弾道学、番外編 - 弾道学

2003年 8月13日 築地

前回のコラムで、防衛大学の応用物理学教室の先生から講義を受けて、その中で直径1ミリのアルミ弾をマッハ30で撃ち出す、超々高速銃の話をしました。
そしてそれをレントゲンを照射して1億分の1秒でシャッターを切るとちゃんと、マッハ30で飛翔するアルミ弾が撮影できると書きましたが。今は夏休みですから弾道学から少し離れて弾道学番外編として、その延長線上の話をもう少し展開してみたいと思います。

先ず、この超々高速銃ですが、銃という名前はあっても、実は何トンもある機械でおおよそ銃の概念からはかけ離れた物なので、大がかりの長尺旋盤みたいな物だと考えて下さい。
成る程、超々高速銃を設備して超々高速飛翔物体の研究をしている、さすが防衛大学! なんて感心してはいけません、防衛大学はそれほど予算が無くてこれを持っているのは、実は東京工業大学です。ですから防衛大学の先生もこれの実験をするためにはわざわざ東京工業大学まで出向かなければ成らない事になるのです。
実は、防衛大学教授、田村英樹先生は昨年まで東京工業大学の先生だった方で、防衛大学も超々高速銃を設備する予算がないので、ちゃっかり田村先生を引き抜き、それで超々高速飛翔物体の研究をしようとしているのではないかと思うのは私の勘ぐりでしょうかね?

皆さん方の常識からすると、防衛大学の先生方と言うと、何か自衛隊出身の人達が教えているように勘違いされているかも知れませんが、元はと言えばほとんどの先生がかっての国立大学の先生方です。防衛大学と言っても教えている内容は普通の理工科系の大学と変わらないはずです。海上防衛学、陸上防衛学、航空防衛学と言う教室があるかどうかは私は知りません。
話がトンチンカンに成る前に超々高速銃の話に戻しますが、前回のコラムではこの超高速弾頭を撮影する為、1億分の1秒でレントゲン光を露光すると書きましたが、では一体どの時点で露光をしたらいいのでしょうか、マッハ30で飛翔してくる弾頭をどの時点で感知して、どの時点で露光するか、それのメカニズムを知りたくなります。
先生に聞いたら弾頭を最初に感知するのは「光センサー」だと言うことです、それはフォトダイオードですかと聞いたらそのとおりだと言うことです。
1億分の1秒を制御出来るのですから、フォトダイオードはそれ以上に時間制御が出来無ければなりません。専門家の話だとフォトダイオードは1兆分の1秒まで制御できるのだそうです。コンピュータを使ってこのコラムを読んで居られる方は、当然インターネットに接続されているはずですが、最近は光通信と言う手段がかなり普及して来ています。私の会社も光通信です。その光通信の端末にあって膨大なデーターをを制御しているのが実はこのフォトダイオードなのです。

昔、私は光ケーブルで何故膨大な量のデーターが送できるのか不思議でしょうがなかったのですが、光の中からフィルターを使って色々な波長を取り出し、それをフォトダイオードで制御すれば、映画みたいな膨大なデーターでも短時間で送れると言う理屈が近年になってやっと飲み込めるように成りました。

さて、このフォトダイオード、実は弾速計算機にも使われているのです。
実は弾速計算機でライフル弾頭の初速を計ると、毎回計測する数字が違います。
あまりにも違うので、弾速計算機に誤差があるのでは? と疑問に思っていた時期がありましたが、フォトダイオードの分析能力を知ると、表示された初速の下4桁くらいまでは容易に分析出来る能力が有る事が理解できました。
下4桁の表示は実用上意味がないので表示していないだけだったのです。

弾の初速を計ると、銃口から飛び出す瞬間の弾頭を見たくなります。
実は弾頭を撮影するのは意外と簡単なのです、ストロボを使えば簡単に撮影できます。
問題はセンサーの使い方です、フォトダイオードを使うには蛍光灯などのパルスを発する物は誤作動が生じるので使えません、そう言う場合はマイクを使うと言う方法もあります。問題はマイクをどの位置に設置して、何時ストロボを発光させるようにするかです。
しかし、これも何度か実験していく中にベストポイントが解るようになります。
銃口から飛び出た弾頭と言うのは、すでに多くの雑誌で随分発表されていますから多くの方がその画像をご存じだと思います。
しかしムービーとなると少し難易度が上がります、高速度撮影機を使うとムービーが撮れますが撮影のメカニズムとして、シャッターを開いて撮影して、シャッターを閉じる、フィルムを1コマ送ってまたシャッターを開く、このメカを連続して行うのですから、あまり高速にするとフィルムが剪断してしまいます。これ以上の高速で撮影するには別の撮影方法を使います。つまりフイルムを動かさないのです。
イメージとして大きな樽を想像して下さい、その樽の内側にフイルムをびっちり張ります。樽の中心にレンズがあり、レンズの後端にプリズムを置きます、そのプリズムを高速で回転させて撮影するのです。
勿論フイルムの枚数に制限があるので、長い時間の撮影は出来ませんが、弾頭発射の瞬間の映像なら充分すぎるフイルム枚数です。
こうして撮影すると、ライフルや拳銃の弾頭は、銃口から弾頭が出る前に火薬ガスが吹き出しているのが見れます。
実は弾頭は、火薬ガスが吹いてから出てくるのです。
英語でジェット イフェクトと言う言い方がありますが、この事を言っているのかも知れません、日本語はまだこの事実を知らない人が多いので適当な語彙はありません。

映像を見なくても火薬ガスが銃口から吹き出ていると言うことは容易に証明できます。
お手持ちのライフル銃の内径を子細にご覧下さい。
弾頭が銃腔内を通過していった痕跡があります。
つまりカッパーファウリングです。弾頭の銅が銃腔内に付着した痕跡です。
どんな銃を見ても、銅が付着しているのはライフリングの山の中心、そして谷の中心だけです、ライフルの山の両端、谷の両端には絶対に銅は付着していないはずです。
つまり、驚いた事にこの部分は弾頭とライフリングは接触していないのです。
銃口だから弾頭が銃腔内を通過する課程ですり減ったのではありません、ボアースコープで銃腔内を観察すると、ライフリングが始まる所からそうなっているのです。
と言うことは弾頭とライフリングが接触していない所を、3500気圧のガスが吹き抜けて行ったと言うことなのです。
逆の言い方をすると、火薬ガスが吹き出るために弾頭腔内のこの部分は接触していないのです。
それが証拠に、高圧ガスを使わない空気銃などはライフルの全面に鉛の付着が認められます。
ですから、フォトダイオードを使った弾速計を使うときは、銃口から1m以上は離さないといけないのです。
その理由は、弾頭が出てくる前に火薬ガスが吹き出すので、フォトダイオードがガスをあたかも弾頭と感知してしまうから誤作動を起こすのです。

高速度撮影と言うとやたらフイルム代がかかると思われるかも知れませんが、フイルム代は意外と安く\5,000程度の物です。
高速で弾頭を撮影すると意外な発見をすることがあります。
その1例として、スラッグ弾を撮影すると、スラッグ弾の中が中空の物は銃口から離脱した瞬間、ガスの力で弾頭が膨らみます。ほっぺをぱんぱんに膨らまして飛んで行っている様にも見えます。
スラッグ銃の多くは銃口には全然絞りがありませんが、ほんの僅かでも絞りがあるとこうした現象は起きません。スラッグを撃つときはシリンダーではなくて、インプシリンダーを推奨するのはこうした事がその理由なのです。

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