銃身破裂 - 銃身

2002年 7月 5日 築地

ある日突然、この銃のオーナーから怒りの電話を受けた!
射撃場で射撃中に突然銃身が破裂したと言うのである。

銃の全体図
銃の全体図

「何もしないのに突然銃身が破裂した」と言われて私も当惑した。
突然銃身が破裂したので、お怒りの様子であったが原因が無くて銃身が破裂する事はない。必ず原因が有る筈なので、順序を追ってお話しを伺った。
まず、火薬が原因の場合は主に機関部が損傷する、今回の場合は銃身の破裂、それも銃身の中心付近と言うことなので、そうすると異物の残留が原因と考えられる。
その事を話すと射撃中に突然起こったので異物が有るとは考えられないとの事で、お客様は何か銃身素材が不良だったのではと言うような雰囲気であった。
私は、お客様に装弾はハンドロードかどうかお尋ねしたところ、ハンドロードだとのお答えであった。私は思い当たるフシがあったので、銃身破裂する前、ちゃんと弾が出ましたかと聞いた、一瞬沈黙の後、ちゃんと出たとお答えが帰ってきた。
私はさらに質問を重ねた"反動が有りましたか?" 数秒の沈黙の後、「反動が無かったと」との答えである。
その答えを聞いて、私は原因を指摘した。

"その弾には火薬が入っていませんでしたね!"

つまり原因はこういう事である。
雷管の圧力だけで弾頭が押し出され、雷管の火薬ガスだけでは火薬の絶対量が不足しているので銃身の途中で弾頭が停止し、その後ちゃんとした弾を撃ったので、途中で停止した弾頭に次の弾の弾頭が追突して異常高圧が発生し銃身破裂が起きたのである。私はその事を順序立てて説明し、その時点でやっと原因がご自分に有ったとご理解されたようである。

破裂した銃身
破裂した銃身
割れた先台
割れた先台


火薬ガスは気体なので、皆さんにはあまり実感を持って考えにくいと思いますが、弾頭が急停止した場合、火薬ガスは銃口に向けて突進している最中なので気体であっても急停止は出来ない。列車事故で先頭の車両が何かとの追突により急停止した場合、後続の列車が次々と折り重なって来るのと同じような現象だとお考え頂きたい。
この銃身はバーミント用の太い銃身なのであるが、そうした異常高圧が起きるとこんな頑丈な銃身でもひとたまりもない。

レミントン700の銃身素材はクロームモリブデン鋼である、この材料は粘りや引っ張りに強い鋼材で充分な強度を持っているのであるが、その素材がこの有様なのである。

銃身接写
銃身接写

こんな強力な破砕作用が起きたのであるから、撃った人は大丈夫妥当かと思うのが当然であるが、思いの外ほとんど無傷である。但し、この射撃中はベンチレスト射撃をやってたまたま指の一部を銃身にかけていたので、飛散した弾頭の破片で指に傷を負われたようであるが、通常の様に先台を握って、ちゃんと構えて撃たれていれば無傷であった事は間違いない。何故なら機関部とボルトは完全な状態であるからである。
銃の鋼材はすべてクロームモリブデン鋼を使用している、しかしながら銃身が破裂して機関部が無傷なのはどうしてだろうかと思われるかも知れないが、実は熱処理でそれぞれの硬さに違いを持たせてある、一番硬度が低いのが銃身である、その次に硬いのは機関部で、一番硬いのはボルトである。この様に硬度を変化させて異常高圧が発生した場合はまず、最初に銃身が裂けるように作られているのである。
銃身が裂ければ圧力は瞬時に低下する、そうする事により機関部の損傷を回避しているのである。

無傷のボルト
無傷のボルト
無傷の機関部
無傷の機関部

この銃の機関部の写真をご覧頂きたい、写真でお解り頂けるように、機関部には全く異常はない、ボルトも全然痛んでいない、銃身が破裂する事により、こうして機関部が安全に守られたのである。

無傷のボルト 側面
無傷のボルト 側面

もう40年くらい前の話になるが、今は無くなった神奈川県の富岡射撃場で、当事唯一の国産ライフル銃を製造していたYSSと言う会社の銃をこの会社のオーナーが試射している最中に突然ボルトが抜けて射座の後の板に突き刺さったという事件があった、幸い試射なので銃を構えたわけではなく、サンドバックの上に置いて撃っていたのでけが人は無かったか、見学していた射撃部の学生の間では有名な話として語り継がれ、当事からYSSライフルを敬遠する人たちは概ねこうした噂話が記憶の底に残っていたのかもしれない。
ウインチェスターやレミントンの半値くらいしかしなかったYSSも国内では全然売れず会社は倒産してしまった。私はYSSの工作が駄目だったのではなく熱処理が硬すぎたのが原因では無かったかと今でも密かに思っている。
この様に、銃器の場合は熱処理が非常に大切な事なのである。
機関部は、不必要に硬ければ良い、不必要に強ければ良い、と言う物でもないのである。

今でも時折、名もないメーカーの機関部破損等の事故を見ることがあるが、ほとんどの場合機関部の硬度が硬すぎるようである。機関部の硬度が硬すぎると、逆に今度は火薬ガスの圧力がボルトに集中することになる。
銃身が破裂するのが一番の、そして最初の安全回避策であるが、火薬を間違えて、ライフル火薬の替わりに散弾銃の火薬を間違って装填したような場合、弾頭が前進する前に機関部付近で異常高圧が発生するので銃身が破裂する前に機関部に火薬ガスの圧力が集中する、その場合、雷管の穴からガスが逆流しファイアリングピンの穴を通過してボルトのガス抜きから弾倉の方に抜けるのである。ファイアリングピンの穴と言うと非常に細いのでにわかに信じられないかも知れませんが、ガスも非常に高速ですと、曲がる事がないのでほとんど直線上を逆流する事になる。そのため機関部の横方向にガス穴が有ってもほとんどそちらには流れない、最初はファイアリングピン穴にそって逆流をする、そして開放された部分に来て、初めて方向を変えて弾倉方向にガスは流れ始めるのである。
有る程度圧力が下がったと言っても、この時点で弾倉はほとんど破砕され、底蓋は間違いなく抜け落ちる、これが機関部で起きる破砕現象である。

無傷の弾倉
無傷の弾倉

このガス回避策が設けられていなかったり、機関部の強度が必要以上に強いと、ボルトが破砕され、ボルトが銃を狙っている人の顎を直撃する事になる。

残念ながら、こうした事例も現実に起きているのである。

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