カクタス シュート参戦記 (2001年) - 海外遠征 (ベンチレスト射撃大会)

2001年 3月31日 築地
更新 2001年 4月29日 築地

第1日目

なんと言うことだ! 3月18日の長瀞の大会では道路脇に残雪が残っていたと言うのに、翌々日の3月20日、ここアリゾナ州フェニックスでは季節はすっかり夏である。7月、8月、になり本当の夏が来ればここは灼熱地獄と化すのであろうが、今の季節は日本で言えば完全な初夏である。

コットンのワイシャツとカシミアセーター、その上にダウンジャケットを羽織ってきた私は汗だくで飛行機から降り立った。一刻の余裕もなくスカイハーバーエアーポート内のショッピングストアーで、$20程度の半袖シャツを買う。汗が止まらないのでシャツ1枚になり何とか体温を調整する。

いきなり初夏
いきなり初夏

私は海外に遠征するときは何時もゼロハリバートンのガンケースを使用している、他のメーカーのガンケースでは必ず何らかのトラブルに見舞われる、多くの場合銃床が折れたり、割れたりする事に遭遇する事になる、海外のハンテングに行かれる方は、必ずゼロハリバートンのガンケースを使用されるようお勧めしたい。

かなりタフなガンケースだが今回の遠征旅行ではついにハンドルが壊れてしまった、10年以上使ったガンケースだが、ゼロハリバートンといえどもハンドルはプラスチックなので、放り投げられて当たり所が悪いとこのように破損してしまう事もあり得るのである。

ハンドルが取れた・・・
ハンドルが取れた・・・

荷物を受け取り、日本で予約したレンタカーを借り受け、宿泊するプレミアインの場所を地図で探すが見あたらない、致し方なくハーツカスタマーセンターで聞くことにした。インターネットからダウンロードした地図を見せると、"お客さん、これはイリノイの地図ですぜ、ほらイリノイ大学から2時間とか書いてあるでしょう"と指摘され、ふらふらと放心状態で事務所を出た、そして私の体に冷や汗が流れた、こう言うのを文字通り鳥肌が立つと言うのであろう。ターク高野から教えてもらったプレミアインのアドレスは、フェニックスのプレミアインではなく、イリノイ州にあるプレミアインのアドレスだったのである。
これだけなら普通なら単なる笑い話で済ませられるが、この時に限りターク高野から、今のアリゾナは観光シーズンでホテルが混んでいるとアドヴァイスを受けていたので、わざわざカード番号を提示して予約したので間違いなくその日の4部屋分の宿泊代は私のカードから引き落とされて居ることになる。せめて引き落とされるのは今日の分だけで絶対に5泊分の宿泊代が引き落とされないことを密かに神に願う。こういう時はいきなり信心深くなる私だが、お彼岸に墓参りに行かなかった罰かもしれない。

不機嫌な私はみんなのドライバーをしながら"本当の"プレミアインにチェックインした、私の予想通りホテルは空いていた、要するに予約する必要は全く無かったのである。
初日から全くついていない、こんな事ではと大会の結果が頭をよぎるが、そうでは無く、これで悪い運を使い切ったと考えるべきかも知れない。残りは良い運だけだと考えるべきかも知れない。ターク高野に教えてもらったプレミアインのアドレスはwww.premiain.com だがこれだとイリノイのプレミアインに飛んでしまう、アリゾナのプレミアインは www.premiainns.com と最後にSが付くのである(さらに困ったことにこのアドレスでは何故か接続できない)。Sが付くかどうかだけで私は数百と言う単位の$を無駄にしてしまった。

不機嫌な私
不機嫌な私

ターク高野から連絡があり、7時にロビーで待ち合わせる。
ご近所のステーキ屋で再会を祝しバドワイザーで祝杯を上げ、そしてTボーンステーキをたいらげる、日本からここまで、飛行機で13時間かかるが、ターク高野の場合はテキサスからなので車で17時間ドライブして来たそうである。日本から行く場合、飛行機で一寝入りして起きたらアメリカという感覚なので疲労感はほとんどない、特に最近の私は修行中の時代からすると、かなりお気楽なぬるま湯人生なので飛行機もほとんどがビジネスかファーストである、このクラスだと本当に寝てこられる。感覚的には東京から横浜に行く程度の感覚である。射撃に関して寝不足が射撃結果にどういう影響を与えるかについて海兵隊で実験した事があるとタークが話してくれた、海兵隊員のチームを2つに分けて片一方は充分な睡眠をとらせ、片一方は睡眠不足の状態で射撃をやらせた結果、睡眠不足のチームの方が明らかに射撃の成績がよかったそうである。射撃の場合必ずしも最良の体調が最高の成績を出す訳ではないらしい、体調のいい私にはまた不安が横切った。

ターク高野はパソコン持参で来ていたが、何でも新しい弾道計算ソフトで色々な実験をしている最中との事であった、この新しい弾道計算ソフトだと、湿度、気圧、風向、射撃角度、高度差、外気温度まで演算の対象とするそうである、タークの話では中でも湿度は如実に弾道に影響を与えるとの話である、湿度が低いと初速は早くなる、湿度が高いと弾頭の飛翔に抵抗が出て初速が低下するそうである。勘違いしもらいたくないのだが、湿度が火薬に影響を及ぼすのではない、弾丸が飛翔するときに外気の中での抵抗値が変化するのである、乾燥したところでローデングしたからと言って湿度の高いところで撃つと外気の影響を受けるのである、ビギナーの中にはローデングする時に、乾燥機を使ったりエアーコンを使ったりして同じコンデションでローデングする事に心がけている人も居るが、これは全く無駄な努力である。ローデングの状況ではなく、射撃する外気の条件で弾道が変化することを理解しておいてほしい。
同じような気候のテキサスとアリゾナですら微妙に違うのだから、残雪の残る長瀞射撃場でいくら当たっても、アリゾナでは我々がへろへろになるのはそうした気象条件を計算しないで何時も単一条件で弾を作って居るからである、一般論として高い命中精度を得るためには通常のマキシマムロードを越えないと最高の命中精度を得ることが出来ないが、残雪の残る長瀞で当たるような弾は、ここ初夏のフェニックスでは明らかにホットロードになる、初速が上がりすぎるために、逆に命中精度が悪くなる事になるのである。
それが外気温度だけでなく、湿度と気圧が微妙に影響してくるので実際に撃たないと最高のローデングが把握できないのである。日本では命中精度を調べるために弾速計算機でテストする人も少なくないが、アメリカでは初速を計る人は全く居ない、それは特定の初速が必ずしもその場所でも最高の命中精度を約束している訳では無いからである。
 北のクリーブランドでは初速****が最高に当たっても、初夏のフェニックスでは初速****が最高の命中精度を示すからである。しかもその場所で気圧と湿度がお互い影響してくれば最高の命中精度の初速が微妙に変化するので現場で初速を計測してもあまり意味のないことになってしまうからである。
それと初速が安定している事と、命中精度とはあまり因果関係はない、"何!"と物理学の先生からクレームが付きそうだが、物理学の法則で考えると初速のばらつきが無ければ弾頭の落下率が変化しないと考えるのが常識だが、6ミリ口径の場合、3300フィートでも3250フィートでも弾着にはほとんど変化がない、しかし初速の遅い2800フィートと、2850フィートでは同じ50フィートの差でも着弾に大きな変化が現れる、低速の弾頭ほど初速の変化が如実に着弾に現れる。我々が初速を極限まで上げるのはまさしくその変化の少ない着弾を求めているからである。物理学ではなく我々は体験的にそうなることを知っているからである。私は現場で弾を作りながら色々テストしてみるつもりであるが、どのようなアレンジにするかは現在のところ試行錯誤と言うことになる。

3月21日午前2時、アリゾナ州フェニックス 本当のプレミアインにて。


第2日目

砂漠の朝はいきなり明るくなる、都会の夜明けみたいに空が白んで朝日がビルの隙間から差してきて、等と言うプロセスを踏まずいきなり強烈な日差しを浴びせられる。

射撃場はホテルから30分くらいの所にある ベン アレー シューテングレンジと言うところが会場である、4年前ベンチレスト射撃のワールドカップで初参加したのがこの射撃場だった、射撃場のゲートをくぐり、しばらく走ると大きな射撃場に出る、ベンチレスト射撃場と書いてある、4年前に大会で初めてここに来たときは、てっきりここが大会会場だと考えて周りをみると誰もいないことに気づき一瞬頭が白くなった。初めての射手を連れてくるとほとんどの人が"やっと着いた"と言う感想を漏らす。しかし、ここの射撃場の偉大なことは、ベンチレスト射撃場がここだけでは無いと言うことである、この射撃場を横目にみながらさらに車を進めると、ピストル射撃場がある、これをすぎるとポジションシューテングが開催される、射撃場に出る、そこを曲がりさらに進むと多くのキャンピングカーが駐車しているもう一つのベンチレスト射撃場に出る、ここが会場なのである。

射場内の道
射場内の道
射撃場に到着
射撃場に到着
ベンチレスト射撃場
ベンチレスト射撃場

日本にあるクレー射撃場などは100も200も入る膨大な敷地なのである。
ここの射撃場だけに限ったことではないがアメリカの射撃場の多くは全ての射台にコンクリート製のベンチが常設してあることである、それに射台の後ろに弾を作るためのリローデングのスペースが設けられている事である。ベンチレスト射撃はリロードしながら撃つと言うことが大原則なのである。

日本選手のリローディング
日本選手のリローディング
リロード開始
リロード開始

つまり気象条件で命中精度は微妙に変化するという何よりの証明ともいえる。
私は日本から50発程度の弾を持参していた、これで大会に出ようと言うわけではない、日本でローデングした弾がここではどのように変化するかをチェックするためである。
ベンチの上にレストを置き、その上に銃を乗せる、レストの高さを微調整して標的に照準を合わす、写真は秋田から参加された加藤選手である、ちょうどスピードスクリューを調整している所だが、このねじを締めたりゆるめたりする事によりレストの後ろ足の高さを調整する、そうすると銃が微妙に上下する事になる、極めて小さな微調整が可能になる、100メートルで1ミリ程度の調整が可能である。

照準調整
照準調整

ベンチレスト射撃の標的は極めて小さい、100メートルでのグルーピングが5ミリ以下でないと勝負にならない世界である、これ以上のグルーピングを出していると完全に番外と言う感じになる。ベンチレスト射撃を見ると多くの人が銃を台の上に乗せてスコープで狙うのなら簡単ですねと感想を漏らされる、その通りだと思うが問題は競争しているレベルの問題である、ミリ単位の勝負なので、射撃の知識だけでなく、火薬、弾頭、薬莢、気象条件、そうした多くの知識を要求されることなのである、そして最大の問題はそれらがどのように関係しあっているのか、ほとんど書籍が無いことなのである、したがった知識の吸収のためにはこうした大会に参加して、多くの射手がどのようなコンポーネントを使い、どのような手法でリロードしているのかを実践的に学ぶ必要があるのである。
厳冬の長瀞用に作った弾で早速試射をする、着弾は数ミリ上に着弾したが明らかに初速が上がっているのを反動で感じることが出来る、長年射撃をしていると1発撃っただけで初速がどのくらい出ているかを体感できる、初速と反動は正確に比例するからである。

射座をみる
射座をみる

ボルトを開けようとしたら、ハンドルが堅い、かなり圧力が上がっていることの証明である、火薬の圧力が適正かどうかより、当たるか当たらないかが最大の関心事なので50発の弾を全部撃ちつくし、命中精度をチェックする、長瀞の時より命中精度が落ちている、しかし劇的な低下ではなく数ミリグルーピングが悪い程度である。
火薬量をぐっと減らして適正な火薬の圧力にして再度テストを試みる。
命中精度はさらに悪化する、逆にまた火薬量を増やしてみる、日本から持ってきた弾と、減量してテストした今の弾と中間の火薬量である。
ここの会場では火薬量を何グレインチャージしているか以外と誰も秤を使用していない、どの種類の火薬を薬莢のどこの部分までチャージするかでローデングの目安としている。
ターク高野に、厳寒の長瀞用に作った弾を、初夏のアリゾナで使ったのに思ったほど圧力の上昇が起きなかったと説明したら、ここは湿度が高いので意外と圧力が上がらないと言うことである、テキサスのミッドランドあたりだと湿度が少ないのでアリゾナ最適な弾はテキサスでは雷管突破すると言うことである。

私は何時もベンチレスト大会では会場でリロードしているが、今年からは参加した日本選手団も現場でリロードを体験する事になった、日本射撃場では射撃場でリロードする環境が整っていない、多くの射撃場でリロードを禁止している有様である、管理者は危険性を感じて禁止しているのであろうが、リローデングが危険な訳はない、リロードが危険と言うのなら弾を持参していることも充分同じ程度の危険性がある、多くの射手がこうした環境に育っているため射撃場でリロードする事に今までは違和感があったのだと思う。

川村さんの簡易プレス
川村さんの簡易プレス

ここで実際のリローデングについて説明しておこう、多くの人がリローデングにはリローデングセットを購入し、自宅でリロードしていると思うが、会場にそんな大がかりなキットを持ち込むわけでは無い、会場で使われるのはアーバープレスキットと呼ばれる簡易リロードセットである、簡易といってもこの方法が一番命中精度が出ると言われている、但しベンチレスト射撃ではマグナム口径の銃など使う訳がないので、薬莢のフルレングスリサイズをしないと言うことが条件である。30口径以上の薬莢をフルレングスするにはアーバーフレスでは強度不足である。従って使用する薬莢は6ミリPPC等の小さな弾が主体となる。使用するのはアーバープレスト言う簡易プレスである、使用するダイスはウイルソン社のダイスである、昔ハンマーで成型する為に作られた簡易ダイスだが現在では一番精度の高いダイスとして考えられている。

最近流行の簡易プレス
最近流行の簡易プレス
ダイスセット
ダイスセット

ダイスの中に薬莢を入れてアーバープレスで圧入してネックのサイズを成型する、薬莢全体の成型はしない、成型するのはネックの部分だけである、ネックを成型しないと薬莢が弾頭を保持できないからである。
このネックの成型も5/1000ミリ単位で色々なサイズのネックブッシングがあり、使用する薬莢に最適のブッシングを装着して自分専用のダイスに作り上げている。
成型した薬莢に雷管を取り付ける、次に火薬を装填する、火薬の誤差は0.5グレイン以下なら無視してかまわない、なぜなら0.5グレイン以下の誤差は弾着に影響を及ぼさないからである、色々な会社から、火薬量を微妙に装填できる物が販売されている、RCBS社のパウダートリックラーなどもその一種である、これらの道具は本来無用の長物である、こんな物を使ってローデングしていたのでは時間がかかってしょうがない。

雷管装着
雷管装着
火薬を装填
火薬を装填

シーテングダイスの中に薬莢を入れて、上から弾頭を入れる、そして弾頭を規定の深さにシーテングするのである、弾頭シーテングの深さは多くのベンチレストシューターが気にしている事である、シーテングの深さはライフリングにタッチする寸前にセットする、いわゆるランドタッチした場合、何らかの理由で実包を出さなければならないとき、弾頭がライフリングに食い込んでいると、弾頭を銃身の中に残して来てしまうからである。こうなると火薬がそこら中にこぼれ、完全に清掃しないと2度と装填出来なくなってしまうからである。私も前回の大会ではこのミスを犯してしまい、最後の2発を撃つことが出来ず。苦杯をなめた、さてここまで原稿を書くと時間はすでに午前3時を過ぎてしまった、今日の大会は6時集合、7時開始である。そろそろシャワーを浴びて気合いを入れる時間である。では試合の準備を始めます。

弾頭を入れる
弾頭を入れる
弾頭を入れる
弾頭を入れる
弾頭シーテング
弾頭シーテング
3月22日、午前3時、アリゾナ州フェニックスにて
3月22日、午前3時、アリゾナ州フェニックスにて

第3日目


試合の第1日目、第1射群(リレイ1)はどうした訳か完全な無風状態のスタートとなった。
ベンチレスト射撃では如何に風を読むかで勝負の大半が決まると言っても過言ではない。
多くの人は、無風状態で撃つのが最高の条件だと思うだろうが、無風状態の場合は目に見えない風が存在する、風旗は動かなくても空気の流れは存在する、これに影響されると弾頭は上下にずれて着弾する、左右に散る事は少ない、弾頭が上にずれるか下にずれるか、あるいは全くずれないか、これは撃ってみるまで解らない、従って無風状態は必ずしも最良のコンデションでは無いのである。
最良のコンデションとは左右いずれかから、弱い風が均等に吹いている状態である、風が吹いてさえいれば澱んだ空気の流れは無くなる、しかしながら、射座から標的までの間を均等な風が吹くと現実問題として起こり得ないが、少なくともこれが命中精度から言ったら一番望ましい気象条件である。
ベンチレスト射撃競技の方法であるが、無制限の試射の外、5発ずつの本射を5回行い、一番離れた弾着の距離を計測し、全ての射撃の平均数値が一番少ない物が優勝する。

射撃準備
射撃準備
射撃準備完了
射撃準備完了

今回の大会は200名の選手が全米から参加している、その中で我々の成績はその中間くらいから下に位置している、長瀞では5発グルーピングが3ミリ程度だが、ここで撃つと10ミリのグルーピングを出すのも容易な事ではない。風の中の射撃がこんなにも難しい物だとは参加した選手の偽る感想であろう、実際問題ここの射撃場のような自然条件の中にある射撃場日本では皆無である、どこの射撃場でも総理府令の設置条項のため射撃場は四方に囲いがあり、ここの射撃場みたいに砂漠の中で遮蔽物が全く無い射撃場で撃つことを我々は日本では経験したことが無い。アメリカの雑誌で公表される記録だけを見て判断していたのでは全く異なる状況での射撃に多くの選手が当惑している。

パルマ大会の会場
パルマ大会の会場

早い話が日本の記録がここで出せれば間違いなく優勝できる、しかしながらほとんどの日本選手は上位に食い込むことはほぼ絶望的な状況にある。なんと言っても風と陽炎を読むことを知らない。これが致命的な欠点である。
試合の標的は計測の終わった物から標的ボードに掲示される、画像は大会をサポートしてくれている少年の写真だが、この様に大会では家族ぐるみでサポートしてくれる会員に支えられている。

サポート少年 標的開示
サポート少年 標的開示
成績発表
成績発表

また大会の会場にはベンチレスト射撃関連の用品を取り扱っている仮設店が開店していてい色々な物を販売している、我々日本選手団は普段から、通産省の決めた訳の分からない法律のおかげで我々が必要とする品物は個人使用の物でもほとんどが輸入制限をされるため自由に輸入する事が出来ない、従ってこの大会で必要な弾頭やコンポーネントを調達する事になる。そんな訳で多くの日本選手が、射撃よりもお買い物ですっかり有名になっている、これらの業者にとっては日本人は最高のお客様と言うことになっている。

仮設店舗
仮設店舗
移動仮設店舗
移動仮設店舗
弾頭とダイス
弾頭とダイス
銃身
銃身

我々日本選手の大会成績はアメリカ選手の中では平均以下であるが秋田県から参加した加藤選手の標的の中に光る1枚がありましたので紹介しておきます。

加藤選手の標的
加藤選手の標的

ここのベンチレスト射撃場の隣が600ヤードのメタリック標的の射撃場、その隣の射撃場がポジションシューテングの射撃場、ここでは革コートを着て射撃する選手を見かける事がある、今ですら半袖で快適なここアリゾナで、7月8月の猛暑時に革コートを着てここの屋根なし射撃場で射撃をしたら、自殺行為に等しい、事実今の季節は快適だが真夏は射撃をする人が居ないそうである、日陰は何とか過ごせるが、日の当たる所に出たら大変な事になるそうである。

3月24日、冷房の利いたプレミアイン、夕暮れ前の静かに時に。
3月24日、冷房の利いたプレミアイン、夕暮れ前の静かに時に。

第4日目

第4日目は200ヤードの射撃である、この日から日本選手団には種々の災難を体験をする事になる、最初にトラブルに会ったのは湖東選手である、100ヤードで照準調整した銃でリューポルドの36倍スコープを使うときは5クリック上げれば200ヤードの正照準になる、全ての日本選手団はその5クリックUPの照準で全員がびしゃり照準調整を合わせた、しかし湖東さんの照準は5クリック上げても標的に着弾しない、元々ベンチレスト射撃の標的は極めて小さいので標的上に弾痕が認められないと照準調整がほとんど不可能になる。最初の射群で照準調整が出来なかったため、ターク高野のアドヴァイスで照準調整用の大きな標的に撃ち込んで何とか照準調整をすることが出来た、しかし、照準の狂いは5クリックどころではなくクリックノブを2回転回したと言うのであるから通常の5倍もクリックを回した事になる、湖東さんの銃に何か異常な事態が起こっていると感じざるを得なかった、最もその前は湖東さんの銃は標的上の弾痕が2カ所に集中するという異常現象が起こっていた、弾痕が2カ所のに集まると言う現象はスコープのリチクルが故障した場合に起きる事がある。また火薬のマッチングが出来ていないと起きることもある。私はそのいずれかの原因ではないかと推測したのであるが、湖東さんが何気なく銃身をさわり、銃身の取り付けねじがゆるんでいることに気づいた、本来銃身は機関部に堅くねじ込まれて居るのであるがベンチレスト用の銃は銃身交換を前提としているので通常の銃よりは銃身は堅くねじ込まれていない、そのため航空機の振動、あるいは運送途中の車の振動で機関部と銃身の止めねじがゆるんで居たらしい、ねじを締め直して最照準したら、いずれの問題も全て解決した、但し、競技の半分はすでに終了していたので成績の回復は望めなかったが本来は棄権すべき所を最後まで競技を終了されたことは特筆に値する行為である。
この射撃場に来て初めて体験した事だが、砂漠の朝は寒い、しかし太陽が昇った瞬間から気温はどんどん上昇して大地もどんどん熱せられてくる、そうすると地表から陽炎が上り、標的の番号も、標的に描かれた同心円の丸も全く見えなくなるのである、標的の横に平行な筋が何本も横に引かれた板が掲示してあるのだが、これはミラージュボードと言うのだそうであるが、実際にライフルスコープから覗くとこれの横棒がぐじゃぐじゃに曲がって見える、また困ったことに陽炎が発生すると標的の実際にあるところより、上に標的の虚像が出来る。これだけならまだしも、これに横風が吹き込んできて弾痕を風の力で編流させる、風が吹くと陽炎は流されると考えていたが、いくら強風が吹いても陽炎が減少する事はない。風と陽炎が発生すると弾着はとんでもないところに着弾するようになる。
恥を忍んで私の恥ずかしい写真を公開するが、この標的は同じ照準で射撃した結果の標的である、馬鹿で無ければこんなに大外しするわけがないが、風の力でこの様に編流されているのである、上下ずれているのは陽炎の影響かも知れない。

こんなに自然の影響を受ける射撃場は日本ではほとんど存在しない。アメリカに来てつくづく知らされるのは自然の力侮るべからずである。ベンチレスト射撃は風の流れと陽炎の状況を見極めてそのずれを"予測"した行う射撃でとても世間一般の皆さんが考えるようなお気楽な射撃では無いのである。ポジションシューテングの世界でどれほどの人が風の編流や陽炎対策を考えているのだろうか、私の経験ではほとんど居ないはずである。逆の言い方をすれば、そうした現象を無視してもポジションシューテングは何とかなる世界なのかも知れない。ポジションシューテングお世界の人から見ると台の上に銃を乗せてライフルスコープを使って撃つと言うことはお気楽な世界に見えるかも知れないが、それはそれでまた奥の深い大変な世界なのである。

ベンチレストと銃の間には銃の滑りを良くするためベービーパウダーを振っておく。
これは銃の反動を力で押さえ込むのではなく、銃の自然な反動を阻害しない方が結果的に命中精度によい影響を与えると言うことを体験的に学んでいるからである。

パウダーまみれ
パウダーまみれ

銃の反動を出来るだけ自然な状態で受け流す方法をフルーリコイルと言う、グリップなどは握っていないに等しい、反動を受け止める射撃方法をホールデングというが、この射撃方法を採用している人も少なくない、いずれも優劣つけがたいようである。

大会の参加者は我々大人だけではない、写真の少年も親の引率で大会に参加しているのである。この様な光景はほほえましい光景であるが事故などが起きることは皆無である、しかしながら日本の現状ではこうのような事は考えられない、日本の役人は国民に対してお節介を焼きすぎる、それが国民の為を考えているのならまだ納得出来るが行政の多くが自分たちの仕事を作るためにやっているとしか考えられないし国民性悪説に基づいて行政や立法をしていると言うのは私の言い過ぎだろうか?

こんな坊やも・・・
こんな坊やも・・・

試合の最中加藤選手が一時的な銃器故障で最後の数発の射撃が出来ずに困惑していたときは隣の優勝候補の射手が自分の銃を差し出し、これを使えと言って弾と一緒によこした事があったが、加藤選手はそれを使って射撃をし、かろうじて棄権をせずにすんだ事がある、選手の機転により取られた処置であるが、日本では恐らく考えられない行為であろう、日本では銃の貸し借りが禁止されて居るが、銃刀法は第1条の規定にあるとおり、危害予防と安全の為にこの法律が施行されているのであるが、所持許可を持っている者同士が銃の貸し借りをして、この危害予防と安全に著しい問題があるとはとうてい思えない、
他人の銃を使うから著しく危険性が多くなると言うのなら、レンタカーを使うと事故が起きるというのと同じ発想では無いかと思えてしまう。
役人に愚痴を言っても始まらないが、むしろこれらの法改正の説明があったときに、断固として抵抗しなかった業界および団体の非力さに私は憤りすら感じる。
馬鹿な役人を持つと国民が迷惑し、馬鹿な先輩方を持つと後輩が迷惑を被る。

大会の会場では色々な出店があるが、ハンドロードを前提としている我々ベンチレストシューターに取って、今まで日本に輸入されたと事のない火薬をテスト出来るのも大会の楽しみの一つである、今まで日本に輸入されていない火薬の一つにヴィタバリ、N133がある、アメリカでは多くの射手に使われているが、その火薬の特性については全く情報が無かったのであるが、今回の大会参加中使用することが出来た。

新しい火薬と雷管
新しい火薬と雷管

燃焼特性はH322よりも早く、IMR4198より遅い燃焼速度を持つ、CCIの雷管もベンチレストシューター達に評判のよい雷管であるが、使ってみた感想はいずれも大差ないと言うのが実感である。大差ないと言うことが解っただけでも進歩と言うものであろう。大会の会場には色々新しいコンポーネントが登場してきている、新型のベンチレストはジョイステックタイプと呼ばれるレストで、このジョイステックを上下左右に動かすとレストの部分が微細に上下左右に移動するのである、つまり風の流れ、陽炎の状況に応じて銃を微細に上下左右に調整して撃つための物である。

新型ベンチ
新型ベンチ
微調整ウインデージ
微調整ウインデージ

また最近の新製品はレストの上部だけを微細に左右に動かす物も出てきた、油圧かメカニカルかは不明だが、ダイヤルを動かすとレストの上部が微細に左右に動く、これで風の編流を予測してあらかじめ銃を少しずらして狙いを付けて風の編流分を計算に入れて射撃するための道具である。我々がこうした世界的な射撃大会に参加しなければ解らなかった新しい技術の多くを学び取ることが出来た。

私の恥ずかしい結果
私の恥ずかしい結果

3月25日朝8時、フェニックス、ベンアレー射撃場車中にて銃声を聞きながら。


第5日目

200ヤードの最終日である、この日は朝から非常に気象条件の良い日である、ほとんど無風、有っても微風のさわやかな風が射場を吹き抜ける。今朝は射撃場に通じるインターステイツフリーウエイ、17番が6時から工事で閉鎖になるため早朝5時起きで射撃場に駆けつける、そのため射撃場の設置風景を写真に納めた。

標的の設置
標的の設置
標的から射座を見る
標的から射座を見る

標的の両側には平行線を何本も引いたミラージュボードと言う物がある、射座から見るとこれが陽炎が立つとぐじゃぐじゃにゆがんで見える、陽炎を見やすくするためのボードである、ベテランの射手になるとこのミラージュボードを見て撃つところを修正すると言う訳である。
ベンチレスト射撃では1個の的に5発の弾を撃ち込むので、多くの場合が同弾になる、100%がファエアープレイをしてくれれば問題ないのだが、中には4発しか撃たないで5発撃ったことにしようなどとよからぬ事を考える射手がいないとも限らない、悪意が無くても犯しやすいのが、圏的間誤射である、特にミラージュの発生しているときは像が揺らいで自分の標的番号を視認知ることは出来ない、そのため誤射が出やすい、実を言うと私もこの大会で1発誤射をしてしまった、こうした誤射をしたときに、どこの射座から撃ち込まれた誤射か、を判断するために本標的の後ろにバックターゲットを設置している。
本標的とバックターゲットを重ね合わせると誤射の場合は1発だけ極端にずれているのが見つかる。5発の射撃に対して4発しか撃ち込まなかった場合はどうなるかと言うと、バックターゲットには4発の弾痕しか無いから明瞭に判断出来る。
本標的5発の弾を撃ち込んで完全な同一弾痕が出たとしよう、本標的の後ろにはネットが張ってあり、これが電動で常時動いている、本標的の全く同じ場所に弾が集中したとしても、必ずネットの影響で弾道が少し曲げられ、バックターゲット上には同一弾痕として残らない、そのためバックターゲットを見ると、5発の弾痕が残るのである。
今日の大会では風があまり無かったので、思いの外我々以外の射手は成績がよかった。

泣きの1発と言う標的が多発したのでその一部をご紹介しよう、4発の弾痕はほぼワンホールになっており、1発だけが外れたため泣きの1発と呼んでいる標的である、この1発がなきゃ、射手の嘆きが聞こえる標的である、しかし、この手の標的は掲示して有るだけで何枚もある、これは単に射手が動揺したとか、風の影響だったとか言うたぐいの物ではなく、ベンチレスト射撃では5発の内1発が極端に外れると言う現象も必ず体験する、これは当たる弾は逆に外れやすい要素もっていること、あるいは火薬がマッチングしていない。等々色々な原因が言われているが、これこそ正解と言う絶対的な回答は出ていないのが現状である。

泣きの1発 ①
泣きの1発 ①
泣きの1発 ②
泣きの1発 ②
泣きの1発 ③
泣きの1発 ③

しかし日本の射手が泣きの1発の事をくどくど言うのはいただけない、ここの大会では多数泣きの1発が出ている、そして本当に当たった物だけがにこにこマークを標的に審査委員から書き込んで貰える、"大変よくできました"と言うマークらしい。

ニコニコマーク
ニコニコマーク

我々日本人のレベルと比較すると、アメリカのベンチレストシューターのレベルは極めて高い、どこが違うのかよくわからない、使用銃、弾頭、火薬、雷管、薬莢、ほとんど優劣が無いはずだが唯一違うところは、5発の射を撃ち終わった後は必ず銃口内のクリーニングを欠かさない、銅ブラシを通したあと、パッチを20~30回も通している、クリーニングをした後のパッチの数を見てもらいたい、こんなにパッチが落ちていると言うことは相当回数パッチを通したはずである。これが命中精度の秘訣なのか私には断言できないが効果は有るのかも知れない。

パッチの山
パッチの山

ベンチレスト射撃場のとなりから、タ、タ、タ、タ、タ、と拳銃の連続音がしているのでちょっと覗いてみると、こちらも射撃大会の最中である。
今日の最終日を迎え、隣の作業台で仲良くしていただいたヘルマンさんと握手をしてお別れすると心地よいアリゾナの風が頬を吹き抜けた。

ハンドガン射撃大会
ハンドガン射撃大会
隣のヘルマンさん
隣のヘルマンさん

夜になるとターク高野が最後の夜なのでと言うことで我々をデナーに招待してくれた、我々は食事とワインをとりながらいつもながらの銃器論に話が弾む、スナイパーライフル、ミリタリーライフル、勿論ベンチレストライフルの話にも及ぶ、ある会社が300WSMを使ったスナイパーライフルをある政府機関に売却すると言う未確認情報も得ることが出来た。我々の中では一番最年少の川村さんが実は多種多芸の人で空手は初段だと聞かされた、ターク高野は今年で57歳になる、常識的に言えば筋肉の力も落ちて来ている年齢である、川村さんはターク高野に"私は今まで腕相撲で負けたことが無い"とまでタークに言い切ってしまった、その瞬間、誇り高い元空挺隊員の目がきらりと光った、"川村さんに負けたら射撃をやめます"ターク高野が切り返す、なかなかおもしろい展開になってきた。(ワクワク) ターク高野の30年以上にも及ぶ射撃人生に終焉かけて川村さんの部屋に行きタークと川村さんが腕相撲対決することになる、川村さんはパンツ一つになり気合いを入れる、タークはいつものように平然と構えている、1,2,3,でスタート、結果、5秒で勝負が付いた。
ターク高野は言った、腕を巻き込まなければもう少し早く勝てると、で、腕を巻き込んで良いと言う条件で再勝負である、今度は2秒でけりが付いた、ターク高野はこれからも射撃を継続する事になった。

今回の射撃で色々我々のために親身になりお世話をし、川村さんの鼻柱を折ってくれた私の30年来の友人、ターク高野に感謝の言葉を述べ、このレポートを終わります。
最後まで私の駄文におつきあいいただきありがとうございました。

ターク高野氏と
ターク高野氏と

3月27日、ユナイテッド航空897便機内にて。    
日本ベンチレスト射撃協会 築地恵


更新 2001年 4月29日

私のカクタスシュートレポートを読んだ方からのメッセージです、追記しますので参考にしてください。 

カクタスシュート大会のレポートを大変楽しく読ませていただきました。
 その中で、いくつか気がついたことがありましたので、一応ご報告させていただきます。

 ①フィンランドのビサボリパウダー
このパウダーは今まで日本への船便ルートが確立されていなかったため輸入できなかったそうでしたが、現在、国友さんがアメリカ経由での輸入ルートを探しているそうです。近年中に、日本においても入手が可能になりそうです。詳細については国友さんへお問い合わせください。

 ②リローディング時の湿度
   これにつきましては少々物申したいことがあります。ですが、決して築地さんへの反論ではないので怒らないでください。この件については、あくまでも"22ロングライフル弾"を使用した"ポジション シューティング"に限り通用することだと思います。
   根拠1)
イギリス エレー社ではテネックス、エクストラマッチプラスを製造する際には、工場内を何十時間もかけて「大除湿」を行ってから、機械を動かし始めるそうです。そうしないと良い弾ができないそうです。従って、エアコンで除湿してから弾を作るということは、あながちウソではないと思われます。
   根拠2)
10年程前、伊勢原に中国のピストルナショナルチームのコーチが来日したときの話によると「湿度が高い状態で、弾を続けて発射すると、銃身の命中精度が落ちてくる」とのことでした。また、「乾燥した状態では3P-120を一度もクリーニングなしで撃ち続けてもかまわないが、雨が降っているとき(湿度の高いとき)は1回くらいクリーニングを行ったほうが良いかもしれない」とも言っていました。ただし、何発ぐらいで精度が落ちるのかは各銃身によってマチマチだそうです。ちなみにこの結果は、銃)アンシュッツ 弾)エレーテネックスによって出されたものだそうです。

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