クレー射撃、その異なる射撃理論の存在 - 射撃

2003年 9月25日 築地
読者意見追記 2003年 9月26日 築地

私が射撃を始めた1960年には、ライフル射撃の世界では、すでに"ライフル射撃の理論と実際と"いう600ページにも及ぶ厚い教本が存在しました。
書かれた内容は、的確とまでは言わないまでも、ライフル射撃の基礎的な事を書いた書物としてライフルシューターに長年読継がれて来ました。
その後もラルフ、ホーネバー氏の教本とか、色々な指導書が出版されましたが、クレー射撃の世界では射撃教本と呼ばれる指導書の類が、今日に至るも全く出版されていません。

最も、全くの初心者に、許可の取り方等の射撃を始めるためのハウツウ物なら皆無とは言えませんが、少なくとも射撃理論を解説した出版とは言えない物ばかりです。
何故こうした教本の類がないのか不思議に考えていたのですが、自ら色々なタイプの銃を使い、年間200万円以上の弾代を使い、クレー射撃の射撃理論を自ら探求してみてやっとその理屈が解るように成りました。

これからその理由、およびトラップ射撃の射撃理論を併せて説明してみます。

初めてクレー射撃をやる人が、事実上初めて指導をして貰うのは教習射撃の時です。
その時は一般常識的な話をされると思います、クレーが出たらクレーを追い越しざまに撃つとか、頬付けをしっかり付けるとは、クレー射撃のABCを教わります。
それについては私も全くの異論は無いのですが、それからしばらくすると色々な疑問が出てくるはずです。

先ず狙い方です。

1,目のピントを照星に合わせて、クレーが出たらそれを追って追い越しざまに撃つ理論

これは昔32グラム装弾で射撃していた頃は圧倒的に、そして唯一の理論だったのです。装弾の初速が遅い代わりに32グラムという多くの装弾が装填されていたので、コールをかけてクレーが飛び出た後、クレーが充分に飛行して散弾のパターンが充分開いた位置で撃っても充分命中させられた頃の理論です、これも理論的に間違っている訳でもありませんし、現在の24グラム装弾でも充分通用しますが、24グラム装弾で二の矢を撃つときには明らかに不利になると思います。でも決して間違いではありません、古いシューターならこうした理論で初心者を指導する事になると思います。昔の名人の人は今でもこうした射撃方法で撃たれていますが当然ちゃんと当たります、しかしながら、照星をよく見て撃つと言うことは相当数の弾数を撃たないとその感覚が身に付かないのでは思われます。

2,照星をしっかりと見て、そのまま目のピントを土手に合わせてクレーが出たら撃つ理論

これは狙い方そのものは1と同じですが、ピントの合わせ方を照星から土手に移したと言う事で、1の射撃方法の改良型、あるいは発展型、とも言えます。
目のピントを何処に合わすかと言う論争は今迄ずいぶんと交わされましたが、どちらの言い分も正論と言うのが現在の私の考えです、何故ならどちらの射撃方法をとっても、どちらもちゃんと当たるからです。しかしながら何れの照準方法も相当数の弾数を撃たないと身に付かないと言う事が言えます。

3,照星をしっかりと見て、そのまま視点を上にずらして目のピントを遠くに合わせて、クレーが出たら、少しクレーを飛ばして感覚的に銃口をクレーに向けて撃つ理論。

これは現在私が推奨している照準方法です。
照星をしっかりと見て頬付けを確認したら、目の焦点を上に上げます、そして土手を見るのです、その場合、両眼照準であることは言うまでもありません。
両眼で遠くにピントを合わせて、そして広い視野を見るとクレーが飛び出してもしっかりとクレーを視認できます。
クレーの飛翔方向をしっかりと確認して、充分な「タメ」をおいてからスピーデーに銃口を振ります、この場合クレーを見ている感覚は95%、照星を見ている感覚は5%です。
照星は感覚的に捕らえていると考えて良いでしょう、もっと大胆に言うと照星は無くても良いのです、感覚的に銃口を振る事が出来れば必ず命中します。

私はライフル射撃の出身ですから、クレー射撃の当たりも、ライフル的な感覚で言うならば、二の矢でクレーが力無く二個に割れた物は、ライフル射撃の感覚で言えばそれは4点位の意味しかありません、30~40メートルの距離で、クレーを煙のように粉砕した場合は10点です。ですから出来るだけ10点のクレーを撃つように心がけるのが本来のクレー射撃の姿だと私は信じます。
その理論から言うと一番優れているのが3の照準方法なのです。

ビギナーのシューターが、超ベテランのシューターに、1や2の理論をたたき込まれた後、私の3の理論を聞いても、私が間違った事を言っていると感じるのは当然の事です。
しかし、逆の場合もあるでしょう。ですから初心者がとまどうのです。

これがクレー射撃の理論は、人ごとに違うと言う最大の理由です。
困ったことにその何れも理論的に間違いであると断定できないためにに多くの混乱を来す理由にも成るのです。どれも正解なのです!

過去から現在に至るまで、全ての人が共通して理論的に一致していることが一つだけあります、それは頬付けです、射撃中に頬付けが浮いたりすれば、照準の基準となる目の位置が変化するので、照星とクレーが一致しても命中する訳がありません。
いわゆるヘッドアップの弊害です。
ヘットアップの弊害を完全に無く為に、私は照準装置としてドットサイトで実験したことがあります、これは光学照準器でヘッドアップすれば照準点も変化するので、ドットとクレーの位置関係で正確な照準が出来ると言う優れものです。
1年以上実験したのですが、クレー射撃の場合、撃つ瞬間は感覚的にクレーを見ているのでおおよそ照準器のドットとクレーの位置関係を把握できないのです、ドットとクレーの関係を正確に把握すると撃つタイミングが致命的に遅れるのです、ですからクレー射撃には照準器は必要ないと言う結果に落ち着きました。

クレー射撃は感覚で撃つ射撃競技なのです!

クレー射撃に必要なのは頬付けの感覚と、銃口がどの当たりにある、か、(感覚的には目の下、顎の上と言う感覚ですね)そう言う感覚が身に付いて感覚だけで撃てる様になるのが本当です。ですから照星は必要ないとも言えるのです。
照星の色を変えたり、大きさを変えたり、少なくとも当たらない原因を照星に求めている内はまだまだ頂点を極めると言うにはほど遠いレベルでしょうね!

さて頬付けの話が出たのでベンドの問題をお話しします。
ベンドの高さがどうたらこうたらと多くの人が言いますが、はっきり言うと全く関係ないと言うのが私の理屈です・・・・・・・・・・・・・なんて事を書くと、ここぞとばかりに非難が集中してくるのを背中で感じますが、では非難する方にお聞きしますが、ベンドの事を云々する人で、チークピースの厚みを論議しますか? チークピースの厚みを言わないでベンドの事を言っても不毛の論理と考えませんか?
ミロクのベンドが**ミリなのでペラッチも同じベンドでなんて事を言われる方も少なくありません、しかしペラッチの銃床はもっと厚みがあります、つまりふっくらしているのです、ですから同じベンドにしたら相当な違和感があるはずです。
その銃が違えばフィーリングが違うはずですから、フィーリングを無視して寸法で比べると言うところに根本的な無理があるのです。
一番大切なのはそのフィーリングを大切にする事なのです、ペラッチを改造してミロクみたいな銃にしても(最も完全な改造は無理な話ではありますがね)何の意味もないと言うことなのです。
私はペラッチとFNとメルケルのトラップ銃を使い分けていますが、メルケルとペラッチではベンドの高さは劇的に違います、メルケルは深すぎてほんの僅かチークピースが頬に触っているだけです、メルケルはそうやって撃てばちゃんと満射が撃てます。ペラッチはがっしり頬を押し付けて撃たないといけませんが、そうやって撃てばこれまたちゃんと満射が撃てるのです。
つまりベンドの高さなんて、使う側がちゃんと使えばどうでもなると言うことです、幾ら調整しても頬付けが弛めば何の意味もないことがご理解頂けますでしょうか。

まあ、お好みでベンドの高さを変える事まで止めろとは言いませんがね!

ピッチダウンについて。
ベンドですらどうでも良いわけですからピッチダウンに神経質になる必要はありません、私の知る限り32グラム装弾を使っていたことは反動がきついので、レコイルパットの角度が肩に正確に合っていないと、初矢の反動が大きかったり、肩にアザが出来たり、色々な弊害がありました。
また初矢の反動がが大きいとか言う理屈もありました、でも24グラム装弾ではそれほど神経質になる必要もないと思います。現在でも5円硬貨をレコイルパットと銃床の間に挟んだりする人も皆無とは言えませんが、現在の24グラム装弾を使う限りは効果の程はあまり無いと私は考えています。

スタンスについて。
スタンス、つまり足場の問題ですが、これはライフル射撃でも気にする人も少なくありません、勿論クレー射撃においても同じです。
はっきり言うとこれはどうでも良い物です、気にする人にとっては大切な物でしょうが、ベテランでこれを気にする人は皆無ですから、自然と立った位置が適正な位置に成るのでしょうし、この位置を気にするほど射撃への集中力が削がれるのではないでは無いでしょうかね、上手になればこうしたことはあまり気にしなくなるものです。

高付けか、低付けか、
銃口の位置を土手に合わせるか、クレーの放出口に合わせるかという問題ですが、その理屈について説明してみます。銃口の位置が高いと早くクレーを捕らえられます。その為に銃の振りが少なくて済みますので、あまり疲れないと言う利点がありますが。
漫然とそうした撃ち方をしていると、今度は銃が全然振れなくなってしまうことがあります。
銃口の位置を放出口の所に付けている人は、飛び出たクレーを追いかけるために必然的に銃口の振りが大きくなります、適正なスイングをすると言う意味では銃口の位置は低い方が良いのです、スイングが的確に出来てさえ居れば、銃口は高付けでもちゃんと当たります、逆に高付けで漫然と撃っているといつの間にか銃口のスイングが遅くなる人も居ますので、そうした場合は再度、低い付け方にして適正なスイングを再度身につけた方が良いと思います。勿論的確なスイングスピードが身に付いたら、また高付けにしても何の問題もありません。

何れの場合も、絶対的に必要なのは「タメ」です、0.5秒~1.0秒位のタメ、つまり銃口が動かない時間が絶対的に必要なので。
クレーが出てすぐに追いかけると銃口のスイングが遅くなり、必ずクレー後ろを撃って「正確に外す」事になります。
タメの感覚がよく理解できない人は、銃口の上に大きな仮想の虹を描いてください。
クレーが放出されても、その仮想の虹をクレーが通過するまで銃口を動かしてはいけません。クレーが仮想の虹を通過するまで待つことにより、クレーの飛翔コースを正確に把握出来ます、そして銃口のスイングスピードを的確にスピーデーに振るためにどうしても必要なプロセスなのです。
タメを作らないでクレーに当たった場合、銃口のスイングが遅いためにクレーの割れ方が悪いはずです、それは散弾銃の破砕力で必要なコロンの力を充分利用できていないからなのです、コロンの事についてはコラム、散弾銃の弾道学を参照してください。

この様に銃口は高く付けても低く付けてもどちらでも当たるのですが、人によってはどちらかが絶対的な物として説明してしまうかも知れません、これも極端な両論が存在する理由なのです。

力を入れて保持するか、軽く保持するか
これもどちらも正解と言うことが出来ます。
力を入れて銃を保持すると、スピーデイなスイングが出来て、またクレーを追うラインにもブレが出ません、その変わり腰の動きが悪いと、ある地点で銃が止まってしまう恐れがあります、腰がちゃんと回っていれば大丈夫なのですが、相当な弾数を撃たないとそうしたスイングは身に付きません。
銃を軽く保持していると、銃の慣性で綺麗なスイングが出来てしまいます。
スイングが良いとクレーも粉々に粉砕されますね、しかし大会等で緊張したときなど、なかなか軽く銃を持つと言うことが出来にく成ってします事もあります。
ペラッチなどの銃床は力を入れて保持するように作られていますので、軽く銃を保持すると言うのはペラッチ向きの撃ち方ではありませんね。
逆にメルケル等はこうした撃ち方をした方がよく当たります。
力を入れるか、力を抜くか、これは銃床の形状に左右される要因も多々ありますので、ベテランの人に間違った指導をされると、そのまま間違った使い方をすると地獄にはまることにも成りかねません。
射撃大会などの緊張の極に立つ場合は、力を入れて撃つ方がかえって適正かもしれません。
力を入れない撃ち方をマスターした場合、大きな大会で力を入れないで撃つことはまた別の意味での修練を要することに成るかも知れないからです。

30年前の射撃理論と現在の射撃利理論とでは違っているのが当然です。
装弾の量も、初速も、そしてクレーのスピードも、クレーの切れ方も、そしてクレーの硬さも違ってきているのですから、逆に昔と同じだとおかしいと思います、その様に変化するのが射撃理論ですから、100人いれば100通りの、1000人いれば1000とおりの射撃理論があるのが当然なのです。
ですから、色々な射撃理論が混沌として存在するのも事実なのです、そして最大の問題は、その何れもそれぞれ正論なのです。

ですから"クレー射撃の理論と実際"と言うようなバイブル的なハウツウ物を書くほど厚顔無恥なシューターは存在しないと言うのが事実ではないでしょうか。
書けば必ず反論されるのは見え見えですからね、それに人の足を引っ張る人はこの世界には意外と多いのではないかと思われます。

ですから、このコラムで書いた私の射撃理論も当然ボロクソに言う人が存在したとしても不思議ではないし、私自身はそれに反論もしません。
しかし、私のコラムに異論があれば、別のHPでさらなる優れた射撃理論の展開、そして開示を切望するものです。


読者意見追記 2003年 9月26日

築地様

始めまして。いつも楽しくHP拝見させていただいております米国CA在住の****と申します。
日本国内で所持許可を取るほどの甲斐性が無かった私ですが、もともと銃器関係は好きだったので在住後に散弾銃を含め4丁ほど所持し、ただいまクレー射撃(主にアメリカントラップとスポーティングクレー)にしっかりはまっています。(と言ってもクレーは始めて1.5ヶ月の超初心者ですが)

いつもながら、非常にわかりやすいコメントやアドバイス、業界の事情など知識と文才にうなるばかりですが、今回の御社のコラム「クレー射撃、その異なる射撃理論の存在」は大変参考になりました。

理論など何も判らずに闇雲に始めて以来、すぐに20個以上は当たるようになったのですが、どうしてもスカッと粉砕しない事に不満を覚えて、まず今回とは別のコラムでの射撃法を勉強させていただき、多少は粉砕回数を上げる事ができました。

ちょうど時期を同じくして、上手な方のフォームを見て、皆、結構バラバラなので疑問に思っていた所でしたので「そういうことなのか」と判った(おそらくわかった気持ちになっているだけ?)次第です。
私の地元では田舎なのでインターナショナルトラップはあまり見かけませんし、使用装弾も異なるので全く同じではないかもしれませんが、過去の歴史も含めたコラムはその点でも非常に参考になります。

色々と業界に旋風を巻き起こし、その中で常にシェアを伸ばすことは想像を越えるご苦労があるかと思いますが、是非これからもがんばってください。HPも楽しみにしております。 

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