金属材料学のイロハ - コーヒーブレイク

2001年 6月 2日 築地

この間飲んだ勢いで、"女は男のおもちゃ" なんて軽い冗談のつもりで言ったのに、一緒にいたガールフレンドにこっぴどく怒られ非道い目に遭った。

私が今一番欲しいおもちゃは、新しいガールフレンドではなく、F-15戦闘機である、新型のF-18スーパーホーネットもお気に入りの機種の一つである。
 私がおもちゃと言う割には、おそらくこれらの戦闘機に使われるチタン製のボルト1本すら値段が高すぎて現実には買うことは困難であろう。ボルト1本で多分数万円するであろう。最新式のジェット戦闘機のエンジンブレードは、たった1枚で、多分数百万はするはずである、なぜこんなに高価なのかと言うとエンジン内部で1000度くらいに温度を上げても、強烈な遠心力のかかるブレードが変形しない様に作られているからである、エンジンの温度が高いと言うことはそれだけエンジン性能が良くなる事を意味しているので、これを何らかの方法で冷却すると言うことはエンジン工学から言うと間違った事なのである。しかしながら1000度の温度で通常の強度を持つ軽い材料を作ると言うことは容易な事ではない。そのため、通常の機械工作では作れない特殊な製法で作っているからである、旅客機に使われるブレードは絶対に1000度を超える使われ方はしない、もし1000度を超えるとエンジンブレードが簡単に溶けてしまうからである、こんなありきたりの旅客機のブレードでも1枚80万円するのである。
ですから、戦闘機こそは材料学の究極に位置する物で材料的には幾らお金をかけても経済的にペイする唯一の機械工作物だは無かろうか、ちなみにF-15は1機130億円する、値段で言えば空母などは6000億円とも言われているが、重量当たりの演算で言えば世界中でF-15は一番贅沢な機械工作物であることは皆さんも異論の無いところであろう。

F-15は材料のほとんどにチタンを使っている、チタンは、強度は鉄よりも強く、重量は鉄の60%しかないことが使われる最大の理由である。金額の事は誰も異論を唱えない。
この贅を尽くした乗り物に、重量の重い鉄が使われている部分がある、それは機関砲である、銃身は勿論、それに付属している部品はすべて鉄である、もっと詳しく言うとクロームモリブデン鋼である、私が何故こんな回りくどい言い方で説明しているかと言うと、銃に使われる材料で未だにいい加減な理屈が巷に流れているのでその説明をするため、あえて回りくどい言い方で説明させて頂く。

その一番多い悪い例は、高級な上下連銃は、高い物は材料が違うという誤った考えである。

銃の材料は何よりも引っ張り強度を重要視されて使われる、その最適な材料はクリームモリブデン鋼材なのである、これは100年も前から定義付けられ今日に至るも変化はない、確かにクロームモリブデン鋼材は普通の鉄とすると割高な材料である、しかし、所詮鉄砲1丁で1万円くらいの材料費である。20年くらい前までは銃身素材にボーラースチール使用と打刻されていた銃も多かったが、現在はほとんどこうした打刻は無い、それは、昔ボーラスチールは世界で一番不純物の少ない材料であって、値段も高く、かつ当時としてのレベルでは品質も良かったからである、おっと、ボーラースチールといえども銃に使われるのは同じクロームモリブデン鋼なので勘違いして貰ってはこまります、ボーラーと言うのは会社の名前で単なるブランドと考えればわかりやすい。
ところが、現在では製鉄技術に関しては最早日本が世界最高のレベルに達しているのである、従ってボーラースチール使用と打刻することは現在ではあまりカッコいい事ではないのである。
ところが、何でもかんでも舶来崇拝という資質のある人は、ボーラースチール使用と打刻してあると何か異質な材料のように勘違いしてしまい、ただひたすらその銃を崇拝してしまうことになるのである。最悪なのはその素材も何種類も種類があり、銃のモデルによっては材料を使い分けていると考えている人が決して少なくないのである。

材料学をやっている人なら、材料を使い分けると言うことはとてつもない無駄であることはすぐにわかるのだが、こうした知識の無い人に取っては私の理屈の方が遙かに無知と言うことになるのかも知れない。そういう人たちにすると良い銃にはとてつもなく高い材料を使い、安い銃にはそれなりの安い素材を使っていると思っているらしい。数年前まで豊和工業ではウエザビーライフルを製造していたが、最近の傾向としてステンレスの銃が流行ってきたのでウエザビーでもステンレスのライフルを作ることになり、豊和工業にステンレスライフルの発注をした、豊和工業は製鉄メーカーに素材の購入を打診した、銃に使われるステンレスは普通に流通している133ステンレスや188ステンレスなどと違い、切削性、加工性を良くするためほんのわずか隣などの不純物をあえて加える、そのため他の用途には全く転用できないのである。そのため銃に使用するステンンレス鋼材は全くの特注品と言うことになる。
で、その特注の材料を注文するのに、1回のロットで豊和工業で製造するウエザビーライフルの数年分の量なので、あまりにも膨大な注文量なのでとうとう豊和工業はステンレス材料を注文出来なかったのである、程なくウエザビーは豊和工業に製造させていた銃の製造を全面的に中止し、アメリカ国内で製造するに至っている、銃用のステンレス素材なら、まだアメリカの方が少ない数量での注文が可能だからである。しかしながらステンレス銃を作っていない散弾銃に関しては未だにSKB社に注文を出していることからして、豊和工業が銃用のステンレス鋼材を発注出来なかった事は製造中止を余儀なくされた大きな要因の一つだと考えている。材料をスチールの外にステンレスを加えるだけで"仕事を失う"ほどの事をやっているので、銃によって材料を変えていると言う理論は与太話でしかないのである。

この様に特殊な材料を注文すると言うことはその辺で米を買うのとは根本的に大変な違いがあるということである、従ってペラッチなどが高い銃には高い素材を使っていると言うのは間違いである、もしそれをイタリアの銃砲店、あるいはペラッチ関係者から聞いたというのであれば、聞いた当人がイタリア人から簡単に騙されたとしか言いようがないのである。

素人意見では、素材の堅さが違うと言うことを材料が違うと勘違いしている節がある、クロームモリブデン鋼は素材の状態では普通の鉄と変わらない堅さである、それは刃物で加工しなければならないからである、加工の終わった製品は熱処理をされる、その熱処理の処理方法で鉄の固さが決まるのである、熱処理では同じ素材でも銃身は柔らかく、機関部は堅く熱処理する、それは異常高圧が発生したときには、必ず銃身が破裂すると言う"お約束"があるからである、かりに銃身が堅いと、破裂するのは機関部と言うことになり極めて危険な銃になるからである、同じ素材を使ってもメーカーによって堅さが違うが、それは銃器の設計者がどのような考え方で銃を設計しているかによる事である。
昔とするとクロームモリブデン鋼は多少の進歩があった、鉄の組織を緻密にすることで鉄の強度が高くなったからである、そのため最近作られるレミントン、ベレッタ、ブローニングの自動式散弾銃の銃身は昔とすると0.5ミリ程度薄くなっているのである、材料の強度としては同じでなおかつ薄く作れるようになったのである、現在考えられる最先端の技術が実用化すれば鉄の強度は今の2倍くらいまで強くなると言われている、金属の組織を極限まで緻密にすることによりそれが可能になる。そうした材料なら一般のクロームモリブデン鋼よりは高いかも知れない。
逆に出来るだけ安い銃を作ろうとして鋼材を極限まで切りつめたとしても、銃の安全性から考えて使えるのは45C等の炭素鋼だけである、確かにこの材料はクロームモリブデンよりは材料代は安いのだが加工性が悪いので、結局は製造現場でのコストは高く付くことになり、現在では10万円の銃でも1000万円の銃でも、使用している材料には違いがないのである。1000万円の銃を持っている人に、10万円の銃と同じ素材だよと言われればきっと "ムッ"と来ると思うが、130億円するF-15のバルカン砲と同じ素材だよ、といえば納得していただけるかも知れない、130億円は飛行機の値段だろうと指摘されるかも知れませんが、バルカン砲自体は一億弱する銃器なのです、どうです一億弱の銃からすると1000万円のペラッチはおもちゃに見えてきませんか。

バルカン砲は一億弱する銃器なので"銃身には特殊な素材を使っている"等と愚かな事を言うと、GEのエンジニア腹を抱えて笑い転げることでしょう。

ブランド
カテゴリー
ページの先頭へ