「狩猟界」Q&A批評 - コーヒーブレイク

2003年 4月 3日 築地
更新 2003年 4月 9日 築地

読者の方から以下のようなメールが来ました。

ハンテングの世界の業界紙とも言うべき「狩猟界」に記載された記事に付いての質問です。
この雑誌は特殊な雑誌で、返本が常識の出版界で、一切の返本が出来ないと言う特殊な雑誌なので普通の本屋さんでは販売しておりませんが、銃砲店などでは販売されており、多くのハンターが読んでいる雑誌なので誤解が広がるのもどうかと思い、当社のHPでは私の私見を述べて誤解を解きたいと思います
念のために申し上げておきますが、「狩猟界」は普通の本屋で販売している雑誌ではないので私は記事の内容を一言一句確認した訳ではありません。
従って「狩猟界」のQ&Aの中に本当にこの記述があるかどうか、少なくとも今日(4月3日)現在では確認できません、もしこの記述が無い場合は、あるいは誤りが有った場合、それが解った時点で直ちに訂正します。
このコラムは、あくまでも質問者の質問に回答すると言う意味でのコラムです。

読者質問
過激トーク楽しみに拝見しています。「狩猟界」誌にトンデモない回答が出ていたので、改めて築地様に御回答を求めます。


「狩猟界」記述
(1)空気銃の銃身のほとんどは柔らかい材質でできているので、金属性のブラシを使うべきではない。真鍮ブラシを一回使っただけで、銃身をだめにした例がある。
*いったい回答者は空気銃の銃身は「何」でできていると言うのでしょうか?
真鍮ブラシを一回通しただけで、ライフリングが消えるなんて・・・・悪夢

築地回答
真鍮ブラシを通しただけでライフリングが駄目になると言うことは常識では考えられません。文中では真鍮ブラシと言う言い方をしていますが、本当は隣青銅ブラシです、色的には真鍮に近いので誰でも真鍮と間違いやすいですが、隣青銅の硬さは真鍮とは比較になりません、隣青銅の板材はバネとしても利用されるくらい硬い材料です、しかしながら銃身と言うのはクロームモリブデン鋼材で出来ているので、隣青銅のブラシでライフルが駄目になるなんて回答は常識の域を超えていますね。
私は今日からベンチレスト射撃の大会に参加するために渡米しますが、ベンチレスト射撃の場合究極の命中精度を競いますので、5発撃ったら隣青銅ブラシで10~20回往復させて、徹底的にカッパーファウリング、つまり銅の付着を取り除き、その後ボアーソルベントを浸したパッチを50回位通します、こうしないと命中精度が持続しないのです。
私はあまり掃除はしない方ですが、掃除しないと銃身が持たないよ、と良くアメリカ人から言われます、空気銃の銃身は別の材料で作られていると言われるかも知れませんが、参考までにここのサイトを覗いてみて下さい
http://www.lothar-walther.de
ここの会社は銃身だけを製造する会社ですが、ファインベルクバウの競技用の空気銃銃身から、カスタムライフルのダコタライフルの銃身まで製造しています。
名前がワルサーと言うように、有名なワルサー社の創立者、カール、ワルサーの息子さんが創業者です、言うまでもありませんが空気銃銃身も含めてワルサー社の銃身は全部この会社で製造しています。ここの会社では冷間鍛造(コールドハンマー)と言う方法で銃身を製造しています、冷間鍛造(コールドハンマー)とは穴あけした銃身にコアと呼ばれる超硬の芯金を入れて外側からハンマーでガンガン叩いてライフリングを付けるので、口で言うのは簡単ですが、クロームモリブデンの鋼材の40ミリ程度の直径の物をガンガン叩いて30ミリ程度に伸ばすのですから半端な音ではありません、イアープロテクター無しではとても作業現場には居れません。
この様に猛烈な圧力で銃身を作ると、芯金との接触面、つまりライフリングの表面は0.3ミリ位の深さまで、硬度が上がります、表面硬度で言えばRC50位はありますね、この表面に関しては銃の中で一番硬い部分となります。この硬くなる現象を加工硬化と言います。
安物の空気銃の場合、コストの関係で銃身を冷間鍛造で作れない場合もあります。
そうした場合は、ボタンと言って、下穴を空けた銃身に超硬で出来たなすび型をしたコアーをスチールロッドの先端に銀猟で付けて引っ張るか、あるいは油圧で押し出すかしてライフリングを付けます。クロームモオリブデン鋼材よりも安い鋼材と言うと、炭素綱があります、通常45C等を使いますが、加工性が悪くてかえって加工工賃が高くなりコストアップになりかねません。ステンレス鋼材なら日本でも多く出回っている416ステンレス等は銃身鋼材としても使われています。シーレン、ハート等のカスタムライフルは、隣、硫黄を意図的に加えて、高精度を出すために加工性を良くしていますが、それでもベンチレスト射撃で使う銃身ですから、弾を撃つよりもブラシを通す回数が多い銃身です。
昔、銃身の摩滅とブラシの因果関係を自衛隊で研究したことがあり、研究員の人にデーターを口頭で教えて貰った事があります。その結果ですが、解りやすく言うと、弾を1発撃つのと、ブラシを10回通すのと同じ摩耗だそうです。
しかもその実験は軍用銃での使用を想定していますから、鉄のロッドに隣青銅のブラシを付けての実験です。鉄の部分にプラスチックをコーテングしてあるロットで実験すればさら数字は変化し、弾1発撃つのと、ブラシ10数回と同じ言うことになったでしょうね。


(2)中折れ式ガスラム銃25口径に取り付けた、リューポルド(2x7)は壊れた(レチクル切)が、国産品では壊れない。
*国産のスコープがリューポルドのスコープより優れているとは、考えにくいのですがね・・・・
ついでに、相変わらずフエルトを撃って銃腔内の掃除をすることを奨めています。

築地回答
ライフルスコープのリチクル切れは、どのライフルスコープに於いても起こり得る事です。ライフルスコープも色々な物がありますが、実を言うとリューポルドのリチクルは数多いライフルスコープの中で一番リチクルの切れにくいスコープです。
逆に言うと切れやすいスコープもありますが、あえて公表は差し控えます。
そのリューポルドでさえ、絶対に切れないとは言い切れませんが、国産だけが切れないと言うのはかなり論点がおかしくなりますね、例えば**の物は切れないと言うのならまだ論点が決まりますが、国産と言ってもピンキリですからね。デユープレックスリチクルは非常に繊細な加工物で、あのリチクルはエッチングの腐食作用で切り抜いた物です。いわゆるクロスヘアーと呼ばれる、単なるクロスの場合タングステンのワーヤーを張った物です。
数あるスコープの中で一番細いワーヤーを使っているのはリューポルドでしょう。
私がベンチレスト射撃競技で使っているのは、リューポルド36倍の1/8ミルドットと言うスコープです。極細のワイヤーを十時に張り、その中心に鉛のドットを付けるのですが、これが私の知る限り一番細いリチクルです、で、私自身ベンチレスト射撃ではこればかりを使っているのですがこんなに細いワイヤーを使ってもリチクルが切れたことは一度もありません、勿論他のお客様のリチクル切れを修理したこともありません。
絶対にリチクルが切れない物としては、リチクルの代りにガラス板にリチクルを印刷して使う物があります、これだとリチクルは絶対に切れません、ライフルスコープの中では、照尺の書かれている物、あるいは十時以外の変形リチクルなどがありますが、これは全部ガラスに写真現像の方法でリチクルを写した物ですから絶対にリチクルは切れませんが、あえて言うならば、国産とか言うのではなく、写真印刷のリチクルと言うべきでしょうね、言うまでもありませんがこの技術は国産独自の物ではありません。何処のメーカーでも対応出来る物です。
皆さんがライフル銃の照準合わせに使われる、ボアーサイター、あれの升目、あれが写真印刷技術です。ではどんなスコープもそれにすれば良いと思われるかも知れませんが、欠点もあります、例えばスコープの内部に塗られている艶消し塗装ですが、艶消し効果が良くなればなるほど、微細な粉末がはがれやすくなります、この粉末がリチクルを印刷したガラスの表面に付着する事があります、実用上は問題ない物の、これがあると本当にイライラさせられます。
また光学的な見地から言うとスコープの中に1枚のレンズが追加されるので、理論的にはその分暗くなります。


空気銃の銃腔内のクリーニングですが、実を言うと空気銃にはクリーニングはあまり必要ないのです、空気銃の弾は鉛で出来ていますが、この鉛弾を撃つたびに銃腔内には薄い鉛の皮膜が付くのです、鉛の場合には金属への付着性が非常に良いので、普通なら鉛がどんどん重なって行きます、スラッグ射撃をやっている人ならお解りですよね。
この場合は銃腔内をクリーニングしないと命中精度はバラバラになります。
しかし、空気銃の場合はそうなりません、それは何故かと言いますと、空気銃の弾の表面には、グラファイトが薄くまぶしてあるからです、鉛の表面は本来銀色に輝いているのが本当です、空気銃の弾をカッターナイフで切って見るとよくわかります、切断面は銀色の筈です。ところが、空気銃の弾の表面は薄くネズミ色になっているでしょう、それがグラファイトです、グラファイトを使わずにワックスを使っているメーカーもあります。
この様に、空気銃の銃腔内には薄い鉛メッキをしたような状態ですから、かえってこのままの方が銃腔内は錆び無いのです。そう言う意味から言うと銃腔内の清掃という意味でのクリーニングは空気銃には必要ないのです。
むしろ、鉛が表面に付着してる場合の方が銃腔内は錆びないのです。
ですから鉛を完全に除去するとかえって錆びやすくなります、もし鉛を除去した後普通のスプレーオイルを噴霧しておくと、揮発して油分が無くなると防錆効果はなくなります。
そうしたことを防止するためには、WD?40と言うオイルをお使い下さい。これは同じ油でも、油分が揮発した後でも薄い被膜が構成され、錆の発生を防ぎます。
ですからVGF等のフエルトパッチは鉛を除去するという目的では全く効果はありません、鉛の除去には隣青銅ブラシを使う以外に方法はないのです。
しかし、今まで説明したように空気銃の場合は鉛を除去するのは必ずしも良いこととは言えません。銃口からWD?40を吹いておくだけで充分メンテナンスとしては効果がありますが、その場合余分な油を除去するという意味では、VGFを入れて1発撃てば事足ります。


更新 2003年 4月 9日

雑紙「狩猟界」の批評に対して何通かメールを頂きました。
現在に至るも私自身が「狩猟界」を読んでいないんですが、何でも「狩猟界」の内容は銃はシェリダンで、銃身は真鍮が内径に使ってあるとの事です。
確かに、40年くらい前の日本の空気銃にもこうした物がありました、シェルダンもそうです。アメリカではこうした銃は銃器としてではなく、子供達が空き缶を撃って遊ぶ"プリンキングガン"と言うカテゴリーに分類されていますので、銃器としての分類は銃刀法の見地からはともかく、本来は銃器として考えるべき物ではありません。
シェリダンの銃身は真鍮に見えますが、案外砲金では無いかと思います、砲金と言うくらいですから幕末から明治時代にかけては砲の材料として使われていました。
同じ材料の物は現在でも機械の軸受けに"メタル"と言う名称で使われています。
軸受けに使うくらいですから硬い材料と思われるかも知れませんが、軸を削らないように実は柔らかい金属なのです。柔らかい金属でも充分な油を潤滑する事により砲金の摩滅はほとんどありません、仮に潤滑油が充分でないため金属が削れる場合は、大切な機械の軸は削れず、砲金の「メタル」の部分だけが削れるように出来ているのです。
現在の最先端技術F-1のピストンのコンロッドとカムシャフトのつなぎ目にもメタルは使われています、さすがにF-1には砲金は使わないと思いますが、似たような材料だと推察されます。砲金は硬度も隣青銅より柔らかいので 理屈の上からは隣青銅のブラシで、砲金のライフリングは摩耗します。しかしながら、ブラシはライフリングと同じ方向に移動するわけですからこれだけでライフルが無くなると言うのは相当無理があります。
隣青銅のブラシをモーターで回転させてライフルの部分に当てるのならライフルの方向と相対するのでライフルの摩耗は認められるかも知れませんが、現実にはあり得ないことですから、仮に砲金の銃身に隣青銅ブラシを使用しても簡単にライフルが摩滅する事はありません。 

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