弾道学のお話 - 弾道学

2004年 10月18日 築地

我々男達は毎日何気なく、そして何度も何度もやっている小便ですが、是非とも小便をするときには飛翔状況を子細に観察してみてください。
放尿した物が微妙にスパイラルを描いて飛翔しているのをご確認頂けると思います。
これは尿道にライフルが存在するからなのです。
水道ホースみたいに漠然と放出されている訳ではありません。
私自身、若い頃から何となく解っていたのですが、それが私自身の特異体質の問題なのだろうかと思い誰にも聞けなかったからです、幾ら男同士でも、他人の道具もそういう物か、流石にそこまでは確認するわけにはいかなかったからです。
この事を専門のお医者さんに聞いたところ、「それはライフル銃と同じように尿道に螺旋が有るから」だと説明を受けましたが。
その理由も同じようにお聞きしたら、放尿を周りに飛散させないためと説明を受けました。
この様に男性は生まれながらにしてライフル使いだったのです。
ではそのライフリングと称するメカがどうなっているか、せめて自らの所持品で調べようとしたのですが背骨を折りそうなので残念ながら調査は断念しました。
調査を続行していたら、背骨を折り、脊髄損傷で下半身麻痺に成っていたに違い有りません。読者の皆さん方は小便する場合でも、ただ漫然と放尿されていると思いますが、こういう事ではいけません。私は常に物事を探求していますので、この様に単なる放尿でも常に絶えまぬ探求をしているのです。たかが放尿、されど放尿なのです。
こうした普段は見逃すような些細な現象でも、絶えまぬ探求心と、豊富な好奇心のおかげで、今まで多くのコラムを書き上げてきたのです。
こういう私の行動を評して、「偉い!」と言う方もごく一部で居られるかもかも知れませんが、ひょっとすると、ほとんどの方はかなり呆れておられるかもしれません。
こういうくだらない話から切り出すのが落語で言うところの「まくら」と言うことになります、何故まくらに小便の話を持って来たかと言うと、弾道の話を展開するのには、毎日何度も何度も体感している小便の話からするのが、一番適切だと判断したからです。
何しろ弾道も、小便も同じように放物線を描いて飛翔する物だからです。
しかし、この比喩が適切かどうかについては後世の読者の判断にお任せしたいと思います。

さて、出来るだけ遠くに小便を飛ばすには、言うまでもなくチンチンを少し上向きに向けて飛ばす必要があります、弾道も同じです。
遠くの的に命中させるには銃身を少し上向きに撃つ必要があります。
この辺の理屈はお解り頂けますよね。
一般的な308の150グレインのスピアー弾頭を2800フィートで飛ばした場合、100mで命中させると、100mを過ぎた後はひたすら落下を続け、300mでは47cmもドロップしてしまいます。
最初から300mに命中させようとすれば、銃身をほんの少しだけ上向きに撃てば良いのです、300m命中させる為には、ほんの少しだけ上向きですから、コンピューターで演算すると100mで15.71cm上に当てれば良いのです。
そうすると300mでは正照準、350mでも、18.8cmドロップするだけです。100mで正照準の場合の弾道と、300mで正照準の弾道とグラフにしたのでご覧ください。ちなみに後で説明しますが、この表は距離はヤード、弾道のドロップ量等はインチで表示しています。完全にメートルで演算するのは簡単なのですが、メートルとインチの表があると混乱するので今回はヤード/インチの表でご覧下さい。

100ヤード弾道表
100ヤード弾道表
300ヤード弾道表
300ヤード弾道表

標的に弾頭が当たれば7.62ミリの穴が空くだけですが、ハンテングの場合、獲物の着弾点の回り10cm位の広範囲を破砕してしまいます。
多くの方が、ライフルの弾頭は先が開くので破砕力が大きいと考えておられますが、必ずしもそれは正確ではありません。弾頭が開くのであればその開いた直径だけが破砕されそうな物ですが、実際はそれ以上の範囲が破砕されます。
それは弾頭の初速に最大の理由があります。弾頭が獲物に命中し場合、少し難し理屈で言いますが、弾頭と獲物の細胞との元々質量の違いがありそれが細胞の破砕に根本的な影響を与えます。弾頭は鉛ですから、それよりも軽い細胞は、弾頭の命中した速度以上で飛翔しないと物理学の法則から外れます。これが質量の問題です。
例えばライフルの弾頭でアルミの板を撃ち抜いた場合、弾頭のスピードよりもアルミ破片のスピードの方が早いのです、これは質量の違いでそうした事が起こるのです。
このスピードの違いは容易に高速写真で確認することが出来ます。
弾頭がアルミ板に命中した瞬間の写真を使い、弾頭が飛翔する時の空気の衝撃波の角度と、アルミが飛翔する空気の衝撃波の角度を調べると容易にスピードが判断できるのです。
空気の衝撃波の角度が鋭角になる程、スピードが出ていると言うことなのです。
ですから弾頭が獲物に命中した場合、弾頭よりも軽いタンパク質の細胞は、その弾頭のスピードよりもさらに早いスピードで細胞は隣の細胞に叩きつけられるのです、そしてその破砕の連鎖活動は広範囲に広がっていくのです、こうして細胞が次々と破砕されていくのでバイタルゾーンつまり破砕範囲は、弾頭が開いた状態の直径よりも広くなるのです。
ライフル弾頭の射入口よりも射出口が大きいのはそれが理由です。
弾道学で重要なのは弾頭が命中した時の破砕範囲、つまりバイタルゾーンのことは最も大切なことなのです。
ライフル弾が口径よりも初速を重要視されるのはここにその理由があります。
45口径(11.4mm)の拳銃弾よりも、30(7.62mm)口径のライフル弾頭の方が、口径は小さくても破砕力が大きいのはひとえに初速の違いが影響しているのです。

300mで正照準にしておけば、350m以内は全部狙い越無しで撃ってもバイタルゾーンのおかげで、ほとんどの獲物を仕留めることが出来るのです。
もし100mで照準を合わせれば、弾頭は落下する一方ですからバイタルゾーンが広くても獲物には致命傷を与えることが出来ないのです。
100mで正照準に合わすか、300mで正照準に合わすから、それぞれの猟場での
展開により異なると思いますのでその選択は皆さんの自由です。
でも一番便利なのは、100mと300mで瞬時に狙いを替えるのが一番便利ではあります。

これからは弾道学の抗議も第2ステージに昇格します。
これ以降の原稿をお読みになる方は相当な博識をお持ちの方でないと付いて来れません。
心して熟読して弾道学を学んでください。
この高尚な原稿を読み切った方は、自らの名刺に弾道学修士と印刷しても構いません。
本当は、弾道学の事を説明するには弾道計算ソフトの話を避けて通れ無いのですが、今回は修士課程ですからそこまで踏み込みません。
但し、これからは弾道学の話は距離はヤード、着弾の移動量はインチで説明しますのでご了承ください、何しろアメリカ系のライフルスコープのクリックは全部インチ単位で目盛りが切られているのでこれをいちいちメートル換算していたのではかえって煩雑になるからです。
ヤードとメーターの違いは僅かメートル÷1.094がヤードですからいちいちメートルに演算せず、同じ感覚で考えてください、少なくともこの程度の距離の違いは弾道学上の弾頭の着弾には大きな影響は有りませんから。
弾道表を再度ご覧ください、308ウインチェスター150グレイン弾頭を初速2800フィートで飛ばした時、ヤードとインチで計算した弾道表です。
この表で見ると、300ヤードで照準が合っている場合、100ヤード地点では、弾頭は4.84インチ上を通過していることが解ります。
ほとんどのライフルスコープのダイヤルの大きい目盛りは、1インチの移動量を示しています。小さい目盛りは1/4インチの移動量を示しています。
通常の使用は100ヤードで使っていて、時と場合により300ヤードに照準を調整する場合、ダイヤルを動かして、リチクルを4.84インチ上げれば良いのです。
つまり数字を4.84にすればいいのです。これなら簡単でしょう。
ここでスコープの調整について説明をしなければなりません。
ほとんどのハンテング用スコープは猟場でちょこまか調整するのを前提としていないので調整クリックはキャップを外して中のダイヤルを動かさないとなりません。
ましてや、中のダイヤルは必ずしも0の位置にあるわけではないので、そこから4.84目盛り、つまり4.84インチ上に上げるなんて煩雑ですよね、確かに煩雑なのですが、少なくともその煩雑さを軽減するために、ダイヤルを0に合わす方法だけは説明しておきます。
今お手持ちのスコープがあればご確認ください。
キャップを取り外してダイヤルをご覧頂くと勝手な所にダイヤルが有るはずです。
照準調整の終わったスコープは、このダイヤルを0にする方法があります。

これはリューポルドのハンテング用スコープの調整ネジです、リューポルドはこれ以外にもネジを緩めると空転する物もありましたが、これは一番新しいタイプです。
真ん中の溝は25セント硬貨を使ってネジを回すための溝です。
このネジを使って上下左右の調整をした後、回転版の切り欠きの部分にドライバーなどをいれて回転板を空転させ0点に合わせます。

ダイヤル1
ダイヤル1

これはツアイスの調整ダイヤルです。
ツアイス等、ヨーロッパ物はメートル表示になっています。
H/Rと書いてあるのは、ドイツ語で、ホーホ オーダー レヒト、ドイツ語のホーホ(hoch上)又はレヒト(recht右)を意味します。上下左右とも同じダイヤルを使用しているので、上または右と書いてある訳です。つまり右の左右調整のダイヤルも同じ事を書いてあります。
ドイツ語でHochと言うと上とか、高いところと言うことを意味します、Rechtは文字とおり右という意味です。アメリカの物はUPと書いて矢印があれば上の方向に弾着が移動しますが、 ドイツ語では弾着を上に移動させる場合は(hoch)ホーホの方向に移動させます。弾着を下にやりたい場合は(tief)テーフの方向に回します。

ダイヤル2
ダイヤル2

弾着を右にやりたい場合は(recht)レヒト、弾着を左にやりたい場合は(link)リンケに回します。ドイツ物はこの上下左右のネジが逆ネジに成っているので回す方向がアメリカ物とは逆の方向なのです。
ドイツ物は移動量もメートル表示ですから1目盛りで、100mの距離で、弾着は1cm移動する移動量を表します。

ダイヤル3
ダイヤル3

ツアイスのダイヤルは上に引き上げると空転して任意の所で止めることが出来ます。

ダイヤル4
ダイヤル4

これはツアイスのターゲットタイプのダイヤルです。
ダイヤルが露出しているので弾道修正は簡単に出来ます。
リューポルドとダイヤルの回転方向が逆です。

ダイヤル5
ダイヤル5

ダイヤルの中心のネジを緩めるとダイヤルを空転させることが出来ます。

ダイヤル6
ダイヤル6

これはリューポルドのM-1タイプのダイヤルです。
照準調整を済ませて、ダイヤル上のねじを緩めるとダイヤルが空転しますので0をあわせます。

ダイヤル7
ダイヤル7

これはリューポルドのM-3タイプのダイヤルです。

ダイヤル8
ダイヤル8

いわゆる照尺付きといわれるタイプですね。

ダイヤル9
ダイヤル9

これも同じようにダイヤルの上のねじを緩めるとダイヤルが空転しますので、100mで照準を合わせた場合、ダイヤルの目盛りを0にします。

ダイヤル10
ダイヤル10

このまま、ダイヤルの目盛りを3に合わすと300ヤードでの正照準に合う事になります。

ダイヤル11
ダイヤル11

ここで前の記述を思い起こしてください。

「弾道表を再度ご覧ください、308ウインチェスター150グレイン弾頭を初速2800フィートで飛ばした時、ヤードとインチで計算した弾道表です。
この表で見ると、300ヤードで照準が合っている場合、100ヤード地点では、弾頭は4.84インチ上を通過していることが解ります」

こういう風に書いています、ではダイヤルのインチの目盛りをみてください、目盛りは約5インチの所を示していますね、4.84、つまり約5インチの所ですね。
この様に弾道修正は距離の目盛りを使ってもいいし、インチの移動量を目安にしてもいいのです。
ここまで書くと、ヤードとメートルは違うのではと言われると思いますが、弾道学の見地から言えば、ヤードもメートルも大差ないのです、弾道はそれ以外の要因で簡単に変化します、その時の風、風向、気圧、高度、外気温度、銃身温度、そうしたもので容易に変化します。
ですから少々荒っぽいように思われるかもしれませんが、ヤード表示もメートル表示もそれほど気に病む必要はありません。
第一、弾道計算ではやたら細かい数字でが出ますが、現実に弾道がその通りに飛翔したら1000M先でも、弾痕はワンホールに成ることになります。
しかし、1000M先でワンホールなんて絶対に起こりえません、ですから弾道計算の数字にそれ程振り回されてはいけません、あくまでも目安です。
弾道計算では、まるで1000m先でもワンホールに命中するような演算の仕方ですが、軍用の場合はこれに散布率と言うものを加味します。つまりばらつきです。
でも軍用の散布率はかなり非道くて、100mで数ミリのグルーピングを競う、私のようなベンチレストシューターには到底容認できる物ではありません。
一番非道い散布例をご紹介しますと、それは戦闘機に搭載されるバルカン砲のミルスペックです。1分間に4000~6000発撃つバルカン砲ですから、有る程度の散布率は仕方ないとしても、その規格は300の距離で撃って、1m以内に80%の弾着が有ればいいと言うものです、80%と言うことは残り20%は弾着不明でも良いと言うことですから、これはまるで散弾銃のパターンテストの様な物です。
ですから軍用の散布率を計算に引用するととんでもない事になってしまうのです。
さて話が横道にそれましたのが、照準調整は300mで0にしても良いし、100mで0にしてもかまいません。しかし日本全国に300mの射撃場が沢山ある訳なので、多くの人は100m射撃場で照準調整をされていると思います。
100mの射撃場で照準を言わせているのだが、実際に使うのは北海道で、その為に300mに正照準を合わせたいとした場合、簡単です!
今までくどくど説明してきたのはその為です、アメリカ系スコープの場合はダイヤルの目盛りを5にすれば良いだけです。つまり100mの時点で5インチ上に着弾すれば、即、それは300mでの正照準なのです。これで簡単に300メートル正照準に調整できました。言うまでも有りませんがこの目盛りは使用するカートリッジと弾頭により違います。
2インチの場合もあれば、3,4,インチの場合もあります。
巻末にその100m対300mの移動量を書き置きますので参考にしてください。

ダイヤル調整ではなくて、リチクルで狙い越をつける方法もあります。
ミルドットリチクルなどはその例ですが、HPの当社カタログの中のリューポルドタクチカルスコープの所に解説がありますので参考にしてください。

ここのタクチカクル レチクル と言うぺージをご覧いただくとミリドットの説明があります。ミルドットで説明している、1ミルと言う単位は元々軍事用語です、1ミルと言う言い方は最初は砲術に使われていた単位で、1000mで1mの移動量を表しています、厳密には少しの違いがあるのですが、1ミルは100mの地点で約1インチの移動量と考えても構いません。我々にとっては1000m先の話より、100m先の話の方がより具体的で解りやすいですからね。4インチ狙い越を付けると言うことは、4ミル狙い越を付けると解釈して構いません。ミルドットもこういう使い方をするとハンテングの世界でも充分実用性があるのです。
ミルドッットは上下左右にもミルドットがあります。
1ミルは1000mで1mの大きさを表しますので、1mの物が1ミルの大きさでみれればそれは目標までの距離が1000m、もし2ミルの大きさでみれれば、目標までの距離は500mとなります。この様に目標までの距離を測定するのにも利用されます。
また左右のミルドットは、歩行する歩兵を狙撃する場合、移動する車を狙撃する場合の狙い越量として利用されます。

これはナイトフォースのリチクルです。
詳細はここをご覧ください。http://www.nightforceoptics.com/
この様にリチクルに最初から狙い越量があるので、瞬時に狙い越を付けて撃つことが可能です。ではそのリチクルの使い方について少し説明をしてみます。


先ずNP1-RRリチクルについて説明します。
リチクルの下の方に簡易距離計があります、アメリカで一番普及している、黒丸の大きさが9インチの的を参考に演算します。日本では射撃場というと、最初から100m射撃場、200m射撃場、300m射撃場と距離が決まっていますが、アメリカの場合、私有地なら何処で撃っても自由なので、例えば砂漠の何処かで、任意の場所に標的を設置した場合、そこまでの距離が幾らか解りませんよね、そこでこの簡易距離計で大まかな標的までの距離の目安を付けるのです、日本では例え自分の地所でも、銃を自由に発砲する事は出来ません、銃刀法で発射の制限と言う事が法律で決まっていますからね。
アメリカの場合は銃の発射の制限が緩やかなので、こうした物が必要なのです。
○の上にある-線と数字の書いてある上の-線との間に鹿の胴体を当てはめればおおよその距離の目安も計れます。これなどは日本の猟場でも利用できそうですね。

P1-RR リチクル
P1-RR リチクル

NP-R2のリチクルについて説明します、このリチクルの1目盛りは100ヤードで1インチの巾を示しています。弾のドロップ量に応じてこれを使い分けると容易に弾道修正が出来ます。
(弾道計算表装入)
これで弾道学修士課程は修了しました、ではお開きにしますので小便でもしてきて下さい。あ、言うまでも有りませんが、放出は一歩前進、正照準でお願いします。

NPR2 100m照準
NPR2 100m照準
NPR2 300m照準
NPR2 300m照準

※この計算式は100ヤードで正照準を合わせた場合、それどれの距離に応じた正照準にするには
ダイヤルを何インチ上に移動させれば良いかを計算しています 。

カートリッジ名称重量初速100200300400500
243 ウインチェスター80335001.253.416.29.72
270 ウインチェスター130306001.473.736.479.68
7mm レミントンマグナム140317501.273.25.518.16
30 カービン110199006.4616.229.1245.01
30-30 ウインチェスター150239003.789.612.6528.25
308 ウインチェスター150280001.974.918.5412.94
30-06 スプリングフィールド180270002.436.0910.8616.98
300 ウインチェスターマグナム180296001.563.886.629.78
300 ウエザビーマグナム180312001.373.516.19.11
338 ウインチェスターマグナム200292501.674.167.1610.65
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