火薬燃焼、その瞬間の世界 - その他銃に関する情報

2002年 5月17日 築地

私は1960年に射撃を初め、毎年2万発くらいの弾を消費しているので、今迄100万発くらいの弾を撃ってきたのであろうか?
その定かな数字は知る由も無いが、今まで何度も火薬の異常高圧に遭遇し、様々な火薬の異常現象を体験してきた。その都度火薬の専門家に聞いたりしてきたが、問題点の多くが専門家からですらちゃんとした回答を得られないまま現在に至っている。
火薬を製造する側と、使用する側では、体験の内容と度合いが違うし、さらに一番肝心なことはその体験を再現することが不可能だからである。
私は火薬の製造を生業としていないので、専門家と言うにはいささか問題はあるが、自らハンドロードし、工場製実包も含めてすでに100万発近くの装弾を消費してきた実績から言うと、限りなく専門家に近いユーザーであると言う事くらいは言えるのでは無かろうか。

火薬がどのようなプロセスで点火され、燃焼していくか、誰も見た者は居ない、40年くらい前にウインチェスター社で、火薬燃焼の瞬間を把握しようとして、銃身に装填した弾丸に強力なX線を照射して、それを超高速度フィルムで撮影して"その瞬間"を解明しようとしたが、膨大な電気を使い、多額の費用をかけただけで、いずれも画像が不鮮明で火薬が燃焼するプロセスの撮影は出来なかった。しかしながら弾丸が銃身の中を通過していく現象だけは映し出すことは出来た。
それ以来、現在に至るまでも火薬の燃焼のプロセスを撮影した映像は存在しない、従って火薬の燃焼については、すべて我々の頭の中で描かれるシミュレーションに頼るしかないのが現状である。しかしながら膨大な体験を通じて、火薬は恐らくこういうプロセスで燃焼していくのであろうと言うことは、ほとんど推測出来る迄に至った。

実際に弾を撃つまでもなく、激発の瞬間は文字とおりほんの一瞬の出来事である。
雷管の燃焼速度は爆速8000メートルであるから、ファイアリングピンの衝撃で点火してスパークが数ミリ前進するのは文字とおり瞬間中の瞬間の出来事なのである、しかしながらそのスパークがどのように火薬に伝達して燃焼していくか、火薬がどのように燃えるのか、ほとんどの人が関心がない様である。それは私自身が今まで一度もそうした質問をされたことがない事からも判断できる。しかし、私自身は長年大いに関心を持ち続けたテーマで有ったが、毎月アメリカから取り寄せているベンチレスト射撃にカンする専門誌、プレシジョン シューテング誌の5月号に、たまたま火薬燃焼のプロセスを書いた記事があり、思わず、同じ事を考えている人が他にも居ることを知った。

今までその火薬燃焼のプロセスを図式で示した事例が無いので、これは日本の射手にも大変に参考になると思い、その図式を参照させて貰いながら、原稿を進めていくことにする。
まず、最初に図1をご覧頂きたい、これはシリンダー形式の実包の燃焼説明である、シリンダー形式とは、薬莢と弾頭が同じ寸法の物の事である、例えば30カービンや散弾銃装弾等はその代表的な例である、この図を見るとお解り頂けるが、雷管が点火して、火薬に燃焼が移行すると、その段階で弾頭はすでに前進を始めていると言うことである。多くの人は雷管から火薬に点火して火薬が全て燃焼して弾頭が前進すると勘違いしている人があるが、火薬は弾頭の前進と共に燃焼を継続していくのである、そのため弾頭が前進して薬莢にスペースが生じても常に火薬の圧力が発生し続けると言うことになるのである。

図1
図1

もし弾頭が前進する前にこの火薬が全部燃焼しあっとしたら、それはダイナマイトと同じで、その瞬間に銃は破壊されている事になる。
この火薬の燃焼が異常に早くなる事により、異常高圧が発生する、異常高圧が発生するとボルトアクションの銃の場合、ボルトが張り付いて開かなくなる、自動銃の場合機関部にクラックが入る。これが異常高圧である。
異常高圧はまず滅多に起きる現象ではないので別段心配する必要はないが、さりとて異常高圧を避ける方法もないのが現実である。
異常高圧が起きる原因であるが、雷管の衝撃で火薬が何らかの異常を起こして分解され、先祖帰りとも言うべき、火薬がその原材料のニトログリセリンと同じような異常に速い速度で燃焼するのが原因と私は考えるが、火薬メーカーの技術者はそうした現象が起きることすら認めていない、中にはこれらの現象について全く知らない技術者も少なくない。
この事を説明しても技術者達からは、"銃口内に異物が有ったからではないですか"の一言でかたづけられてしまう。

通常のライフル実包は、薬莢の外形寸法より、弾頭部分の寸法が小さくなっている、これをボトルネックケースと呼んでいる。
シリンダー形状のいわゆるストレート形状の薬莢と、薬莢の先端が細くなっている、ボトルネック形状の薬莢とではその使用する火薬は全く違う、シリンダー形状の薬莢の場合、弾頭の前進により薬莢の体積と比較してエアースペースがどんどん大きくなっていく、ボトルネックの場合は薬莢の体積に比較して弾頭の直径が小さいので、体積の広がり方は少ない、そのためにシリンダー形状の装弾に使う火薬は燃焼速度が速く、ボトルネック形状の装弾の場合は燃焼速度が遅い、さらに薬莢の体積が大きい、マグナム口径の場合は火薬の燃焼速度はさらに遅くなる。
シリンダー形状の装弾にマグナム用の燃焼速度の遅い火薬を使った場合は、弾頭の前進に対して火薬の燃焼が追いつかないので回転不良が起きたり、弾の威力が激減するだけで実害はないが、逆にマグナム薬莢にシリンダー形状の燃焼速度の速い火薬を使うと、大事故になる、弾頭の進行以上に火薬の燃焼速度が速いため、火薬の圧力が異常に上昇するのがその原因である。
最近、ライフルのハンドロードをする人たちから、弾頭の先端をライフリングにタッチさせる状態で弾頭シーテングをする、いわゆるランドタッチシーテングが流行っているようであるが、"これは直ちに止めて下さい"その理由は弾頭を抜くときに弾頭はライフリングに食い込んでいるため弾頭が薬莢から抜けることがあるからです、またランドタッチさせると初速が50フィート位遅くなります。
この様にランドタッチさせる事はあまり良いことではありません、一般的に誤解されている、ランドタッチさせると命中精度が良くなるというのは間違いです。ベンチレスト射撃の場合でも0.5ミリ程度ランドタッチさせないのが一般的な考え方です、ベンチレスト射撃でもランドタッチさせないのですから、通常のハンテングライフルではランドタッチしない弾を作るのが良いでしょう。
雷管に点火して、弾頭が0.5ミリ前進するだけでも火薬の燃焼特性が変化するようです、何故そうなるのかとても説明は出来ませんが、弾頭が少しでも動く事により火薬の燃焼は一瞬"息をつく"という感じで燃焼するのかもしれません。
火薬の燃焼を安定させるために弾頭は均等な力で薬莢に保時されている必要があります、軍用弾頭などは機関銃に使用した時でも弾頭の位置がずれないように、弾頭にクリンプと言って溝を付けてあり、そこに薬莢の先端が食い込むようになっていますが、このクリンプの力が均等で無いためでしょうか、クリンプをすると命中精度が悪くなります。
しかしながらクリンプをする事で弾頭が簡単に動かないため、火薬の圧力が上がり、初速は100フィートほど速くなります。

散弾銃の装弾を考える
私は散弾銃も撃ちますが、元々の専門はライフルなのでライフル射手の特性として装弾には殊の外気を遣います、従って散弾銃を撃つときも、装弾としては何処のメーカーの物が良いのか常に関心を払っています。シドニーオリンピックの時もオリンピック選手は一体何処のメーカーの弾を使っているのか子細に観察したのですが、使う装弾はバラバラでした、それは装弾が成績には何の影響もないことを証明していると言うことです。
印象として一番多いなと感じたのはフィヨッキ装弾でしたが、ライフル実包の経験から言うとフィヨッキ装弾は決して良い弾ではないのですが、その装弾を使用することにより、何らかのスポンサー料が支払われているのかも知れません。
散弾銃装弾に使われる火薬は、シリンダー形状の装弾ですから火薬の燃焼速度は非常に速いのが特徴です。少しでも対抗があると火薬の圧力が急上昇します。
そのため、散弾銃装弾の場合は雷管突破のトラブルが頻繁に発生します、散弾銃を撃つ方は多分何度と無く雷管突破の体験があると思います、雷管突破とは雷管からガスが吹き戻しているトラブルです。
多くの方が、これはファイアリングピンが長いために雷管を打ち抜いたと思われているかも知れません、あるいはハンマースプリングが強いから雷管を打ち抜いたと考えても居られるかもしれません、しかし、原因は全然違います。
これはほとんど、火薬の圧力が強い為に起きる現象です、私はライフル銃でも何度も体験しているのでよく分かります。雷管突破がファイアリングピンの長さや、ハンマースプリングの強さでないことは、他の装弾の打跡と比べれば簡単に解るはずです、他の装弾の打跡はそんなに強くないはずです、打跡は適正な強さで打たれているはずです、なのに何故雷管突破が起きるかというと、その弾の火薬の圧力が強かったからです、と言っても別段火薬が多い訳ではありません、何らかの理由で装弾のクリンプなどが強いだけで簡単に火薬の圧力は強くなります。散弾銃の火薬はそれほどデリケートだとも言えます。
雷管突破した装弾メーカーの技術者に聞いてみたら、案の定、ファイアリングピンだとか、雷管が薄かったとか、なんだかんだ訳の解らない事を説明されました、火薬の圧力だという人は皆無でした。しかし、この雷管突破は簡単に再現出来ます。装弾の先端に溶かした蝋を付けるだけで簡単に雷管突破が起きるので、弾が装弾から抜けるときの抵抗が強くなると火薬の圧力が強くなり、雷管突破する事が再現できます。しかしながら重大事故に繋がる恐れがありますので絶対にまねしないで下さいね)
この様に散弾銃の雷管突破は装弾の製造過程での品質管理の問題です、雷管突破が起きると、機関部のファイアリングピンホールから火薬が逆流する訳ですから、何度も頻繁に起きると次第に穴が大きくなり、ファイアリングピンと、穴の間に隙間が出来ます、そうすると今度はたいした圧力がかからなくても簡単に雷管突破が起きるようになります。また雷管突破の度に雷管の破片などの異物が機関部内に入ることにもなります。
今までの私の経験でこの雷管突破が一番起きたのは、マエストロ装弾です、一番少なかったのはレミントン、プレミアです。以外と日邦工業で製造したレミントン装弾でも雷管突破を体験してから、私は使用する装弾はすべてレミントン、プレミアを使用しています。
たまたま、その装弾が無いときに他の装弾を使うと、色々勉強させられます。
私は銃が好きなので、ペラッッチSCOサイドプレート、FN-D4、メルケル303、ベレッタ405EELL水平2連銃等の比較的高い銃を使っていますが、弾の値段が少し安いと言う理由だけで高級銃を痛めかねない三流装弾を使う愚は極力避けたいと思います、安い装弾を使って、高い銃がイカレタのでは全く割に合わないからです。
皆さんが装弾の善し悪しを決めるのにはどの様な判断で決められていますか?
一番多い意見は、銃が汚れないと言うことですが、これは装弾の善し悪しを決める基準になりません、火薬には色々の添加剤がコーテングされていますが、それは火薬の特性を改善するための物で、火薬によってはそれの燃え残りが出ることもあります、また火薬には黒鉛等をコーテングしてある事もありますが、黒鉛は燃焼しないため銃口内に残留しますがこれは掃除するときには黒い汚れとなってしまいます、だからといってこれは欠点ではありません、例えばこれらの現象はライフル銃の場合ごく当たり前に発生する事なのです。

逆に言うと、装弾の場合致命的な欠陥は、火薬の圧力が高いために起きる雷管突破か、逆に火薬の圧力が低い為に起きる火薬の残留があるかです。こうした弾は極力使用を避けるのが賢明です。

また、ライフル装弾の話です。
図2をご覧下さい。これは雷管のショックウエーブの展開図です、今までこうした事柄が書物に書かれたことはないので極めて貴重な資料です。
これは雷管のスパークがこの様な形で火薬に点火すると言うことを説明しているのです。
薬莢のショルダーの角度が浅いと、雷管の衝撃波は大きなエネルギーとなって伝播しません、Figure(8)をご覧下さい、この薬莢のいわゆる40度の角度です。

図2
図2

この40度という角度が実に微妙で、これ以上でもこれ以下でも駄目なのです。
40度の時に雷管の衝撃波が劇的に火薬全体に伝わり、一気に大きなエネルギーになります、これは誰かが流体力学を研究してこの結果を導き出した訳ではありません、この事に一番最初に着眼したのがP.O.アクックリーという人です。
図3のカートリッジ素面を見て下さい、上の図面は通常の30-06の図面です、下の図面はアックリーさんが作った30-06改良型、通称30-06アックリーと言う薬莢です、寸法はほとんど違い有りませんが、ショルダーの角度だけが、30-06は17.16度、アックリーさんのは40度、これだけの違いですが、30-06はどんなに頑張っても初速は2800フィートなのですが、アックリーさんのは3000フィートまで加速できるのです、3000フィートと言うとほとんどマグナム装弾と同じなのです。

この様にショルダーの角度だけで火薬の燃焼特性は劇的に変化するのです。

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