スーパーシュート参戦記 ( 2004年) - 海外遠征 (ベンチレスト射撃大会)

2004年 6月 3日 築地

ホリデイイン エキスプレス329号室にて

5月23日、日曜日
昨年、カクタスシュートに参加した時に、ユナイテッド航空を使ったら、成田空港のカウンターでライフル銃には追加料金がかかると騙(だま)されて、現場のスーパーバイザーと称する「黒服」から一人頭\21,000のお金を巻き上げられましたが、後でユナイテッドのマニアルを"子細に"読んだら、ライフル銃には追加料金はかからないことが判明! その後、騙されたお金を取り戻すために国民生活センターに相談して、巻き上げられたお金の還付請求作戦を開始、結果的に無事お金を取り戻すことに成功しました。何故お金を巻き上げられたかと言いますと、「黒服」がマニアルの英語を読めなかった事、驚いた事に、ユナイテッド本社の日本人スタッフすら英語が理解できない事が解りました。マニアルの意味をユナイテッドのアメリカ本社に聞いて、やっとマニアルに書かれている日本語への意訳が理解できたと言う、ていたらくです。その顛末に関して、ユナイテッドから詫び状をとり、マニアルを書き直させ、併せて担当した「黒服」の名前を聞き、最悪な接客態度を厳しき指摘しておきました。そうした顛末は過去のコラムに書いてありますので興味のある方は過去のコラムをご覧ください。

今回の旅行もユナイテッドを利用しました。不愉快な思い出よりも、そうした痛い経緯を体験している会社を使う方がかえってうまく行くと考えたからです。
成田に行ったら、その「黒服」がちゃんと居ましたね。昨年の慇懃無礼と言う不遜な態度とは豹変して私を揉み手で出迎えてくれました。荷物の受け付けもファーストクラスで受け付けてくれて、私に対して付きっきりで世話してくれます。
今まで何度もユナイテッドのファーストは利用していますが、今回は別にファーストクラスで行ったわけではないのですが、ファーストクラス並以上の好待遇を受けました、こんな待遇を受けたことは過去において皆無です。
黒服には余程私の反撃が堪えたと思いますね、ははははは

(この追記は6月2日に書いているのですが、実は帰国した昨日、なんと荷物の受け取りカウンターまで出迎えて居てくれました。今までファーストクラスも含めて何度もユナイテッド航空を利用していますが、こんな好待遇を受けたのは初めてです。
私はこれ以上黒服君をいじめるつもりはないのですが、今後、我々ベンチレストシューターに対してあまりなめた事をしないように対応してくれればと思っています。)

アメリカには毎年銃を持ち込んでいるので感じるのですが、年々、検査が厳しくなります。
今回は経由地のシカゴで税関検査を受けましたので、そこの検査だけが特別厳しかったのかも知れませんが、シカゴの税関では銃番号までガッチリ調べられました。
一応検査は無事終了したのですが、私の持参したATF(アルコール、タバコ、銃器、取り締まり局)の輸入許可の事を、税関の担当者が全く理解できていなくて、書類を見ても「何これ」と言う有様です。
実はATFはアメリカの役所関係でもあまり評判が良くなく、毎年連邦予算の大幅請求に対して、毎年、予算はバッサリ切られているのが現状です。それは銃器取り締まりに対して反対のNRAのロビー活動が有ることも一因なのですが、全ての役所からATFが煙たがられる存在なのもその理由の一つです。全米中の政府組織から見れば、ATFは「ろくな事をしない」という風に見られているのかも知れません。
ATFはともかく、アメリカの税関職員がスカ太郎なのは、本当に困りました。
なんせ、担当の黒人の税関職員はATFの住所をコンピューターに打ち込むのに、人差し指で「ええと」なんて感じで一文字一文字打ち込みますので、私のイライラは極限まで達して居たはずです。顔は平静をしていますが心の中では、このここに書けないような黒人に対して最悪の悪態を吐き続けていたことも事実です。
飛行機の乗り継ぎ時間がぎりぎりまで迫っているので、待っている間は本当に胃が痛くなりました。
ですから目的地のクリーブランドに付いたときは、本当に一安心してします。
世の中のツアーコンダクターの方達の気苦労がよく理解できる一瞬でした。
今回もレンタカーはハーツを利用しましたが、カーナビが昨年より進化したので大助かりです、しかし、目的地に宿泊先のホテルを入れようとしても、他の古いホテルしか表示されないのは本当に困りましたがね。それもと更新が極端に悪いのでしょうかね?

日本のカーナビを使い慣れていますと、ハーツレンタカーのカーナビは10%程度しか機能していないですね。でも、カーナビは無視して、地図を頼りに多少の遠回りをしながら、何とか宿舎のホリデイイン エキスプレスに到着、明日からいよいよ練習開始です。

ホリデイイン エキスプレス
ホリデイイン エキスプレス

5月24日
実はホテルからケルブリーの射撃場までの地図は無かったのですが、ホテルのフロントに聞けば、そんな事は簡単だろうと考えていたのが大間違いでした。
ホテルに聞いてもケルブリーなんて会社は知りませんし、当然射撃場なんて当然知りません。
住所を言って、奥から地図を引っ張り出してきたのですが、それでも全然解りません。
最終的にホテルマンは何処かに電話をかけてケルブリー迄のルートを調べてくれました。
彼はそのルートを説明する前にこう言ったのです。
「今、貴方はとんでもない田舎に行こうとしているのですよ」まあ、私としても、町の真ん中に射撃場が有るとはこちらも思ってはいないのですが・・・・・
車にはカーナビも付いていますので、同行の井上さんが、ケルブリーの住所から、住所検索と言うモードで、目的地を呼び出してセットしてくれました。取り敢えずはそのカーナビの通りに出発、ところが向かう方向がクリーブランド市内方向になっているのです。目的地までの距離も150キロとなっています。ドライブしながら明らかに間違いに気づき、途中でUターン。どうやら井上さんの入れた地図の住所、アメリカには何処にもあるありきたりの名称だったらしいですね。日本で言うところの**銀座と言う感じでしょうか。
定かには知りませんが、九州でも北海道でも**銀座と称する所は無数に有るのでは無いでしょうか。これもその類であったと思います。
しかもケルブリーの辺りの住所は同じ名前でも検索にヒットしない事が明白でした。
こうなれば、ホテルマンの説明通りに行くしかありません。
その時、ホテルマンの言った、「今、貴方はとんでもない田舎に行こうとしているのですよ」と言うフレーズが頭によぎります。
最悪の場合、ターク高野氏に携帯で連絡すれば何とかなるのですが、この時点でタークはまだテキサスからの長距離ドライブの最中で、まだオハイオ州にも入っていなかったのです。
ホテルマンの説明通りに進んで行きますと、何だか昔に通った道みたいな懐かしさがだんだん湧いてきました。
そうです、数年前に初めてスーパーシュートに来たときの同じイメージです。
車を進めるごとにその思いは強くなる一方です。同行者達がだんだん田舎になるので不安になる中、私は行こうとしている場所に確信が持てるようになってきました。
「今、貴方はとんでもない田舎に行こうとしているのですよ」、そうだ、私はとんでもない田舎に行くのです! 

マーシャルビルと言うとてつもない田舎の町からさらに辺鄙な田舎に抜けて行きます。
ちなみにマーシャルビルの町の中心地をご紹介しておきましょう、右側の煉瓦建て建物は郵便局、左側の白い建物はライオンズクラブのビル、一応格式の有る建物が町の繁華街の中心に有るのがご理解頂けるでしょうか。

中心地
中心地

マーシャルビルと言うゴーストタウンみたいな町中から、さらに田舎に向かいます、私は同行者達に、道脇に小さな看板があるので見落とさないでね、と声をかけます。
看板を見落とさないようにスローで走る私の車の後から、恐らく地元の人なのだろう、猛烈なスピードで追い越していく、アメリカでは超希な片側1車線道路ですから、まともに走るには追い越すしか無いのです。どうやら私の運転は地元のドライバーに少なくないフラストレーションを与えたようですね。
「あった、ケルブリーの看板だ」同行の湖東教授が叫びます!

私はあわててハンドルを切る、タイヤが悲鳴を上げながら、脇道のさらに細い道路に突っ込んで行く、「今、貴方はとんでもない田舎に行こうとしているのですよ」再度ホテルマンのフレーズが頭をよぎります。

脇道
脇道

しばらく進みますと、とんでもない田舎には全然相応しくない、膨大な車が駐車している所が見えて来ます、その部分だけが完全に田舎では無くなっているのです、とんでもない田舎の中にポツンと存在する、とんでもない喧噪の場所なのです。
その喧噪の場所がケルブリー射撃場なのです、やっとケルブリー射撃場に到着しました。
とんでもない田舎で、駐車場所に苦労します、アメリカ人と言うのはとてつもなく早起きで、私はホテルを5時に出て来てもすでに駐車場は満杯状態なのです。
早起きと言う言い方がシューターだけに限定されるのかも知れませんが、シューターに限って言えば、本当にあきれるほど早起きなのです。すでにリローデングするテーブルは満杯で、7時の段階で我々日本人シューターのリローデングベンチは皆無です。
我々日本人が一番苦手なのは、こうした中に入って、何とか皆さんに融通して場所を空けて貰うと言う作業である。一番苦手なのでケルブリーの社長に依頼して、事前に6人分の作業テーブルを確保しておいてと依頼しておいたのですが、この時間ではまだ肝心な社長が出社していないのです。
しばらくしますと、会長のジョージ、ケルブリーがいたので再会の挨拶と、日本で製造しておいた、ベンチレスト射撃協会のピンバッジを渡します。
相好を崩して受け取り、早速スーパーシュートのTシャツに着けます。
このピンバッジ、国際親善、あるいは皆さんとの交流の為に作成した物なのです。
会員には全員1個ずつ配布しましたが、数百個は、私が全部自費で購入したのです。合計金額で8万円程でしたが、ピンバッジの効用は現場で痛切に感じる事になります。
多くのアメリカ人は我々日本人に対して、あまりフレンドリーだとは思っていないのは事実です、それは何と言っても言語の壁が大きく立ちはだかっているからなのです。
アメリカ人は、たいていの人間は英語が理解できる物と勝手に解釈している節があります。
だから誰でも、英語は出来るのは当たり前と考えている様です。だから、誰とも口をきかない日本人はフレンドリーでは無いと感じるのであるのも無理からぬ事なのです。
でも、日本人自信にも本質的に深刻な問題があると私は考えて居ます、何故なら、いい年をした大人の中でも、あまりにも、まともに口のきけない人が多すぎます。
私の昼飯はほとんど近所のそば屋で済ましていますが、昼時は非常に混み有るので相席なることも度々です。
その事自体は何の問題もないのですが、相席で私の前に座る人は大半が無言なのです。
大半が黙って、ボーッと座る、当然無言、視線は合わせない。まるで幽霊ですね。
「こちら、よろしいですか?」とか「失礼します」とか、たった一言言うだけでどんなにお互いの気持ちが和むことか、こんな簡単で常識的な事ですら、多くの日本人は言えなくなっているのです。これも日教組の所為だといったらいささか言い過ぎでしょうか。
アメリカ人の場合なら、絶対にこういう事はありませんね。
もしアメリカ人で黙って目の前の席に座ったら、完全に脳の回路が崩壊していますね。
その場合は、逆にその席から素早く立ち上がって席を替えた方がいいですよ。
着席の時に相席の人に挨拶が出来ません。こういう人達は脳細胞の言語分野に何らか致命的な欠陥を抱え込んだ人たちだと思います。
こう言う人たちがアメリカに行ったら、それこそ、フレンドリーでないと言われるに間違いありません。日本語でもまともに口をきけないのですから、英語では絶対に無理ですね。
私自体も、英語でジョークを飛ばせるほど、饒舌という訳ではありません。英語でイラク問題に関して自説で言い負かす、なんて夢の夢です。
それでも顔見知りの人間に挨拶する事ぐらいは言えます。でもそれだけなのです!
挨拶だけで、その後の言葉が出ない時、そういうフリーズしそうな時に、「これ、日本のベンチレスト射撃協会のピンバッジ」ですと行って差し出せば、ぐっとお互いの関係が増すのです。
もとより、ピンバッジを交換する、そういう風習はヨーロッパで育った習慣です。
過度に高い物は自分を卑下させる、貰う人間にも抵抗が出来る、貰う人間が全く抵抗のない物、でもレアな物、そういう物がプレゼントとして効果的なのですが、何をプレゼントするかはその人のセンスとしてか言いようがないがないですね。ピンバッジをあげると言う事はお互いの心を開かせる絶妙の裏技ではないかと考えています。

ピンバッチをあげる、これも過度に至ってはいけません。貰った人間が自慢できる範疇で渡さないといけないのです。貰った人間はすぐに帽子やシャツに付けます。誰でもこれを付けている訳ではありません。つまり値打ち付けです。出来るだけ値打ち付けして他の人に渡しますと、さらに効果的なのです。私はピンバッジに8万円のポケットマネーを使いましたが、その効果はそれ以上であった事は言うまでもありません。ピンバッジ一つでその瞬間、いい大人が感激して急激にフレンドリーになっていくのです。
いやはや大変効果的な使い方でした。

ピンバッジ
ピンバッジ

射撃場で撃っていますと、後ろに一人の日本人が立っており、聞くと近所で寿司屋をやっていると言うのです。単なる寿司屋の営業かと思ったら、何でもケルブリーに銃の事で相談に行ったら、「今日、日本人が来ますから」と言うことでわざわざ遠くから会いに来たと言うのです。
この、とんでもない田舎で日本人に出くわすのは極めて珍しい事なので、わざわざ射撃場まで出かけ来たと言うのもうなずけます。早速名刺の裏に地図を書いて貰い、そのお店「寿司勝」に全員で出かける事にしました。名刺に書いて貰った地図なので、歩いても行けそうな錯覚を覚えますが、やはりアメリカ、実際に寿司勝迄の距離を走りますと、ホテルからは間違いなく50キロ以上の遠方にありましたね。東京から横浜以上の距離です。
寿司勝の店主の名前はTony Kawaguchi。話を聞きますと、生まれは北海道の炭坑町、美幌町、寿司屋の修行をしたのは東京の立川。出前から初めてやっと寿司を握らせてもらえるようになり、アメリカの寿司ブームに乗って渡米、ホノルル、ニューヨーク、シカゴ、ロスアンジェルス、コロラド、アリゾナ、と転々とし、最終的にこのオハイオ州のアクロンに居着いたそうです。その経緯を聞いただけで私にはその店主のバックグラウンドのストーリーが見えたような気がしました。

来年も世界選手権だから来ますよと言ったら、「自分、ヘルプしますよ」「家に泊まってください」と言う。その彼の気持ちが何となくわかるような気がしました。
その感情は、実際に1970年、アメリカで修行していた私には、そう、何となく解る気がします。この解るという感覚には深い深い意味が有り、かつての自分の、アメリカでの修行中、苦労した事と、寿司勝の店主のTony Kawaguchi氏のバックグラウンドが重複し「苦労したんでしょうね」そんな感傷を思わず感じた夜でありました。
苦労した人間は人に親切に出来るのです。
苦労して人に親切になります。苦労していじけた人生をおくります。
人間には2つのタイプがありますが、私もTonyも明らかに前者のケースですね。

寿司勝
寿司勝

寿司勝の住所は、1446 N.Patage Path Akron,Ohio 44313  Tel (330)867-2334 です。
アクロンにおいでの際は是非とも寿司勝にお立ち寄りください。

5月25日
この日は2日目の練習日です。
早朝6時、全員が出発するのですが、但し私だけはホテルの部屋で居残りとなります。
実は、今年のカタログの版下の期限が6月の始めなのです。
5月の最後の週は、版下のチェックと、カタログ解説書の書き上げをしないとどうしても時間的にやりくりが付かないのです。今年のカタログ解説書は40ページにもなりますので、その膨大な量の原稿をどうしても今月中に書き上げないとならないのです。
その為に多くの資料とパソコンをここまで持ち込んでいるのです。出来れば射撃をした後に、時間を見つけて書き上げようと計画していたのですが、その計画は到底無理だと言うことが解り、練習日の1日を原稿書きの為に空けたのです。
早朝から深夜までかけて、カタログ解説書は、何とか書き上げました。今はその余暇を利用してこのリポートを書いているのです。カタログ解説書とリポート、同じ書き物でもそれぞれ別物なので、互い違いに書いていきますと、あまりストレスが溜まらず書き上げられるのです。物書きは私の隠れた趣味の一つなのです。
ですから、この日の射撃場リポートはありません。
明日からは、いよいよ大会本番と言うことになります。

原稿書き
原稿書き

5月26日
大会1日目
開会式では昨年のチャンピオンの人たちが紹介されました。常連のトニーボイヤー氏も出ていますね。

オープニングセレモニーは、ケルブリーの会長が車を引いて、名前は知らないのですがお金持ちのベンチレストシューターで、毎回参加している常連さんです。
この人は大会に参加すると言うよりも、こうしたアトラクションに命をかけているようです、勿論この出し物は彼のポケットマネーで作られました。

昨年のチャンピオン
昨年のチャンピオン
アトラクション
アトラクション
アトラクション
アトラクション

射撃を始める前に、弾頭、火薬、雷管を購入します。
会場ではN133の火薬も8ポンド缶で売っています。8ポンドで$135です。
アメリカ人からこれは日本で幾らするのだ? と聞かれたので日本円で\25,000、つまり$で238と答えますと、ヒューと口笛を鳴らして肩をすぼめます。
ついうっかりして、すみません!「8ポンド缶ではなくて2ポンド缶で・・・・」と訂正しようとしましたが、ついつい言いそびれてしまいました。
2ポンド缶ならわずか$32ですが、これが日本では\25,000となるのです。
価格差で言うなら、インドと日本のヘロインの値段差。北朝鮮と日本との覚醒剤の値段差に匹敵する価格差です。私も金に困ったら火薬の密輸に走るかも知れませんが、現在の所は、何とか理性で踏みとどまっています。
この火薬の輸入元、国友銃砲の社長からは祇園で御馳走になった恩義がありますので、国友銃砲の名誉の為にあえて説明を加えますが、火薬の輸入は船便で、しかも専用のコンテナを使わないと出来ないのです。
散弾銃の実包なら、1コンテナで45万発入ります。火薬なら10トンは搭載できるでしょうね、10トン搭載しても1ポンド搭載してもコンテナの搬送量は同じだという事をご理解ください。火薬も10トン、輸入しても瞬時に捌けるのなら、火薬の値段も劇的に安くなるのでしょうが、10トンのライフル用火薬と言うと、現在の需要者が今の1000倍の火薬を消費してもとても消化できない程の膨大な数量なのです。

日本チームの参加者全員がこの火薬を個人使用分として持ち帰りたいのは山々ですが、火薬類ですからアメリカの手荷物検査で引っかかるととんでもないトラブルになるので泣く泣く持ち帰りを諦めた商品です。

N133
N133

ベンチレスト射撃では、標的交換は一仕事です、勿論射手が自ら交換するとなると不正行為が起こらないとは言えませんし、第一大変煩雑です。
そのため、大会をサポートするためにターゲットクルーと言う人たちが標的交換を支えていてくれます。15分以内に60的ある的を全部交換します。
射座では、射撃中止1分前、30秒前、5秒前、とコメントが流れますから、「射撃中止」のコメントと同時にターゲットクルーが飛び出して行きます。
ターゲットクルーと言っても半分は子供達ですから、近辺の関係者の子供達でしょうか?
いずれも有り難い存在です。縁の下の力持ちと言うのでしょうね。

ターゲットクルー
ターゲットクルー
ターゲットクルー
ターゲットクルー

射撃中の井上さんです、射座と標的の間に無数の風旗が有るのがお解りでしょうか。
この風旗は全部射手が持ち込んだ物です。それぞれの射手は風に対して独特の読み方がありますので、こうして自分専用の物を設置しているのです。

井上さん
井上さん

風の流れを読まないで、漠然と真ん中だけを撃って居たのでは、絶対に良い成績は出せません、間違いなく最下位レベルですね。
ここでの射撃は風の流れを考えてほんの僅かずつ、狙点をずらして射撃しているのです。
そして5発の弾痕を出来るだけ小さく撃った人間が優勝するのです。
究極の命中精度を競う射撃競技です。ベンチレスト射撃を始めるとよく解るのですが、5発弾痕の内、4発はほぼ同弾痕で、1発だけが飛ぶと言う体験をほとんどの人が体験します、そしてその泣き言は大会の間、多くの射手から常時聞かされることになります。
これを私の命名で「泣きの1発」と言っています。ここでベンチレスト射撃競技が何故5発なのか説明しましょう。逆に3発競技であったら、ほぼ全員がワンホールを達成しているでしょう。ライフル銃の特性なのでしょうか、何らかの神に支配されているのでしょうか、不思議なことに3発は奇妙によく当たるのです。これは私の体験ですが、4198等の燃焼速度の火薬を使い、弾頭を60グレインくらいの軽い弾で撃ちますと、特によく当たります。
所が、こうしてよく当たる弾は同じように1~2発だけ大きく飛ぶと言う逆の特性を備えて居るようです、逆にN133やベンチマークなどを使い65~68グレインの弾頭を使い、3~5ミリ程度のグリーピングの装弾は大きく飛び跳ねる事がありません。と、言っても絶対的な事実ではなくて、私が体験した、体感した上で感じる長年の経験です。
4発、狂った様なワンホール弾痕を体験しますと、それから僅かに飛び出た1発の弾痕は無視しがちですが、しかしそれがその弾の特性と見なければいけません。

4発はワンホールになりますが、1発だけは外れる弾。
ワンホールにはなりませんが、飛ばしの出ない弾。

このどちらを選択するかで、成績も世界観も大きく変わってきます。
ベンチレスト射撃もそうですが、射撃と言う世界では往々にして神懸かり的な事を言う人が少なくありません、実際の射撃で外れの出た薬莢は「外れる薬莢」なんて除外して居る人も居ます、多分その人には当たる薬莢と言うのも存在するのでしょうね。
ネックターニングでも神懸かり的な領域に落ち込んで居る人も少なくありません。
まあ、射撃はある意味での宗教みたいな物ですから信じても構わないのですが、残念ながら信仰だけでは当たりませんね。
話は戻りますが、命中精度の特性を逆に利用した話ですが、ハンテングライフルには、付属で付いてくる試射的がある場合もあります。しかしそれは全て3発の弾痕であることにご注目ください。
何故3発なのかと言いますと、何故か3発なら本当によく当たるのからで。
もし1発外れる事があっても、それは無いことにして、再度3発撃てばほとんど当たります。射撃の世界の不思議な現象なのです。これは皆さんも体験していることでしょうから、思わず膝を打った人もおいででしょう、そしてその当たった事実だけが現実として認識されているのです、でも、外れた2発も貴方が撃った弾痕です。
この様に、3発と5発では命中精度の結果が全然違うのです。
ですからベンチレスト射撃競技は1圏的に5発撃ち込みさせているのです。
ベンチレストシューターがベンチレスト射撃を初めて、3発のワンホールを体感したとしたら、急に神の存在を感じたとしても不思議はありません、そういう不思議の国の世界なのです。
ですから、私から見て全く意味の無いような奇怪な作業が「奥義」あるいは「秘技」として口伝で伝わって居るようです。もっともさすが私には聞こえてきませんがね。
あるいは、こういう事を馬鹿にしている私には、裏では逆に築地はベンチレスト射撃の事は何も知らないと言われているのかも知れませんね。
奥義、秘技が、虚飾の技術だと解るには人によって大きな違いがあると思われます、命中精度の現象を、物理的な現象として把握できるでしょうか、あるいは神懸かり的な現象として捉えかにあります。ですから命中精度のテストでも、意外と3発は当たりますのに、5発撃つと1~2発が外れる特異な現象を、どう認識しているかによります。
命中精度に関して、少しだけ腕の良い誰かが、何か神懸かりな事を言いますと、多くの日本人は簡単にはまってしまうのですね。
合理的なベンチレスト射撃の世界でもこうなのですから、クレー射撃の世界はさらに神懸かり的な事を言う人が少なくないですね。そして簡単に引っかかります。
あまりこういう事を書きますと、反撃が大きいのでこれで口を閉じます!(オシマイ)
話を戻しますが、5発の内に1~2発外れる要因の多い、狂った様に当たる「悪魔」の装弾よりも、頂点は極められませんが、そこそこの当たりをする「地道」な装弾を選択しますか、この選択肢は非常に大切です。

射手が射撃をしている後ろには多くのギャラリーが見学しています。
彼らは射手の弾痕と風を見ていますので、見学イコール学習と言うことが出来ます。
我々は銃と、レスト、リローデングキットだけで膨大な機材となっているので、こうした余分な観的スコープは持参できません、その分学習効果は少なくなりますね。

ギャラリー
ギャラリー

会場には全米から集まったキャンピングカーで一杯です。
ベンチレスト射撃競技は全米の至る所で開催されていますので、こうしてキャンピングカーで転戦しているのです、キャンピンングカー自体も何千万円もしますので、結構お金のかかる競技なのです。私もキャンピングカーの中を見学しましたが、窓にカーテンを引くと、中は普通の家と見まごうばかりです。案外、日本の様な土地の狭い都会では、キャンピングカーよりも狭い家に住んでいる人も少なく無いかも知れません。キャンピングカーの中は、普通の家に有る物はほとんど揃っています。

キャンピングカーの中
キャンピングカーの中
キャンピングカー
キャンピングカー

こう言うキャンピングカーには全部トイレが併設されています、いわゆる落としではありません、ちゃんとした水洗トイレです。誰でも考えると思いますが、タンクが満タンになったらどうするのでしょう? 少なくとも彼らは10日以上ここに止まっているのですから。
それがここに来てから毎日気になっていたのですが、私達が射撃場に行きますと、何時も謎の車が射撃場から出てくるのです、不思議な車だと思っていたら、運転手のお兄―さんが、ホースを持って、キャンピングカーに接続しています。なーる程、これがくみ取り屋さんなんですね。こうして毎日くみ取り屋さんが呼ばれているのです。
でも、この車、くみ取り屋さん独自の臭いがしないのです。全くの実は無臭なのです。
車には色々な仕掛けが有るのでしょうね、だから全く気付かなかったのです。
でも毎日くみ取り屋さんを呼びつけているのですから、キャンピングカーて本当にお金がかかりそうですね。

くみ取り屋さん
くみ取り屋さん
くみ取り屋さん
くみ取り屋さん

すでに皆さんはお気付きかと思いますが、ここでは全然成績の事を話して居ませんね。
実を言うと私も含めて全員が、とても公表できる様な成績ではないのです。
アメリカの底の深さを感じます。実は我々がスーパーシュートに参加した、最大の要因は、来年ここでベンチレスト射撃のワールドカップが開催されますから、その予行演習、あるいは下見と言う目的があるからなのです。
ですから成績は公表しなくて良いのです。なんて勝手な事を言っていますが、インターネットの世界では全ての大会成績は公に開示していますので誰でも見ることが出来ます。
ですから成績をご覧になりたければそちらのサイトを覗いてください。
全くの言い訳でしか無いのですが、我々が翻弄されているのはオハイオの風です。ここは非常に天候が変わりやすい土地なのです。
我々がオハイオに着いてからは毎日初夏の様な陽気が続いて居ていますが、ジム、ケルブリーの話だと先々週は雪が降ったそうです。この様にここは陽気が激変する場所なのです、ですから風も多く、色々なタイプの風に翻弄され続けているのです。
特に我々が悩まされているのが、無風状態での風です、無風状態で風が有るわけ無いと言われると思いますが、風旗がなびかない無風状態で撃ちますと、弾痕は上下に大きく振られるのです。無風状態とは、風旗はなびきませんが、その分、上下の風が雑然と存在して、その存在が我々には見えないだけなのです。
大会が進んで来るにつけて発見したのは、アメリカ人は、無風状態の時は決して撃たないのです。ぎりぎりまで粘り、制限時間が無くなると致し方無く撃つのですが、やはり弾痕は上下に振られています、しかしながら我々日本人シューターよりは明らかに振れは小さいのです。
彼らは無風の中で風の息を読んでいるのですね。さすがに脱帽です!
最適な風は、そよ風が横方向から均等に吹いている状態です。
勿論私もその絶好のタイミングを逃さず射撃するのです、4発ワンホールを出すような場面でも、何処かの場所でささやかな逆風が吹いていて、1発大きくよそに持って行かれるのです、そよ風の中には何処かに逆風と言う悪魔が居着いて居るのです。
特に、ここの射撃場には、多くのアメリカ人はその悪魔の存在していない僅かな間隙に引き金を引いているのです。悔しいことですが、どんな風の中でも巧い人は巧いのです。
この無風状態の翻弄は追い風の時にも体験させられます、無風、追い風、はこの世界では鬼門なのです。
ベンチレスト射撃の世界は、たった1発のミスで全て終わります。どうも我々の人生模様に似ていなくもありません、バブルに浮かれて、1発のミスですべてオシマイ。そういう人たちを沢山見て居ますからね。ここでは悪魔のテクニックなんて存在しませんね、地道に努力を積んだ人だけしか神様は認めてくれないのです。

3日目の大会は200ヤードの競技が行われました、毎回5回の射群をこなして大会は進みますが、1回から5回までの射群の中で、常に自分の順位が張り出されます。
これはコンピューターのおかげで採点さえ済めば瞬時に成績が判明するからです。
私は1射群では、63位でしたが、次の射群で風に翻弄され、わずかなミスで281に転落、その後ミスを犯さず、109位、58位と順位を上げて来たのですが、最終回はまた風に翻弄されて369位に転落。最終的な順位は94位と言う結果になりました。
ほんの僅かなミスでこんなに劇的に順位が入れ替わる競技はそうそう無いでしょう。
これこそ人生の縮図そのそのものではないでしょうか。
「勝って奢らず、負けてめげず」これがベンチレスト射撃競技から学んだ貴重な教訓です。

ベンチレスト射撃競技をやっている人間なら、トニーボイヤーの事は誰でも知っています。本当に神様みたいな射撃の名人です。リューポルドのカタログの1ページにはトニーボイヤーの写真も掲載されています、それ程の伝説的な人なのです。

射撃の神様
射撃の神様

そのトニーボイヤーのトレードマークは何と言っても「帽子です」何時もこれを被っています。言うまでもありませんが、私はピンバッジをあげたらちゃんと帽子に着けてくれました。証拠の写真を公開しますね。

トニーの帽子
トニーの帽子

これで我々、日本ベンチレスト射撃協会は一気にメジャーになる筈です。
同行の井上さんは、持参のブルゾンの背中にサインを貰いました。
一番上がトニーボイヤー、真ん中がターク高野、一番下がドクター、リチャード モレッゾ、この人は古い古いベンチレストシューターで、「アキュラシー ライフルの」表紙に出ている人です。

サイン
サイン

ベンチレスト射撃では、4日間で4種目行われ、最終成績はその総合点で競いますが、幾ら1種目目の成績が悪くても、決してめげる必要はありません。

「Tomorrow is another day」これは映画「風と共に去りぬ」の中で、主人公のスカーレット オハラが、南北戦争の廃墟の中、実家のタラで人生の再起を力強く誓う言葉です。
「ツモロー イズ アナザー デイ」日本語に訳すと、明日は、また今日とは違う別の日。そう言う意味です。
「Tomorrow is another day」の一番適切な日本語は「仕切り直し」と言う事になるのでしょうか。ベンチレスト射撃競技では、競技は4種目ありますから、これは4回仕切り直しが出来ると言うことを意味しています。
人生も同じですね、順風満帆に行っていた人生もたった1回のミスで簡単にコケますが、その場合何度でも「仕切り直し」すれば良いのです。倒産、解雇、左遷、離婚、失恋、死別、病気、等いかなる絶望の底でも決してめげてはいけません。そうした悲劇的な現実の後は再度「仕切り直し」をすれば良い事です。
ある意味でベンチレスト射撃は人生の縮図その物ですね。
今日の射撃でも、私は右から左に流れる風を正確に読みながら1発、2発、3発、4発とほとんど同弾痕を記録し、あと1発でベストグループを達成出来るかどうか、と言う時ほんの僅か風が強くなったのを肌で感じたのですが、「今日の俺はついている」「せいぜいあと1発、たった1発だけだ」「今の俺には神が付いている」と信じ込み、「南無八幡大菩薩」と心に念じて、弾を放てばあやまたず、物の見事にスパーンと流されました。
取り返しの付かない大失敗です。
私はショックのあまりしばらく顔を上げる事さえ出来ませんでした。

その日、私はケルブリー射撃場に落ちる夕日を見ながら、「Tomorrow is another day」と密かにそう呟きました。

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