間違いだらけの銃選び(金属編) - 間違いだらけの銃選び

2003年 2月 9日 築地

昨日、間違いだらけの銃選びと言うコラムを書き上げましたが、この原稿を書け上げるために実は大変な思いをしました、疲労困憊と言う言葉はまさしくそのためにあるような言葉です、私はコラムの原稿はほとんど夜間に書いています、恥ずかしながら7時に就眠して12時に起床します、それから原稿を書くのですがいつもなら大体3時間くらいで書き上げます。
いつもの様にノートパソコンを使い、ほぼ原稿を書き上げたときに、如何なる理由か解りませんが、突然パソコンがフリーズしてしまいました。ほとんどの原稿を書き上げたときにパソコンがフリーズすれば、パソコンよりもこちらがフリースしてしまいます。
マウスも動きませんし、文書の保存は勿論、終了も出来ません。1時間くらい試行錯誤して色々トライしましたが万策尽きて泣き泣き電源を落としましたが、思った通りといいますか、予感が当たったと言いますか、悲しい事にチャンと再起動すら出来ません。
致し方なく、別のもう1台のパソコンで、また最初から書き直しをしました。
で、やっと書け上げたと思ったら、何と!何と!何と!
今度は文書が忽然と消えたのです、パソコンのフリーズは何度も体験していますので別段驚きはしませんが、文書の喪失というのは初体験です。色々ある初体験の中で、もっと色っぽい初体験ならまだしも、これこそは最も忌まわしい初体験です。
パソコンの使い方が・・・・・なんて事は言わないでください。
私はこれでもDOSの頃からパソコンは使っているのです、DOSの頃は間違って何度もハードデスクをフォーマットしてああああああああああ、なんてため息を漏らしは事は何度もありますが、文書の喪失は初めての体験です。

宣保愛子さんにお聞きすれば、きっと幼少の頃の呪われた過去、あるいは私に取り憑いている怨霊について的確な指摘を頂けるかも解らないのですが、悪霊払いをする元気も無いほど疲労困憊したのです。原稿を書き上げたときは夜の静寂が明け出す6時30分でした。
キャバクラ等に勤めている、おねーちゃんたちが酔っぱらって帰って来る時間です。
そういう忌まわしい体験をした後なので、本当はもう原稿は書きたくない心境ですが、"間違いだらけ"シリーズは一応2回の原稿で書く予定でしたので、元気を振り絞りまたキーボードを叩いています。
何とか、今日中に書け上げませんと、12日からショットショーに出かけますので、その後は原稿を書く暇が無いのです。別段さほど期待されている原稿でもありませんので、書かないで放棄しても良いのですが、突然の掲載中止となれば、警察に身柄を拘束されたか、自転車に轢かれたか、飲み過ぎで頓死したか、年の若いガールフレンドのマンションで腹上死したか、いずれもよからぬ噂が流れるであろう事を考えますと、こうして原稿を書かざるを得ない悲しい性なのです。

前回は銃床について書いたので、今回は金属部分について書いてみます。
私がガンスミスを目指していた1960年代は、銃の鋼材と言うとボラースチールこそが頂点と言う考えがありました、ボーラースチールとは、オーストリアのボーラー製鋼所で生産されている鋼材です、製鋼所の製品ですから色々な金属材料を生産しています。
しかしながら通常の粗鋼を作るのではなく、全て鋼(はがね)等に代表される特殊鋼ばかりでした。
当時からスエーデン鋼材と同じように語られる優秀な鋼材だったのです。
私の所持しているメルケルにも、そしてベレッタの水平のも、ボーラースチールと書いた刻印が打刻してあります、それも全モデルではなく、一応最高級品のみ打刻してありますので、当時としても頂点を極めた鋼材だったのでしょう。1960年代、私はガンスミスとしての技術的なバックグラウンドを、あるいはスキルを磨くため、"腕が良い"と呼ばれている町工場を何カ所も転々と修行して歩きました、修行が目的ですから、給料は要りません、と言う条件で町工場の社長にお願いして色々な会社を数ヶ月ずつ修行をさせてもらいました。
ある時、"腕が良い"と言う評判のプレス屋さんで修行していたとき、そこの金型材料がボーラースチールだと知ったのです。そこの金型は型保ちが良いと言う評判でしたので、仕事も多く、なおかつ金型の単価も高かったのです。ですから私がボーラースチールの優秀さを知ったのは最先端の技術を持っている町工場だったのです。
勿論、その工場が金型材料にボーラースチールを使っていると言うのはそこの会社の秘中の秘でした。
当時の特殊鋼は、金属を鍛造したままの外側に"黒皮"の付いている状態で売り買いされていたのですが、ボーラースチールだけは、チャンと表面が研磨され、その上に錆びないように表面をビニールで覆っている、いかにも高そうな鋼材でした、その町工場では入荷したボーラー鋼材のビニールをはぎ取り、それがボーラー鋼材だと解らないようにしていました。ですから私はその当時ボーラー鋼材は金型の材料だと認識していたのです。
ですから、後になって銃の刻印にボーラースチールと言うのを目にしたときは、それが高級銃の証だと簡単に納得できたのです。爾来、鋼材はボーラーが最高だと考えていたのですが、日本の特殊鋼メーカーの技術者の話を聞く内に、日本の鋼材も最高の物はそれに負けないと言うことを知りました。最近では何処の銃メーカーもボーラースチールと言う打刻をしなくなりましたので現在ではボーラー鋼材の優劣性は無くなったと解釈しています。何故、こうした事をくどくど書いたかと言いますと、巷では****の銃は特殊な材料を使っていると言って、疑いを知らない、いたいけないシューターを騙しているケースを見聞きするからです。金属材料がこれほど頂点を極めた中で、それをさらに超える金属と言うのは存在しません。銃器に使う金属材料は何よりも粘り強さを求められます。

皆さんはお気づきで無いかもしれませんが、散弾銃の自動銃で20年くらい前の物としますと、現在の物は銃身が軽くなっているのにお気づきでしょうか?
レミントン等は銃身にライトカウンター銃身(LC銃身)と言う製品を出しています。これは銃身の肉厚を0.5ミリ程度薄くして軽く作った銃身です。
これは鍛造の技術と鋼材の改良で、肉厚を0.5ミリ薄くしても従来の製品と同じ強度を保てる材料が出来たからに他なりません。
最近の自動銃は年々軽くなっていますよね、それはこうした技術改良がなされたからです、勿論使われている材料はクロームモリブデン鋼材であることは言うまでもありません。
現在の最先端の技術では、研究室レベルではありますが現在の4倍の強度を持つ鋼材も出来ています、ですから将来的にはもっと軽い鉄鋼製品が出てくることは容易に予想できます、****の銃メーカーでそれほど優秀な鋼材を使っているのであれば、軽い銃を作れば技術革新が容易に視認出来るのですが、大きな事を言う割には、普通の銃しか製造していないのには思わず失笑してしまいます。
聞いたことのない材料でも、強度は変わらないという事でしょう?
材料が違うと言えば、銃身材料にチタンを使ったと言う無謀なメーカーもあります。
私は航空機用のチタン材料を加工した経験がありますので断言できるのですが、チタンは思いの外もろい材料です、軽さの割には強いかもしれませんが、クロームモリブデン鋼材の様に粘りはありません、破砕するときは突然"パキッ"という感じで破砕します。
ですから銃身に使うのは論外です。
私が常々こうした事を書いていますので、それほど優秀なクロームモリブデンで作った銃身が、簡単に傷が付いたり凹んだりするのは何故ですかと聞かれたことがあります。それは熱処理によって銃身が一番柔らかく作られているからです。もし銃身が硬ければ、異常高圧の時には銃身は破砕せずに逆に機関部が破砕する事になります。機関部の破砕!それこそ深刻で重大な被害に繋がります。銃身は異常高圧が起きたら自らが膨らむことにより、高圧ガスを排除し、銃の崩壊を防ぐのです。ですから銃身は以外と柔らかく、銃口に異物があると簡単に膨らんでしまうのです、自らが膨らむことにより実は貴方の命を救っているのです。
先ほどチタンは"パキッ"と破砕すると言いました、破砕するのなら同じように銃の崩壊を防ぐのではと思われるかも知れません、しかし、破砕するとその破片が猛烈なスピードで飛散するのです。破片が小さいほど、そのスピードは猛烈です、小さな破片はマッハ4くらい出ているのです。そうした破砕の瞬間写真で破片が飛翔する衝撃波の角度を見ると簡単に速度が分析できます。
0.1グラム程の微細な破片でも、スピードが速いと簡単に皮膚に突入します。もしこれが眼球に突入したら大きな被害に及びます。ですから銃の部品は絶対に崩壊してはいけないのです、どんなに大きな力が加わっても膨らむだけでないといけないのです。
銃身にチタンを使うのは論外ですが、機関部の一部にチタンを使うのは問題はありません。
たとえば、ベレッタのシルバーピジョン等の狩猟用の上下2連銃は、機関部に軽合金を使っていますので、機関部のブリーチ面にチタンの板を張っています。これなどは賢いチタンの利用法です。またレミントン700ボルトアクションに軽量のチタンモデルがありますが、これはチタンを使っているのは機関部だけで、銃身は勿論、ボルトにもチタンは使っていません、こうしたところは粘りのある材料で構成されているのです。
ライフル銃の場合で言いますと、一番柔らかいのが銃身、その次が機関部、一番強靱なのがボルトです。これはそれぞれの強度を変えることにより、逆に安全性を確保しているのです。素人向けに****の銃の機関部は****鋼材を使っていますというのは、逆に異常高圧の時には、一番危険なボルト破砕が起きるのではとかえって心配になります。
"大丈夫です、銃身は市販の安物ですから"と言う答えが返ってくるかも知れませんがね。
だったら****鋼材は意味無いじゃん!と私は思うのですがね。

騙される人が居るから騙す人も居るのでしょう、しかし、銃器の世界では騙されるというのは当人の見識が無いと言うことですから、いくら高い銃を買っても、自慢できるどころか、かえって自分の無知を世間にさらけ出して居ることになります。

元々クロームモリブデン鋼材は、レアメタルみたいに超高価な材料ではありません。
ライフル銃の材料で、せいぜい1万円、上下2連でもせいぜい1万5千円程度の物です。いや、当社は2万円だと言うところがあったら、それはそれで訂正します。
でもね、5万円なんてところは無いですよ! 1000万円を超えるペラッチでも、ジェームズパーデイでもそうです。銃の材料と言うのはそんなに高い物ではありません。
多くの方がマグロの切り身と勘違いされているのでしょうか、赤身と、中トロと、大トロと、その位の値段差があると思われるかも知れませんが、銃器に関して言えば、材料の違いはないのです。少なくともマグロの切り身みたいな値段差はありません。
高い銃を買った皆さんにすれば、是非とも"違いがあって欲しい"と言う気持ちはわかります。一番自慢しやすいですからね。
でも、銃の値段差と言うのか工作技術の差だとお考えください。皆さんのひんしゅくを買うのを承知であえて白状しますが、私は身分不相応なのは重々承知で、ポルシェに乗っています。長期ローンで買ったので金利だけでも100万円しました、でも車本体が100万円以下の車と、何処が違うかと言いますと、少なくとも金属材料に関しては違いはありません、違うとすれば唯一工作技術です。
私は工作技術が優れている製品には、簡単にヘロヘロに降参してしまいますので、ポルシェのピストンとコンロッドをつなぐつなぎ目のクリアランスを手で実感した瞬間に参りました!こういうのには弱いんです、簡単に降参してしまいました!
車が動くと言うことに関しては、ポルシェでも100万円以下の車でも何ら違いはありません。物事の頂点を極めるとそれは最早美学の世界です、銃器の場合も美学です。
しかしながらそれは金属素材の違いではないのです。
唯一美学として語れるのは、加工工作の違いなのです、ですから間違っても、俺の銃は材料が違うからなんて無知な事は言わないでください、高い銃と安い銃の違いは唯一、加工工作にあります。違いはこれだけです。

それは何処の部分がどう違うのか、それだけは絶対自分で理解して欲しいと思うのは、無理な要求でしょうか? いいえ無理な要求ではありません、これから書かれていく私のコラムを見落とさないように読んでいけば、数年の内に必ず頂点を極められるはずです。

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