テーパードボア 銃身 - 銃身

2003年 7月21日 築地

時折メールでテーパードボア銃身について聞かれますので、コラムとして書いてみたいと思います。

テーパードボア、つまり銃身の内径がテーパーに出来ている銃身のことです。
こうした銃身は作るのが大変なので滅多に日本ではお目にかかれませんが、僅かですが存在します。但し、とうてい適正価格と思えないようなべらぼうな値段で取引されているのでその加工方法と意味と効果と適正価格と、そしてその歴史について説明してみます。

テーパードボアでゆっくり絞るのでパターンが良いとか、反動が少ないとか、逆に初速が上がる(反動が強い)とか色々な説があります。
私自身は実射実験をしていないので何ともコメントできませんが、これ以外の現用のチョークの銃でちゃんとクレー射撃は25満射が出来るのでテーパードボア銃身が特段優れていると私は全く思いません。
散弾銃はパターンだけで撃つのではなくコロンでも破砕するわけですから、パターンが大きいと言うことはコロンが短いと言うことになります。
私はクレー射撃を毎週撃っていますが、トーナンメント射撃はライフル射撃の世界で40年以上やっているので、クレー射撃でトーナメント射撃の世界に入るつもりはありません。では何故クレー射撃をそれほどやっているかと言うと、シドニーオリンピックで見た、クレーを粉々に粉砕する射撃を徹底的に追求しているからです。
日本のクレー射撃では、クレーを飛ばしてかなり遠く言ったところで(パターンの広いところで)撃って、やっとクレーに当たって力無く2枚に割れても1点は1点です。
私は、クレーを粉々に粉砕する射撃が好きなのです、何となくこれこそがトラップ射撃と思えてなりません、少なくともオリンピックで見た感想はそうでした。
割れさえすれば1点と言う考え方は確かに正解ですが、だからクレーを遠くまで飛ばして出来るだけ散弾の開いたところで取れば確率は良いかも知れません。
だからパターンの事を云々するのかも知れません、でもオリンピックでの射撃は違います。
クレーを粉々に粉砕します、明らかに日本の射撃方法とは違うと思います。
もしこういう射撃を目指すなら、パターンが広いとか、狭いとか言う理論は何処かにすっ飛んでしまいます。
クレーを粉々に粉砕するにはコロンを有効に使わないととうてい無理だからです。
私は、ブローニング,メルケル,ペラッチを使って徹底的に撃ち込んでいます。
メルケルの絞りが一番きついのですが、どの銃を使ってもクレーを粉々に粉砕することは可能です。但し、いずれの銃もスイングのスピードは相応のスピードが必要です。
銃のスイングを速くすると「銃身がぶれる」「狙いのラインが崩れる」「銃のスイングが速すぎる」種々の要因で外れることが少なくありません。
トーナメント射撃を想定すると、クレーをゆっくりと追って、散弾のパターンが広がったところでクレーをとらえた方が点数は稼げるかも知れません。
しかし、オリンピックでは「違う」と思います。
こういう撃ち方をすれば、国で違うクレーの堅さは問題ではありません。
外国の大会で硬いクレーが使われたとしたら、外国選手と日本選手との差はてきめんに出るはずです。ま、国内で和気藹々とクレー射撃を楽しむ分には問題ないですけどね。
さて、テーパーボア銃身の話をするのに余計なことを書いたように思われるかも知れませんが、テーパー銃身はパターンが良いと言われているので、パターンよりもコロンを重要視すべきだという意味でこういう話をしたわけです。
そもそも散弾銃のパターンと言うのは装弾の初速と極めて密接な因果関係にあります。
装弾の初速を上げると、散弾はドーナツ状に展開します。
装弾の初速が早い場合は、チョークの寸法を少し大きくする必要があるのです。
これは単にチョークの寸法だけで変化する問題ですから、コーンの長さが長いとか、チョークのテーパーがどうとか、チョークの長さがどうとか、チョークの形状により劇的な変化が生じる訳ではありません。もとより、チョークの形状と言うのは今まで色々なメーカーで色々なチョークを出しました。そして全てのメーカーが「当社のチョークこそ最高の性能」と宣伝した物です。30年くらい前はそうではなかったでしょうか?
「一部の会社は今でもそうですがね」で、違いはありましたか?
私はチョークはどれもこれも同じような物と思います。
これはパターンテストでは無くて、実際に撃った感想です。
パターンテストではコロンのテストは出来ないので、実際に撃って体験するしかないのです。私の体験では全部同じです、特にコロンで撃つという事に関しては優劣はありませんでした。ですから今時テーパードボアと言うのは怪訝に感じるのです。
勿論、テーパードボア銃身の優劣性を信じていらっしゃる方のお考えは否定しません、なんせ私が撃っていないのですからコメントのしようがないのです。
但し、はっきり言えるとはクレーに当てると言う本質はパターンの問題では無いということです。

私はテーパードボア銃身は撃ったことはありませんが、作った事はあります。
テーパー銃身の作り方は、穴を空けた銃身に角リーマと言う真四角の焼き入れした長いリーマを使うのです、真四角のリーマの1面に和紙を乗せ、その上に竹の割った物を乗せます、竹の背の部分が銃腔内の面に辺り、その反対面の角リーマの角で銃腔を削るのです。実際には削ると言うよりは摺り取ると言うよな感じで、鉄は削りかすと言うよりは粉状の鉄粉しか出ません、削り面は恐らく1/100~5/1000程度ではないでしょうか。
ですから1本の銃身を削り上げるのに2日ほど要します。
これは何の銃身かと言いますと、実は火縄銃の銃身なのです、前の会社では火縄銃の補修もしていたのでこうした作業もやっていたのです。
散弾銃の銃身の場合、2本ですから加工には4日かかることになります。
この4日と言う時間に幾ら工賃を見るかで銃の単価が判断できると思います。
実際の加工は時間もかかるし、大変ですから私自身は加工しませんが、作業工程はよく熟知しています。作業自体は時間がかかって大変ですが、高度なテクニックを要する加工ではありません、何も現在の名工にやって貰う加工ではないのです。
ですから加工工賃は自ずと常識の範疇の筈です。まあ、
銃身を作るのには、普通の工員の4日分の作業工賃です。
さて、何故火縄銃の銃身をテーパードボアにするかと言いますと、威力を高めるためです。言うまでもなく火縄銃は黒色火薬を使いますが、黒色火薬は威力が弱いため、威力を高めるために色々な工夫がされています。
火縄銃は先込式ですから、銃口の内径より大きい弾は使えません、そのためそのまま撃ったのでは火薬に圧力がかからず全然威力が無いのです。
そのため、テーパードボアに火縄銃の銃腔内を加工して、その銃身に黒色火薬を入れ、最後に鹿革を使い鉛の丸弾をくるみ装填します。
そして銃腔内に奥まで押し込みます、押し込んだところで、さくじょうで、ガンガン叩いて、奥の内径に革が密着するようにするのです、こうした状態で撃てば、火縄銃の中の丸弾はテーパードボアのために常に銃腔内に密着して撃ち出されるので大きな威力が出るのです。このアイデアを日本人は400年前に考えついていたのです。

ですからテーパードボアと言う理論は400年も前に日本で確立されていたのです。
全然新しいアイデアではありません!

多分散弾銃は違う! きっと別の方法で加工しているはずと言われると思います。
私も文献を見ていなければ同じ様に考えていたに違いありません。

所が、30年くらい前に製銃技術の文献を徹底的に読みふけっていた頃、イギリスで書かれた「ロンドンガン」と言う本に、ジェームス パーデイの製銃行程が書いてあったのです、その中になんと火縄銃を加工した"角リーマ"があったのです。
それを読んだ当時は、角リーマなんて知りませんからなんて面倒なリーマ加工だろうと思いました、当時はすでにガンドルもあったし、機械工作の見地から言うと角リーマはとんでもないガラクタとしか見えなかったのです、こんな事をするからパーデイは高い値段になるんだとも考えました。
所が大違いでした、火縄銃の加工をしてその本質にに初めて開眼しました。
角リーマが昔からヨーロッパに在ったのか、パーデイが偶然考えついたのか、それとも火縄銃の製作法から学んだのか、残念ながらそれについては不明です。
いずれにしても、パーデイのテーパードボアは、火縄銃と同じテーパーボアにして威力を高める為の工作だったのです。
上下二連と違い、水平二連は耐圧が弱いため、32グラム装弾以下の弾しか使えなかったのです、ですから同じ装弾を使っても威力を高めるために施された工作だったのです。
実際に角リーマで加工してみると、実に完璧なテーパーが作れます、他の機械工作を持ってしても絶対に不可能な工作だと断言できます。

でも現在の射撃装弾は24グラムと決まっており、初速も1400フィートですから、テーパーボアにして威力を高める意味は全くないのです。初速を上げる必要もありません。

テーパードボアを使うとパターンが良くなると言うなら、それも宗教ですから、別に否定はしませんが!

テーパー銃身と言うには些か語弊があるかも知れませんが、ライフル銃でも銃口が絞ってある物もありました、ありましたと過去形で書くのは現在は無いからです。
1970年代までは、アンシュッツ、ワルサー等の22口径射撃専用銃の銃身は銃口が少し絞ってあったのです。これは22口径の弾頭だけを外して、薬室からロッドで押していけば簡単に解りますが、銃口付近でグッと抵抗が増えるのです、計器で計測できないのでこうして確認するしか方法がないのですが、誰でも実感できる体感なのです。
何故こうしたことをするかと言いますと、鉛の弾は銃腔内を前進していく最中に弾頭の直径が少しずつ削られるかのでその削られた分に合わせて銃口を細くしたのです。
これは油圧で微妙な力加減を加えて外側から押し縮めて加工したのですが、当時は門外不出の技だったのです。私もトライしてみましたが絞りすぎると全然当たらなくなります。
私も長年これこそライフル銃の命中精度を上げる秘策だと勘違いしていた次期がありましたが、アメリカのカスタムライフルを知ってから、これが全く意味のない工作だと次第に解って来ました。私が理解できた後、アンシュッツもワルサーも銃口の絞り加工はやらなくなりました。

テーパードボアについて色々書いてみましたがが、これは一部の射手の間で、値段は高いが、画期的で革新的な工作だと勘違いされて情報が伝達されているので、すでに400年も前に火縄銃で確立されていた日本の加工技術だと言う、歴史のお勉強でした。 

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