカ~ンと言う具合になります。勿論ロックタイムは長くなりますが、5/1000程度長くなるくらいの物でしょう。
ロックタイムの事にも少し触れておきます。
ロックタイムと言うのは引き金を引いてから激震がプライマーを叩くまでの時間です。
昔、計測器を作り色々ロックタイムを計測したことがありますが、ロックタイムを短くするためにハンマースプリングを強くすると、ロックタイムがかえって不安定に成ることが解りました。
そのほか、現在国体種目として使われているビームライフルの試作をしたときに、ビームライフルは電気的に信号を送れますので、ロックタイムはいくらでも簡単に調整できるんどえすが実験の結果、ロックタイムを0にするとかえって成績が悪くなることも解りました、射手は無意識でロックタイムを計算し、将来的に銃口が狙点に行くであろう事を予測してその事前に引き金を引いているのです。この事からしてロックタイムを短くすることはあまり意味が無く、それよりも安定したロックタイムで激発できる銃の方が遙かにすぐれているのです。
また散弾銃の引き金の話に戻りますが、散弾銃の引き金でもこうしたフリーピストルの引き金メカを導入すれば簡単に切れ味の良い、軽い引き金を作ることが出来ます、何も5段階のシェアーを組み込まなくても、1段階の物を組み込んでも相当軽くできます、しかしあまり意味はありません、射撃を3~5年くらいやると、えてして引き金をいじくる人が多くなります、こういう人は引き金を直せばもっと当たると勘違いしているのです。
引き金の引き味は良くなりますが、成績には何の関係もありません。
もし引き金を直すだけで成績が良くなるなら、散弾銃のメーカーがとっくの昔に、この引き金メカを採用しているはずです。
それをやらないのは、散弾銃の場合やってもあまり意味がないからなのです。
その理由は後で説明します。

フリーピストルのカチャ、カチャ、カチャ、カチャ、カチャ、ドッカ~ンと言うメカに変わり、最近では電磁石を利用したエレクトリックトリッガーが最近ではフリーピストルに使われています。
これだとメカ的な物と比べるとロックタイムが早くなりますし、それに作るのもより簡単に出来ます。昔、ライフル銃でもエレクトリックトリッガーが売り出され、私もいち早く試した事がありますが軽すぎて使い物に成りませんでした。
何故使い物に成らなかったのか、エレクトリックトリッガーについて説明します。
ピストルと違い、ライフル銃のグリップはある程度の力で保持しています。
肘の高さが上がっているとグリップには力が入っています、肘が下げるとグリップの力を少し弱める事が出来ます、これはライフルだけでなく散弾銃でも同じ事が言えます。
しかしエレクトリックトリッガーを使うと、あまりにも引き金が軽いため、グリップをしっかりと保持することが出来なくなります。そして色々試行錯誤した結果結局軽すぎて使えないと言うことがはっきりしました。
散弾銃の引き金が、何故そんなに軽くできていないのか、その意味もここにあります。
散弾銃の場合、ライフル銃よりもグリップはしっかりと握ります、そうしないと銃を振り回す事はとても出来ません。
引き金を軽くすると、グリップがしっかり握れなくなるのです。そのためにあまり軽くしないのです、ですから、高い散弾銃を持っている人が、この銃は特注だから引き金が軽いとか言っているのをみると思わず苦笑してしまいます、勿論メーカーはセールストークで、高い銃を売るのですからそれくらいのデタラメは平気で言うと思います。
特にイタリア人は平気でそうしたことを言いますので、木訥な日本人は簡単にコロリと騙されてしまいます。
今でも人によってはコイルスプリングは切れ味が悪く、松葉バネは切れ味が良いとか、そういう事を平気で言う人が相当いますが、切れ味はハンマーとシェアーの相互関係で決まります。ばねの形状ではありません。
あくまでも引き金の重さはハンマースプリングとトリッガースプリングの相互関係できまります。ただそれだけの話です。

ペラッチの場合、値段の安いMX5はコイルスプリングを使っています、値段の高いMX8は松葉バネを使っています、しかしそれよりももっと高いブローニングの最高グレード、Dモデルはコイルスプリングを使っています。
スプリングとしては松葉バネは強く、コイルスプリングは折れにくいのを特徴とします。
数ある散弾銃の中で一番強いハンマースプリングの銃はメルケルです、何故メルケルのスプリングが一番強いのかと言うと、メルケルはかって共産圏であった東ドイツで作られていたからです。
え??と言われると思いますのでその説明をしてみましょう。共産圏の火薬製造技術は劣悪です、火薬の燃焼特性は悪いし、雷管は不発だらけです。
特に先進国で作られた銃に共産圏で作られた装弾を使うと酷い事になります。
撃つ弾の1%~10%は不発です、しかしそれらの腐れ弾を確実に撃つには並はずれた強力なハンマースプリングが必要なのです。
そのため東ドイツで作られていたメルケルのハンマースプリングは異常に強いのです。
私の持っていたメルケルではいかなる腐れ弾でも100%確実に激発出来ました。
その代わりスプリング折れはかなり頻繁に発生します。メルケルを使うときはいつも予備のスプリングが欠かせませんでした。
共産圏は論外ですが、西側でお粗末な弾を最後まで作って居たのはイタリアです。
私のFNでイタリアの弾を撃つと、共産圏の弾と同じ程度の割合で不発が出ました。
そのイタリア製のペラッチですからイタリアの弾を不発なしで使うにはペラッチは松葉バネを使わざるを得なかった、というのは私の考えすぎでしょうか?
しかし、最近ではイタリアの装弾も劇的に改善されました、それはアメリカ、日本などの資本や技術が導入され、火薬やプライマーが相当改善されたからです。
つい数年前までイタリアの火薬は威力の弱いシングルベースの火薬しか作れなかったのですが、最近はダブルベース火薬を使っている装弾が多くなりました。
最近発売されたレミントンの弾は、なんとイタリア製ではありませんか、しかも使うと火薬は十分なパワーがあり、間違いなくダブルベースの火薬が使われています、プライマーもその硝煙の臭いで、アメリカの火薬と同じ成分です。
イタリアの技術もここまで出来るように成ったのです、メーカーブランドを注意してみると何とデオニスと同じメーカーが作っています。デオニスには日本の技術も入って居るはずですのでこうした改善された弾が作られるようになったのです。
勿論雷管も劇的に改善され、私のFN-Dで使っても最近のイタリア弾は不発は1発も出なくなりました。(これはレミントンブランドの弾をデオニスしかテストしていませんが)
それに併せてペラッチもコイルスプリング対応のMX8まで作られるようになりました。
MX-8Bはコイルスプリングを使ったMX8です。

もう一つコイルスプリングの利点は、折れにくいと同時に、折れても一時的な使用に耐えると言うことです。松葉はその構造上折れればその瞬間から弾性は無くなりますが、コイルスプリングの場合、もし途中で折れても、弾性は弱くなりますが、スプリングの弾性が全く無くなるわけではありません、折れたとしても、要は短いコイルスプリングが2本入っているのと同じ事なのです。
兵隊の命のかかっている軍用銃の場合、ライフルでも、拳銃でも、松葉バネを使用した銃は絶対に存在しません、機関銃でも、戦車でも、戦艦でも、潜水艦でも、戦闘機でも松葉バネはどこの部品にも使いません、それはなぜだか、すでにお解りですね?

さてまた引き金の話に戻ります、今度はライフル銃の引き金です。
ライフル銃独自の引き金としてセットトリッガーがあります、引き金を引く前にセットトリッガーを引いてセットすると、引き金が軽く引けるシステムです。
これは最新の技術だと思ったら大間違いです、このシステムは銃が発明されるズーット前から存在したのです。
それはクロスボーに使われていたのです、あのクロスボーの弦はとても人の力では引けません、そのため梃子を使い弓をかけるのです、手でかけられる物はオモチャのクロスボーです。それほど強力な弦ですから当然引き金にも相当な力がかかっています。
通常に使ったのでは、ものすごく強い引き金になってしまいます、それでその引き金を叩くもう一つの引き金を組み込んだのがセットトリッガーなのです。
ですからセットトリッガーはムチャクチャ昔からあったのです。
セットトリッガーがヨーロッパでしか使われないのはそうした歴史的な背景があるからなのです、西部劇で使って居るのはみたこと無いでしょう!
で、使い勝手ですが、結論から言うとピストルグリップの銃には必要ありません。
その理由はグリップがしっかり握れないことと、もし軽い引き金を使いたい場合は市販されている、ジュエルやシーレンのマッチトリッガーの方がはるかに優れているからです。

シングルステージ、ダブルステージの事について説明してみましょう。
ライフル銃の場合、軍用銃は100%ダブルステージの引き金を採用しています。
ダブルステージとは引き金を引くと、最初に一定のストロークがあり、ある所から急に重たくなる所があります、そこからは少しでも引くと激発されます。
これは日本の軍隊でも予告式と言って射手に激発する瞬間を理解させるために作られた引き金で射撃専用銃も100%このシステムです。この引き金ならあらかじめある程度の重さを引き金にかけておくことができます、そして引く瞬間に指にわずかの圧力をかければガク引きをすることなく激発出来るからです。
散弾銃ではこうした構造はしておりません、なぜなら、ここと言うときに思い切りよく引き金を引かないと当たらないからです。

話は変わりますが、私は現在でも神奈川県のライフル銃の教習射撃指導員をしております、(実際の指導は10年前に引退していますが資格は保持しています)私はライフル銃の所持に教習射撃が義務つけられた昭和54年に最初に指定され、関東地方では私が最初に教習射撃を実施しました、そのときは誰もやって居なかったので私が講義内容、教習指導方法を作り最初に実施しました、関東で最初だと言う理由は、私が神奈川で実施した教習射撃を警視庁と千葉県警の警察本部から見学に来たので解ります、事実これが最初だと言っていました。
なぜこの教習射撃の事を話すかと言いますと、そのあと10年近く神奈川県で教習射撃を実施していく中で、散弾銃の10年経験でライフルの教習射撃を受験する人は、まず100%の人がガク引きをするため、これはライフルの世界では絶対にしてはいけないと口を酸っぱくして、徹底的に吹き込まなければ成らなかったからです。
ライフル銃の場合、ガク引きしたら絶対に当たりません。
散弾銃の場合、思い切りよく引き金を引かないと絶対に当たりません。

引き金の引き方、それどれの銃で全く違いますのでよくご理解ください。 

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