間違いだらけの銃選び(銃床編) - 間違いだらけの銃選び

2003年 2月 7日 築地
更新 2003年 2月 9日 築地

過日、読者の方からメールをいただき、私の風貌が、どこか自動車評論家の徳大寺氏に似ていると言われました。普段から私は、自らの風貌はどこか俳優のトム、クルーズににていると思っていましたので、徳大寺氏に似ていると言われても別段喜ばしいとは思いませんでしたが、似ていると言われるのなら、いっそ氏の著書になる大ベストセラーの"間違いだらけの車選びのパクリで、その"冠をいただいて"間違いだらけの銃選び"と言うテーマで書いたらと言うお気楽な発想でまた原稿を書いてみようと思います。

氏の"間違いだらけの車選び"はこれらの雑誌としては超ベストセラーで、10年以上にわたって書かれている書籍です。今まで数十と言う版を重ねているので膨大な印税が氏の懐に転がり込んでいるわけですが、私の様にHPにいくら原稿を書いても懐にはただの1円も転がり込んで来ません。
只の原稿なので、冠にパクリの"間違いだらけの"と言うフレーズを書いても、徳大寺氏から訴訟を起こされることもないであろうと考え、早速アクセルを踏み込みます。
アクセルを踏み込んだ瞬間に急ブレーキをかけたくなりましたが、よく考えると、銃器の世界は車の世界ほどバリエーションが豊富ではありません。従って徳大寺氏の書籍みたいに膨大な原稿量は書きたくても書けない、根本的な問題がある事に気づきました。
従って、何時エンストするか解らない状態での危なっかしいスタートと相成りました。

 今まで相談を受けた中で、一番気が重いのは、日本人向けの銃床と、外人向けの銃床と言う相談です、大体が日本人向けと言う、大雑把な分け方自体が論拠を欠いていると思うのに何の疑念も持たずに信じておられる方が少なくない事に先ず驚かされます。
日本人の中にも、デブも、痩せも、のっぽも、チビもいます、また青二才も、爺もいます、雄も雌も、鬱病もどきの奴も、態度のでかいのも、居ます。
あっ、態度のでかいのは私でしたが、そんな訳で大体"日本人"と言う分け方が相当乱暴であると言うことがお解りいただけるでしょうか。
逆の言い方をすると、外人向けと言うのもさらにいい加減な言い方だとご理解頂けますでしょうか、外人の中には、デブも痩せも、のっぽもチビもいます、また青二才も爺もいます、雄も雌も、色の黒いのも、黄色いのも、白いのも、おっと、これを書き出すと原稿用紙数百枚分は書けるのですが、書き手のテンションが上がっても、読み手が白けてしまうので止めておきます。
つまり100人の人間が居たら、100通りのタイプの銃床が必要となるわけで、日本人向け、外人向け、と言うセールストークが如何にいい加減な物かお解りいただけましたでしょうか。勿論大きい銃床を小柄な人が使いこなせる訳も無く、その逆もまた同じです。
要はその人に合わせたサイズが必要なのですが、どういう寸法を最適とするのでしょうか、この根拠が結構いい加減なのです。
 何故いい加減かと言いますと、射撃理論は年々進化していますのに、その射撃理論にあわせた銃床の適正寸法という理論はほとんど論じられていないからです。
本来は射撃理論の変化に応じて、適正銃床の寸法は変化するのが当たり前ですのに、これに関して論理的な寸法が存在しないのです、今でも往々にして言われるのが、銃のレコイルパッドを肘の内側に当てて、そのままグリップを握り、引き金に指が届けば適正、届かなければ銃床が短いと言う論法です。
一体、これらの根拠がどこから出たのかそのルーツは知りませんが、その論法で銃床を調整しますと、現在の射撃理論では明らかに2cm位、適正から短い銃床になります。
逆に言うとその寸法から約2cm程度長目にすれば適正と言うことになります。
この寸法はトラップ射撃の場合ですから、スキート射撃の場合は1cm程度短い寸法がベストでしょう、また狩猟の場合のように厚着をする場合は、服の厚み分さらに短くするのも理に叶っています。
銃砲店の店内で、お客様に好きな様に銃の寸法を決めさせますと、どうしても"使いやすい"寸法になるため、上記のような短い寸法に出来上がってしまいます。
先ず、使いやすい銃と言うのが、必ずしも当たる銃ではないことを理解する必要があります。
 銃床が短いと使いやすい、構え易い反面、実際のクレー射撃の場合は銃が走りすぎて、撃つ瞬間に銃が止まるというクレー射撃で最悪の問題が起こります、また、銃が使い易いと射撃の瞬間に銃が暴れると言う問題も起こります。

最近私の書いたコラムに"鉄砲自慢"という記事がありますが、この中で私は、メルケル、ブローニング、ペラッチの上下2連銃を使っていると書いています。
それぞれの銃がベンド、プル、グリップの太さ、が違います。
違いはあってもそれぞれの銃で満射を撃った経験は何回もありますから、銃によって当たるとか当たらないとか言うことはありませんが、いずれも撃ち方は大きく異なります。
いずれの銃もその時代背景の射撃理論に左右されて作られていると思います。
一番古いのはメルケルでしょう、この銃は頬付けもソフトに、グリップも柔らかく、先台も軽く握り、軽やかなスイングで撃つと使いやすく、かつ良く当たります。
当たるのですが、銃口の跳ねは大きくなります。また同じフルチョークでも絞りはきつめなのでクレーをある程度飛ばして撃つのには適しています。

ひるがえり、ペラッチの場合、頬付けも、グリップも、そして先台の握りもしっかり持って力強いスイングをすることにより、良く当てる事が出来ます、必然的に初矢は早く取り、初矢がはずれた場合、銃のぶれが少ないので間髪を入れずに二の矢を撃つことが出来ます。
これを可能にしているのが、ベンドの高さ、グリップ、先台の太さです。
ある程度しっかり握りませんと、こういう射撃は出来ません。従ってこれらは太めになっているのです。これを見て、あ、外人用だからグリップが太いね、なんて事を言うからトンチンカンな事になるのです、しからばメルケルは外人用では無いのでしょうか?
紛れもなく外人用です、しかしながら射撃理論の違いで銃床の形状がかくも変化しているのです。メルケルでも間違いなく満射は撃てます、しかしながら安定性が悪いのです。
現在の様にスピードの速い、そして切れの大きいクレーを安定して満射を撃ち続ける、それにはペラッチタイプの銃床の方が理屈に叶っているのです。ですからペラッチを購入して、ベンドを深く、グリップを必要以上に細く、先台も細くなんて具合に作りますと、それはもはやペラッチでは無いのです。
ではメルケルをペラッチタイプにするとどうでしょう、それならば最初からペラッチを購入した方が良いでしょう、メルケルの場合、私は制作者の意図を尊重してオリジナルのまま使っています、当たる当たらないよりそちらの方が私は楽しいのです。
メルケルをペラッチみたいな銃床にしても、銃が重く、かつ引き金の初矢、二の矢の切り替えがペラッチみたいにスピーデイでないので、銃をがっちり押さえて撃つと言う撃ち方には適していません。やはりメルケルはメルケルの銃床でしょう。
メルケルも1960年代から変化する射撃理論に応じて銃を軽量化したり、銃床の形状を変化させたりさせていけば、今でもメジャーな銃であり続けたと思いますが、それにはメルケル自慢の芸術的な、技術の頂点を極めたサイドロックを捨てさらなければならなかったと思います、メリケルはあえて頑固なまでに現在のスタイルを守り続けているのだと私は思います。

肘の張り方も射撃に影響を与えます、肘が張りすぎる、肘を落としすぎる、銃床のグリップの形状が、ストレートグリップに近ければ近いほど、肘は高くなります。
ロンドンガンの水平2連はストレートグリップで作られていますが、こうしたグリップを握ると必然的に肘は高くなります。
逆にピストルグリップの場合ですと肘は下がります。ライフルの例で恐縮ですが、M-16等の軍用銃の場合、肘の位置が下がるのがご理解頂けますでしょうか。
この論法からするとペラッチのグリップは他の銃からするとグリップはピストルグリップに近いので、あまり肘を上げないで、がっちり銃を構えて撃つ意図で作られています、ですから銃床と言うのはいずれもそれぞれの会社の射撃理論に裏打ちされて出来ているのです。オリンピックなどで使われる銃の場合、銃器の設計者と、射撃選手のアドバイスで今日まで何度も何度も試行錯誤が繰り返され、そうして練り上げられて作られた歴史があります。従ってその銃がオリンピックで使われたかどうか、そういう点は銃床形状に大きな影響を与えています。
私が上下2連の射撃銃はオリンピックで使われた銃しか取り扱わないのはそうした根拠があるからです。
銃床で多くの間違いを犯しやすいのが、今までミロクを使っていたので、それと同じ寸法にペラッチを作ってくれと言う注文です、勿論作るのは簡単ですが、それでは制作者、つまりメーカーの経験と意図は生かされないことになります、また相当長期に渡り、当たらないと言うことになり、やっぱりミロクが当たるな~なんて事になりかねません。
それぞれの銃に応じて、それぞれの銃に応じた構え、撃ち方、射撃理論があることをご理解ください。

銃床の長さについてクレー射撃を例に取ってお話ししましたが、今度はライフル銃について説明します、私のコラムのレベルの高いところは、散弾銃もライフル銃も同じテーマで同じ問題をチャンと書けると言うことです。
こう言っちゃ何ですが、両方を極めると言うのは相応に大変なのですが、両方を極めると言うことは、クレー射撃が当たらないときは、"俺の専門はライフルだから"ライフルが当たらないときは"クレーで満射を撃ちすぎて感覚が狂って"なんて、いずれもどちらかに逃げ込めるという利点もあります。
さて、ライフル銃の銃床ですが、散弾銃と同じように、銃のレコイルパッドを肘の内側に当てて、そのままグリップを握り、引き金に指が届けば適正、届かなければ銃床が短いと言う論法、未だにこれが相変わらず出てきます。なんだかかなり根深い信仰のようです。
もし、無謀にもこの寸法に切りつめた、スコープ付きのマグナムライフルを撃つと、かなりの確率で、ライフルスコープの後端で目の上を切ることになります。眼鏡をかけていればレンズは割れます、危険な上に、結構情けない格好を周りに晒すことになります。
マグナムライフルの銃床切りつめを銃砲店に依頼して、はいはい、と店主が軽く応じるようではその店主は銃器の専門家とは言えないと思います、少なくとも最低限の危険性について説明をしておく義務があると思います。少なくとも私は説明しています。
ではスタンダード口径の場合はどうでしょうか、スタンダード口径でも銃床を切りつめすぎると同じように目の上を切る可能性があります、一旦こうしたトラブルに遭遇しますと、射撃姿勢が異常に顔を引いたフォームで射撃をすることになり、これではライフルは当たりません。じゃスコープが付いていなければ良いのですね、と言われそうですが、照星照門付きの銃でも短い銃床は推奨しません。
銃床が短いと銃の保持が完璧に出来ません、ライフル射撃の経験が豊富ならまだしも、散弾銃からステップアップしてきた人の場合、ほとんどが"ガク引き"をします。
この時に銃の保持が完璧でありませんと、銃口が簡単に下を向いてしまうのです。
ライフル銃の射撃は、ほとんど静止状態からの射撃ですから、上下左右どちらの方向にも簡単に方向を変えます、その上ライフル銃の反動と言うのが意識下にありますと、どうしても肩で銃床を押し気味でガク引きになりがちなのです、逆に言いますと、撃つ瞬間、上に銃が向くと言うことは先ず先ずあり得ません。
ですから照星照門付きの銃といえども短い銃床は推奨しません。

ほとんどの人がそうですが、ライフル銃の所持は狩猟目的の所持だと思います。
実際にハンテングをすると、射撃する状況は色々なります、上から下に向けて撃つ場合、下から上に向けて撃つ場合等色々です。
下向きに撃つ場合はあまり問題は無いのですが、上向きに撃つ場合、別段銃床を切りつめていない銃でも場合によってはスコープで目の上を切ることがあります。
これは上向きに撃つ事により、見かけの銃床の長さは2cm位短くなります、こうした状況で切りつめた銃床を使えば、これは保証付きで目の上を切ることは間違いありません。
短い銃床の危険性についてご理解頂けたでしょうか。
では短い銃床は全然使えないのかと言うとそうでもありません、たとえばライフル射撃競技の要領で立撃ちをする場合、銃床が短い方が重心が手前に来るので使いやすくなります。また膝撃ちの場合も短い方が使いやすくなります、立撃ちや膝撃ちの場合は銃に対して顔が持ち上がっているのでライフルスコープで目の上を切ることはありません。
しかしながら、伏撃ちで撃つときには、相当気を付けないと顔が極限までライフルスコープに近づいているので要注意です。
ほとんどのライフル銃はライフルスコープを取り付けた状態で、目に当たらないような寸法に出来ていますので、むやみに切りつめるのは推奨できないのです。


更新 2003年 2月 9日

読者のメール紹介

間違いだらけの「FEGS評判」

昨年秋頃にFEGSのHPを見つけ、築地教授のコラムをプリントして通勤電車の中で読むのが楽しみとなってしまいました。
他の銃砲店のHPもいろいろ見ておりましたが、これほど充実したコラムは他には見当たりませんでした。
オークションの出品についても毎回楽しみにしており、毎朝会社に出社してPCを立ち上げた時、FEGSのHPを開くのが日課となっております。

ただ、困ったことに「FEGS」の評判に間違いが多いことです。
甲信越の某銃砲店のHPでは「ペラッチの海賊並行輸入屋」の表現もあり、FEGSのファンであればどこの銃砲店のHPかはすぐにわかります。
また、別のHPでは、「電話をしたけど愛想が無い」「信用できない」などの書き込みがありました。
私の体験からすると、これらの評判は「間違いだらけ」と言わざるを得ません。

昨年の10月、ガンケースが古くなってきたので、築地教授にメールで問合せを出しました。手短かな返事でしたが即座に回答を頂きました。その直後、10月27日のオークションでガンケース大放出されまして、無事ダブルのケースを落札致しました。
今年に入り、遊び心でレミントン870が欲しくなり、中古の問い合わせをしたところ「オークションに出します」と返事がありましたが、あいにく好みのタイプではなかったので入札はしませんでした。
やっぱり870の新銃を購入しようと問い合せると「在庫はあります。すぐ申請できます」と返事をもらい、先台をポリスタイプに変更したいと言うと、在庫の確認をしてくれました。その後、新着情報で「870用先台レンチ」がUPされ、先台の交換に必要な工具であることを教えてくれました。

築地教授は、こんな人なのです。
私の思い過ごしかもしれませんが、実にさりげなくHPでもユーザーの要望にこたえてくれる人なのです。

先日、私の銃の買取と870の購入のためにFEGSにお邪魔しましたが、玄関先でご挨拶しても「どうぞ」の一言だけしか言葉を出しませんでしたが、事務所に入って私が銃を取り出すとその目つきは一変し、手にした瞬間に銃の特徴をズバズバ指摘してきました。
この時、地元の銃砲店に買い取ってもらわなくてよかったと思いました。長年愛用した銃ですから、大切にしてくれる人に使ってほしいと思っておりましたが、築地教授なら任せられると思いました。
たしかに、玄関でお会いしたときは「うわさ通り愛想の無い人だな」と思いましたが、銃の彫刻の話など地元銃砲店などでは絶対聞けない話をしていただき、あまりにも居心地がよくて1時間以上お邪魔してしまいました。

「愛想の無い人」。これは性格なのでしょう!しかたありません!
コラムを読んでいる人はわかると思いますが、銃に関しての豊富な知識を惜しむことなく開示してくれてます。
業界のこともズバズバ指摘してきます。銃の設計者が意図することまで教えてくれます。
これは経験と実績に裏付けられた事実ですから、他の銃砲店が何を言おうと、ゆるぎようがありません。

電話の応対が悪いと築地教授自らおっしゃってますが、江戸っ子なのでしょう。歯に衣をつけてしゃべってもユーザーにとっては何のメリットも無いことです。必要なことを知りたいだけですから、率直に回答していただける方がありがたいと思います。
自らをトム・クルーズに似ているなどと虚言癖もありますが、築地教授がトム・クルーズなら私はベッカムそっくりになってしまいます。???

ここで、ちょっと考えてみて下さい。
自分が病気にかかったとき、医者に行きますよね! どのような医者に行きますか?
医者は二人です。
一人目は、とても愛想がいい医者で、いつもニコニコしてお喋りで、世間話もよくしてくれるヤブ医者です。
二人目は、愛想が無い医者で、日頃の不養生をズバズバ指摘するとても性格の悪い(ゴメンナサイ)名医です。
私は間違いなく、愛想の無い名医の所に行きます。
自分の病気を治すのには、名医を選びます。

これは極端な例かもしれませんが、こう考えれば築地教授を充分理解できると思います。
私は1回しかお会いしておりませんが、すっかりファンになってしまいました。
あちらこちらのHPで「教授」と呼ばれる意味がわかりました。勝手ですが私もこれから「教授」と呼ばせていただきます。

大切な銃、そして大好きな射撃のために、そろそろ銃砲店、業界も転換が必要な時期になってきているのではないでしょうか?

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