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MIL-DOTとMOA

2009年8月22日 FEGS


 

MIL-DOT
まことしやかに言われることがあるが、ミリタリー・ドットのことではない。MILとはミリのことで、リチクルに刻まれた1ミリラジアン刻みのドットをさす。ミリはミリメートルのミリと同じで、10の−3乗、1000分の1という意味。計算機世界では1E-03 ラジアン。一般には ラジアンのこと。

ラジアン(radian)とは、角度の単位で孤度角のこと。円の直径と同じ長さの円弧が、円周上に幾つ乗るか。それは3.14個のるというのは、円周率としてお馴染みのπである。では半径の長さの円弧を考え、この円弧の長さに相当する角度を1ラジアン(1rad)という。お馴染みの「度」で言えば、約57.32度ある(直径ℒ=2πrから明白)。この1000分の1が1m rad(1ミリラジアン)、つまり0.05732°=1ミル。

角度1ミルは、100ヤードの距離においた標的上、3.6インチの長さに相当する角度。

∴ 
yd

 1ヤードは36インチなので、換算すると3.6インチとなる。ミルドットレチクルで大きさが分かっているものを見たとき、距離の計測ができる。1000ヤードの距離で2ミルのときの大きさは、72インチ=6フィート=2ヤード=182 cm(180 cmでも可)と覚えておく。
約6フィートの身長の人間を観測し、4ミルあった場合、(2/4)×1000=500ヤードと概ねの距離がわかる。双眼鏡にミルのメモリを刻んである例がある。艦艇などはジェーン年鑑などの資料から、でマストの高さや全長など概ねの長さが知られているので、水平線の約23海里から手前に姿をさらしていれば、ミルドットのメモリ付き双眼鏡で大体の距離が即座に暗算できる。

 リュウポルドのスコープに付属する取扱説明書によれば、ドットの中心からドットの中心までが1ミルで、ドットそのものは0.2ミル、ドットとドットの間が0.8ミルなどで構成されているとある。対象の大きさが分かっていれば有効な照準システムであろう。

 ゲームを狙う場合、ミルドットが何かの役に立つだろうか。鹿の角など大きさの知れたものがなければ、メリットが少ないレチクルのようだ。風によるドリフト量の見積もりが可能な、複雑なレチクルなどあるとしたら、その手のマニアにはうけるが、フィールドで使いこなすには、練習する場所すらないのが現状。レンジファインダーの方が確実ではあるが、ミルドットマスターのような計算尺など便利なものがあるので利用するのもよいだろう。風は勘に頼る場合が多いだろうし、それならバーミンターレチルクの方がまだシンプルで使いやすいかもしれない。今年発表のリューポの新製品のレチクルなどが良いかもしれない。

 最近アメリカ海兵隊は、単位をマイル、ヤードから全面的にメーターに切り替えたそうだが。小説「ジェネレーションキル」などでは、兵士たちの会話では、まだまだヤード、マイルが使われている。生まれた時から慣れ親しんだ距離の感覚を、中々変えることもできないのだろう。

 そのことと符合しているのかどうかは知らないが、数年前からリューポルドのカタログ上にTMR(Tactical Milling Reticule: タクティカルミリングリチクル)が登場している。

 1000ヤードでの距離で36インチ=1ヤードの大きさに相当する角度は1millだが、1000メートルでは角度1millがどれくらいの大きさに相当するのかを計算してみれば、概ね1mとなる。TMRでは、メートル法で考えられているので、MILL DOT reticuleと区別して1MILLと表記している。「ミル」と発音するとMILL DOTで、「ミリ」あるいは「ミリング」と発音すればTMRを指していることが多く、実際の角度はいずれも同じ1ミリラジアンであることに変わりはない。


MOA

1MOAとは角度の1分のことである。この角度は100ヤード先の標的上で1インチの長さに相当するといわれる。MOAの意味と実際のところどの位の大きさなのか、つまり本当に1インチなのかどうか考えてみたい。

 MOAはMinutes of Angleの略で、直訳すれば「角度の分」である。角度の単位は、度(Degree)の下の単位が分(Minutes)、分の単位の下が秒(Second)。そして60秒で1分、60分で1度であるとは一般に知られているところである。身近な箇所の角度を測るとき、または方向を示す際の方位など、大抵の場合は1度刻みの単位で表せば十分なのだが、距離が大きくなると、もっと小さな刻みが必要になる。実際に緯度、経度で位置を示す場合などは、

    緯度 35度31分45.574秒(35.529326),
    経度 139度43分45.005秒(139.729168)

などと書かれる。地球の中心から地表までの距離を半径として、1度ずれると約111kmも位置が変わる。1分では約1.85km、1秒では約30.9mも位置が変わる。ちなみにこの1分に相当する距離が1海里。地球の半径が概ね6360km程度なので、僅か数度の角度の違いが地表の上では大きな距離になるため角度を細かく考える必要があるのだ。
 射撃の世界では、初めに大砲の分野でMOAが用いられたのが、ライフル射撃でも用いられるようになったと考えられる。射撃距離の場合、分(Minutes)のオーダーがちょうど良かったのではないかと推測する。

それでは、1MOAが100ヤードで1インチであるという根拠を見ることにする。弾頭の移動距離に対してなす角度が1分と十分に小さいので、直角三角形で近似して考えれば、分かりやすい。弾の発射点をAと置き、照準線が標的の面に垂直に当たる点をCとする。この照準線を直角三角形の底辺ACとする。弾道線が標的に当たる点をBと置く。この弾道線を直角三角形の斜辺ABとすれば角度1分(Minute)に対する標的上の移動量を直角三角形の縦の片BCとおくことができる。この直角三角形ABCでBCを計算してみよう。関数電卓をお持ちならば、実際計算してみることをお勧めする。


Scheme 1 Triangle ABC and Target.

 角CABが1MOA、つまり1分の角度で、辺ABが100ヤードのとき、三角関数 のtanθ=BC/ACを用いれば、

      AC=100 ヤード
      θ=∠CAB=1分=1/60度
     ∴ BC=AC tan (∠CAB)=100tan (1/60)=0.02908・・・ ヤード

 これをインチ単位に直す。1ヤードが36インチであることから上記の計算結果に36を掛けると1.047インチとでる。100ヤードでは概ね1インチと言って差し支えないであろう。また1000ヤードの距離で1MOAといった場合、10.47インチになるので概ね10.5インチとするのが妥当であろう。

 ライフル銃に限らず空気銃から大砲まで、遠くへ弾丸を飛ばす銃砲による射撃で、弾着の精度を表すのに距離に対して何インチとあらわすことが多い。たとえば「100ヤードで1.5インチのグルーピング」などというが、この場合距離が変わればまたその距離を断らなければならないうえ、値そのものが変わるため、同じことを言っているにもかかわらず、それが解りづらい。距離が300ヤードならば4.5インチ、600ヤードならば9インチで同じ精度になるが、瞬時に同じ精度を表しているとは解りづらい。
 どの程度のグルーピングで、弾着の精度はどの位なのかを角度であらわせば、距離による数値の違いがなくなる。上記の例では、いずれの場合も1.5MOAと一言であらわすことができる。同様に200ヤードで1インチのグルーピングが得られたならば、0.5MOAということになり、この精度のままで300ヤードの射撃では4分の3インチ、400ヤードの射撃では、1インチのグルーピングが予測される。

 1MOAの精度という場合、300ヤードでは直径3インチのグルーピングである。約76mmの円の中に弾痕が散らばっているようなグルーピングと考えればよい。
 射撃距離が何ヤードであっても、射撃の精度を角度で表すことで、距離によって値が変わることなく表現できるのである。いちいち距離を断らなくても、何MOAと一言で済む。命中精度をMOAいえば、逆にややこしいことは何もなくなり、レンジの違いも超えて、弾道精度の比較ができる。たとえ空気銃であろうとMOAで精度を表すことに何の差し支えもないであろう。

 残念なことに我が国の射撃場は、ほぼ全てがメートル距離なので、いちいち計算するのだろうかという疑問はある。100mの距離で考えるならば、

      100m=(100×100/91.44 ) ヤード
      ∴ BC=AC tan(∠CAB)=(100×100/91.44 ) tan(1/60)=0.003181・・・ ヤード

 100mでは1.145インチとなるため、すっきりした数値とは言えなくなるが、1000mのような射撃場には縁がないので、その差も気にしないで使っていることが少なくないのではと推察する。上記のインチをcmに換算してみると100ヤードで2.54cmにたいして100mで2.91cmと概ね1割増しといったところ。100ヤードで1インチ、100mで3cmと、大まかに考えるのもよいだろう。

 スコープのリチクル移動量は、多くの場合1クリックあたり4分の1MOAであることが多い。100ヤードならば、弾痕を1インチ移動するのに4クリック回せばよい。200ヤードならば2クリックで1インチ、400ヤードならば1クリックで1インチの移動量となる。一方、1クリック当たりの移動量を各距離で見てゆけば、100ヤードで4分の1インチ、200ヤードで2分の1インチ、300ヤードで4分の3インチ、400ヤードで1インチである。1インチ=25.4mm=2.54cmの長さを、目検討が利く様に感覚的に覚えておくか、または標的の圏的間の長さをあらかじめ調べておけば、スコープ調整の際、感覚的に弾着の移動量がつかめるだろう。

 メートルレンジでは、100mならば同じ4クリックで1.145インチの移動量になるが、かなり大雑把になるが、上記のように1インチを感覚的に約3cmと考えれば、スコープ調整のうえではさほど支障がないだろう。

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