ミサイルの話 - コーヒーブレイク

2001年 7月22日 築地

このコラムは種々雑多な事を私が勝手気ままに書いている、別段原稿料をいただいて決められたテーマで書いているわけではないので、毎回実にお気楽な書き込みである。

さて、今回はミサイルのお話をさせていただく、実を言うと、ミサイルの特性は非常に弾丸の特性に似ている、そのため私の仕事とは全く畑違いでありながら、興味をそそられるテーマなのである、多くの一般の方が頭の中で描いているミサイルとは、戦闘機から発射されると何処までも相手の戦闘機を追いかけていく、と考えておられる方が案外多いので逆にこちらがびっくりする事がある。皆さんが映像などで戦闘機からミサイル発射のシーンを見られる場合、実は多くの場面がスローモーションを多用している、そのため多くの方がミサイルの速度は戦闘機より"チョット早め"程度に認識されているようである。
逆にその程度のスピードで打ちだされる以上、ミサイルは1~2時間くらい相手の戦闘機をどこまでも追いかけていくと、かなり誤解されているようである。
 しかしながらこうした皆さんの常識と現実は全く別物であると言うことをこれから説明していく。
ミサイルは、正しく機関銃の延長線上に開発された物である、初めてミサイルが実際の戦闘で使われたのは1958年9月24日、台湾と中国軍の戦闘である。
中国軍のミグ15,17,等に対して、台湾側はF-86セイバーに、アメリカ海軍が開発した空対空ミサイル、サイドワインダーを使用して29機のミグを撃墜して圧倒的な戦果を上げた。
サイドワインダーのスピードはマッハ2.5、射程は1~3キロである。
この初速は30口径のライフル弾頭と同じ初速である、最大射程もわずか3キロである。これで、ミサイルはほとんどライフル弾頭の世界と変わらないことがお解りいただけるであろうか。
最大射程が3キロと言うと、皆さんは3キロまではロケットモーターが燃焼していると思われるかも知れないが、実際は2キロくらいで燃焼がストップして後は惰性で飛翔すると言うのがミサイルの世界では常識なのである、実はミサイルを発射すると瞬時に最大加速をさせるためロケットモーターは燃焼と言うよりは爆発に近い燃え方をする、そのため多量の白煙を吐くのだが、ミサイルを撃たれたパイロットからはその白煙が容易に視認できるのである、そのためミサイルを視認したパイロットは戦闘機の運動能力の限界ぎりぎりで回避運動をしてミサイルをかわす事も可能なのである。
例えば、こちらが時速50~80キロで走行している車を運転していたとしましょう、相手が自足250キロで追ってきたとしたら、ぎりぎりまで接近させて限界ぎりぎりで回避すれば、250キロで追尾してきた方はそれを追尾するのは不可能ですよね。それと同じことです。
しかし、それが視認出来ないと当然回避出来ないですよね、戦闘機の場合でいうとミサイルのロケットモーターが燃焼を終えて、惰性で飛翔してきた場合、視認することは絶対に不可能です。サイドワインダーの直径はわずか13センチしかありませんから遠方から飛翔するミサイルが見えるわけがありません、したがってミサイルは相手を撃墜するまでロケットモーターが燃焼する必要はないのです、それどころか燃焼していないほうがかえって良いのです。
マッハ2.5で飛翔して、射程距離が2キロメートル、惰性で3キロメートルと考えた場合、ロケットモーターが燃焼するのは、3秒もあれば充分ということになります。
5秒も燃焼すれば燃えすぎな位の時間です。
ミサイルの射程は思いの外短いと感じられませんでしたか? 私がミサイルはライフル弾頭の延長であると説明した意味がお分かりいただけたでしょうか、皆さんはそのミサイルは古いから、と言われるかもしれませんが、改良された最新型のサイドワインダーでも、最大射程は5キロ程度でしかありません、惰性飛翔も含めて7キロくらいまでは狙えるとは思いますが、短距離ミサイルとはせいぜいそんなものです。
もちろん中距離ミサイルと呼ばれるものはもう少し射程が長くなります、現在、航空自衛隊でも使用しているミサイル、スパローの射程は25キロ~50キロです、射程はこんなものですが、驚くべきはそのスピードです、なんとマッハ4出るのです、完全にライフル実包より早いですよね! このスピード、これこそがミサイルの本当のパワーです。しかしこれを実際のスピードの映像で撮影したら、ミサイル発射の瞬間は瞬時に終わり、何がなんだか解らない映像で終わるはずです。ですから皆さん方"素人"に見せるときは高速度撮影にして、ミサイルがゆっくり飛んでいく映像をわざわざ見せているのです、また映像のほとんどが、機体に取り付けられたパイロンというミサイル取り付け装置から、スルスルと滑り出して出て行くミサイルを見せられていると思いますが、実際にこんな撃ち出し方をしているのはごく一部のミサイルで、多くはミサイルエジェクターという装置で機体から外側に叩き出すようにして機体から離した後ロケットモーターに点火しているのです。ミサイルエジェクターには火薬を使う方法もありますが、自然に落下させる自然式を使う場合もあります。

さて、スパローの射程が50キロとして、マッハ4で飛翔して30キロの距離に到達するまで何秒でしょう、一応軍事機密ですから言いませんがだれでも計算すればホンのわずかな時間しかロケットモーターは燃焼しないことがご理解いただけたでしょうか、しかしながらミサイルにとって極めて大切なことは、そのスピードにあると言うこともご理解いただけたでしょうか、まさか、ライフル実包より早いとは思っていなかったでしょう。
ミサイルで撃たれるということは、ライフルで撃たれるのと事実上は同じことなのです。

ミサイルを撃たれる前に相手の戦闘機からはレーダーが照射されますから、レーダー照射された戦闘機にはレーダー照射警告が出されます、相手の戦闘機がロックオンすると、ロックオンの警告も出されます、ミサイルを発射されると、ミサイル発射の警告音も出されます、その場合、アフターバーナーを焚いて回避運動をしますが、アフターバーナーを焚くということは、蓋の無いドラム缶を連続して倒すくらいの猛烈な燃料消費をしますので、1万リッター近く燃料を搭載した戦闘機でもせいぜい5分くらいしか燃やせません、それ以上燃やしたら燃料不足で基地に帰れなくなります。
1万リッターといえば、リッターあたり¥100としても燃料代だけで100万円です、アフターバーナーを焚き続ければこの1万リッターの燃料がわずか15分で無くなります、戦闘機の燃料消費量たるや、我々の常識レベルをはるかに超えた話しなのです。

ミサイルが戦闘機を追尾するシステムは赤外線ホーミングミサイルと言ってエンジンから排出される熱源を追尾するシステムがあります、この方法は戦闘機の後ろを追尾する場合はエンジンから900度の燃焼ガスが出ているので追尾が簡単なのですが、正面から狙う場合、正面には熱源がないので非常に狙いずらくなります。
しかしながらアクテブホーミングミサイルと言って、自らレーダー電波を出して追尾する場合いかなる方向から来る戦闘機でもレーダーで捕捉することが可能なのです。
赤外線ホーミングミサイルを撃たれたら、マグネシュームと火薬で作られた、フレアーという猛烈な熱を発生する筒を機体から出して、エンジンを絞り、急激に旋回すると、ミサイルは戦闘機の代わりにそのフレアーの出す熱源を追いかけていくことになります。
レーダー電波を出すアクテブホーミングミサイルの場合は、アルミ製の金属片をつめたチャフという筒を放出する、チャフは色々な大きさに切られたアルミ片が詰まっており、レーダー上からは、戦闘機よりチャフの方がより大きな画像となるのでミサイルはそのチャフを追いかけていくことになります、実際の回避運動ではミサイルがどちらのタイプのミサイルかはわからないので、フレアーとチャフを同時に、2,3発出して回避します、念には念を入れてということでしょう、命がかかっているので当然の話ではあるが。
これがミサイル回避の方法ですが、ミサイルも回避されるのを前提に作られているので、接近信管と言うものが使われていのです、これは千分の一秒単位で目標との距離を捕捉し、目標にかわされた瞬間、目標が遠ざかるその一瞬に爆発する信管なのです。
戦車などと違い戦闘機は非常に衝撃に弱い、大きいミサイルは60キロくらいの高性能爆薬を搭載しているので、これが破裂すれば小さなビルなら木っ端微塵にするくらいの能力があるのでミサイルをかわしても戦闘機自体が撃破されることはありえることなのです。

さて、このスパローミサイル、1発でポルシエは勿論、ロールスロイスやフェラーリ等よりずっと高い値段です。うーん欲しい、スパローミサイルよりもっと好きな、空対地ミサイル、HARM、私一番のお気に入りミサイルなのですが。

皆さん、今、私のことを変態と思ったでしょう!

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