ジェームス ウッドワード - 裏側まで、徹底解説

2003年11月 8日 築地
更新 2003年11月11日 築地
2003年11月22日 築地

ジェームズ ウッドワード君なんて、年下みたいに気楽な呼び方をしていますが僕よりグット年上なのです。確かな生年月日は不明ですが戦前生まれなのは間違いのないところです。80才?あるいは100才かも知れません。
お生まれはイギリス、ロンドン。うーん正統派ですね。

右全体図
右全体図
左全体図
左全体図

ジェームス ウッドワード君のトップレバーには、1番と言う数字が金象眼で入っています、つまり、ペアーガンの一つであったことを物語っています。

上彫刻
上彫刻

ペアーガンとは、全く同じ作りの2丁の銃が存在することを意味します。
イギリスのお金持ちがハンテングをするときに、自ら装填しないで、サーバントに装填させた銃を受け取り、「ドンドン」と撃ったら、装填された銃を受け取り、また「ドンドン」と撃って、また装填させると言う目的で作られた銃なのです。
そんなハンテングフィールドは、今時何処にもないと思いますが、かってはそう言うハンテングが出来た時代もあったのです。その時代の名残の銃ですね。
日本では最後の将軍、徳川慶喜さんですら、1丁の銃でハンテングされていますから、ペアーガンと言う発想すら無いはずですから、この銃、戦前の日本に有ったと言うわけではなく、多分バブルの頃、金の力に物を言わせて日本に輸入された銃ではないかと思われます。バブルの頃はこうしたロンドンガンが多数日本に輸入されましたね。
銀座の飲み屋で1日、300万円使ったとか言う馬鹿の居た時代ですから、お金の使い道が無かった頃の産物かも知れません。
バブリーな頃輸入されたジェームス パーデイのペアーガンを500万円で買わないかという話がありましたから、今はその位が相場でしょうね。
ところが、アメリカではまだバブルの影響が多少残っているのでしょうか、アメリカだったらもう少し値段が付く可能性があります。
この銃も日本国内で売りたいのですが、オーナーの希望する販売価格は200万円なので、何方か買って頂ければ200万円で販売しますが、希望者が居ないとアメリカに輸出される運命にあります。

当社のビジネスは、海外からの輸入だけでなく、米軍にもガラクタの安物中古を販売しますし、超高級銃の輸出もします。
あるいは、ロンドン製のダブルライフルや、水平二連銃の修理なども請け負っています。
こうした銃の修理は、日本国内ではなくて、製造元で修理させます。
数百万、あるいは一千万を超えるような銃ですから、修理調整は値段が高くても製造元での調整をオーナーが求めるためです。
こうした銃の修理代は原価、輸出入の当社の手数料は10万円ですから案外安いと私は考えています。下手に素人さんが手出ししたら税金だけでこれ以上のお金を請求されるはずですからね。もしロンドンガンなどをお持ちのお方が居たら何なりとご用命下さい。

さて、ジェームス ウッドワード君ですが、親元ははすでに無く、会社自体はジェームス パーデイ社に吸収合併されており、現在はジェームス パーデイ社のコントロール下にあります。かってはロンドンガンも数社あるいはもっと有ったのですが、現在はジェームス パーデイ社の独走態勢にあります。パーデイはニューヨークにも支店があり、現在でも納期は3年待ちと言う状況です。
パーデイと他のロンドンガンを比べても製品の出来自体には大差はないと思うのですが、そこはやはりブランドの違いと言うことになるのでしょうね。
自分で使う分には何の問題もないのですが、中古で売るとなるとジェームス パーデイを超えるブランド名は無いのです。

この銃のオリジナルのガンケースも付属しているのですが、あまりにも古いため取っ手の皮が切れてしまっています。ガンケースとしての用途よりも、当時のガンケースの作り方を知ることの出来る貴重な逸品ですので、その辺りを少し紹介してみましょう。

オリジナルガンケース
オリジナルガンケース

このガンケース、一見すると革製に見えますが、本体を構成しているのは樫材です。
樫材でガンケースの本体を作り、その樫材の外側を牛革で補強して居るのです。
現在もこれと同じ製法でガンケースを作り、銃の付属品として提供しているのは、私の知る限りジェームス パーデイ社だけです。
実はそのガンケースを製造しているのは、当社でガンケースを販売している販売している「エンビ」社の製造になるものです。

ガンケース材料
ガンケース材料

私も樫材を部材にして牛革で補強した物を使っていますが、しっかりした作りですが重いのが欠点です。私は重いと思っていたのですが、ウッドワード付属のガンケースはさらに重たくできています、重量は7キロ有ります。なんと銃よりもガンケースの方が倍くらい重たいのです。
ペアーガンを使うような人達は、自らガンケースを運ぶと言う発想は無かったのでしょう。ですから軽さよりも丈夫さを重要視したのだと思います。

オリジナルガンケースラベル
オリジナルガンケースラベル
オリジナルガンケース内部
オリジナルガンケース内部
新しいラベル
新しいラベル
今のガンケース
今のガンケース

現在はジェームズ パーデイ社でウッドワード君の専用ケースをリリースしています。
ガンケースのラベルにそれが読み取れますよね。
1948年以降、ウッドワード社はパーデーの傘下に組み込まれたと言うことですね。
でも、このガンケース当社で販売している「エンビ」社のガンケースと同じ物なのです。
ガンケースの部材に樫材を使っていないのは、自らのジェームズ パーデイと差を付けるためなのでしょうね。

この銃が作られた当時の80~100年前の貨幣価値で言うと、家1軒が買えたのと同じくらいの貨幣価値が有ったでしょうね。
仮の話、100年前に親から遺産相続されて、お前は長男だからこの銃を、お前は次男坊だから家屋敷と田畑を、なんて言われたらその長男は泣きの涙ですね!
時折、親からの遺産相続で貰った銃の買い取りを相談されることがありますが、大抵の場合、ロンドンガンの価値は家1軒と同じだと親から言われた方が少なくありません。
そして今でもそれを信じている人も少なくないのです。今となってはまるで漫画ですね。

さて、ジェームス ウッドワード君の銃床材質を見てみますと、当時の値段からは考えるとごく平均的な銃床材料ですね。

右元台
右元台
左元台
左元台

勿論、これ自体良い銃床にかわりはないのですが超レア物とまでは言い切れませんね。
当時としては良い銃床材料は枯渇していたのでしょうか? 
今考えると何だか不思議な気がします。
実を言うと100年前より現在の方が良い銃床材料は多いのでは無いかと思います。
それは何故かと言いますと、100年くらい前に数百年と経過した古木を伐採しても、利用されるのは根っこから上の部分だけでした、言うまでもなく木質が一番緻密でなおかつ綺麗なのは何トンもの自重に耐えた根っこの部分なのです、何トンもの自重のために木質の導管は真っ直ぐに成長することが出来ず、縦横に折れ曲がりながらの成長を余儀なくされます、その為にその部分を製材すると複雑で華麗な木目が現れるのです。
100年前は伐採しても根っこを掘り起こすことは出来ませんでした。そのため今日までその一番おいしい部分は土の中に放置されてきたのです。
所が伐採された木の根は多くの場合、伐採されて捨てられても意外とそのまま生きていることが多いのです。その木からまた枝が生え、一見すると2,3本の木が生えているように見えますが、実はその下には巨大な根っこが隠されている場合があるのです。
あるいは枝が生えていなくても、根っこの部分は腐らずに残っている場合もあります。
現在では伐採の機械が画期的に進歩していますので、こうした「歴史的な」木が採集可能なのです。さすがヨーロッパの先進国ではこうした事は有りませんが、共産圏が崩壊したヨーロッパ諸国ではこれは大変に美味しいビジネスと成っているのです。
根っこを掘り起こすだけで、数百万、あるいは1千万円近い値段で取引できるからです。
そして、そうして掘り出された根っこの部分は、丸ごとペラッチなどに買い取られたり、それを製材して銃床材料として単品で売られたりしています。
私もドイツなどに行った時には購入していますが、販売しているのは中東の人たちとか、トルコの人たちです。そうして買った貴重な材料があるのですが、日本国内で加工に出したら、この材料は自分たちには手に負えないと言われて加工を断られた事もあります、こうした材料は木目も順目と逆目が微細に入り組んでおり、よほど切れる刃物を使い、腕の達つ職人が加工しないと加工できないのかもしれませんね、それにこうしたレア物の材料の場合、木の収縮で木の内部にミリ単位の空洞が出来ている場合もあります、そうした場合は同じ木を使い、木目と色を合わせながら丹念に埋めていく作業も避けられません。私はウエザビーに居るときにこうした作業を学びましたが日本ではこうしたレア物の材料を使わないので技術が継承されていないのかも知れませんね。
この銃床にはレコイルパットが付いていないのがお解りでしょうか?
最高級の狩猟銃には、この様にレコイルパットを付けないのが標準なのです。

銃の彫刻ですが、ロンドンガンの彫刻は、ドイツの深掘り、イタリアの毛掘り、その中間に位置するところにあります。

右彫刻
右彫刻
左彫刻
左彫刻

ドイツ物は唐草などを彫るときには良いのですが、彫りが深いため動物などの繊細な表情を表すのには不向きです、イタリアの毛彫りは動物の繊細な表情や、自然の豊かな情景を表現するのには適していますが、彫刻が薄いため、擦過により彫刻が薄くなる事もあります、それからするとロンドンガンの彫刻は繊細で、なおかつしっかりとした彫りから出来ており経年変化にはびくともしない強さがありますね。

下彫刻
下彫刻

機関部の中も分解して色々説明を加えたいのですが、分解の時にねじ山を滑らせたりするとそれだけで何十万円のペナルテーに成りますから怖くて出来ません。
ですからメカ的な説明は省略させて頂きます。

外見上から判断すると、数千発は使用されてはいますね、何しろ100年近い年月が経過しているので当然でしょう。

使用されたかどうかはブリーチ面のファイアリングピンの周りを見ると、ガスの吹き戻しで出来たクレーターで判断できます。
しかしながら、この部品は別パーツで出来ていますので、この部分だけを交換すれば見た目は新品同様にレストア出来ますね。

ブリーチ面
ブリーチ面

ブリーチ面全面にある細かな傷は錆の痕とも、火薬ガスの損傷による痕とも言えますね。

右銃口
右銃口
左銃口
左銃口
銃口
銃口
薬室
薬室

何しろ100年近い年月が経過していますので当然の事でしょうね。

チェッカリングを子細に観察しますと、ダイヤモンドの頂点がちゃんとエッジが出ていませんね、銃床はオリジナルと思いますので考えられないくらいお粗末な仕事ですね。
私でももう少しましなチェッカリングは出来ますよ!

右グリップ
右グリップ
左グリップ
左グリップ
右先台
右先台
左先台
左先台

これが後作りの銃床なら何となく理解出来るのですがね。


更新 2003年11月11日

私のコラムを読んだ読者の方から以下のメールを頂きました、先ずはご一読ください。

おはようございます
いつもためになる情報ありがとうございます.
さて,お粗末なロンドンガンのチェッカリングですが,これは小生のパーディ-もそうです.
聞くところによると,今のカスタムガンみたいにインチ26本とか30本とかのチェカリングで山を立てて施すと,店頭でのミントコンディションの時には良いのですが,猟場等で使用すると,直ぐに山がつぶれて価値が無くなるから行わないとのことです.
親子数代にわたって補修を重ねて,最後に山が立つようにとの配慮と聞いています.

上記のメールに対して、私は以下の様に考えています。
全ての銃は、完成したときが最良の状態であるのが本当です。さんざん銃を使ってだいぶ痛んだ頃にチェッカリングをやり直すというのは合理的ではありません。
それにその場合はチェッカリングの幅を均等に仕上げるのが本当で、山があったり無かったりと言うのはどうかと思いますがね?多分、セールストークの上手な銃砲店のオヤジにまんまと言いくるめられたのでは無いでしょうか?
私の回答に対して以下のようにメールが来ました、再度ご一読ください。

築地様
銃は見ていないのでチェッカリングのレベルはわかりません.
確かに現在のレベルから言うとそうかもしれませんね.
しかし,ロンドンガンのストックのチェッカリングが山を立てないといいうか,チェッカリングを完成させないで出荷している理由は何人ものオーナーから聞きました.
また,日本やアメリカでは投資目的で購入する人が多いのはわかりますが,私はエゾ雷鳥用に購入しました.まさか鴨撃ちには使いませんが.
私の知人でパーディ-で修行をし,その後メイン州キッテリーのニューイングランドファイアームズというセミカスタムのダブルガン専門店を経て独立した,ロンドン在住のサイモンリットンというあまり上手くないイングレーバーがいるのですが,パーディ-のVIP顧客が狩猟中に木に立てかけてあった水平2連のストックをレンジローバーでバックしたときに折ってしまったのでマネージャーが呼ばれたことがあると言っていました.
コルトで鹿撃ちをする人もいればロンドンガンを山に持っていく人もいるということでしょう.

こんばんは,築地さん!
お蔭様でまた勉強してしまいました!
ロンドンガンのチェッカリングはフラットトップダイアモンドといって,両引きのストレートグリップの銃で二の矢を撃つ時に手を滑らせるためものものだそうです.
詳しくはGAME GUN Richard S.Grozik著 Countrysport Press の86~87ページを参考にして下さい.たぶんアマゾンで購入できます.ちなみに92ページのイングレーバーが若き日のサイモンリットンです.

それから,去年,白熱した議論をメールで行ったスコープのパララックスですが,先日入手したUS OpticsのUSMCスナイパーの取扱説明書に書いてありました.
USMCスナイパーでは鏡筒の後ろのリングでレチクルのピント合わせをしたあとに前方のリングを冶具でゆるめて隠れているAOリングを動かすのですが,このとき,眼を動かしても(つまりパララックスを生じさせても),レチクルとターゲットがずれなくなるまで調節するように,と記載してあります.10X固定のスコープですので,これがパララックス調整です.

このメールを受けて思わず私の脳裏に昔の記憶がよみがえりました。
確かにストレートグリップの、両引き引き金の銃には、初矢と後矢でグリップを滑らせる必要があり、エッジの立っていないチェッカリングをすると言う事実が蘇りました。
それはそのとおりなのですが、私が書いたジェームス ウッドワードは、単引きのピストルグリップです、ですから、ロンドンガンの伝統を継承しているように見えて、実は大間違いをしていることが解りました。
グリップの位置をずらさない、単引き引き金の、ピストルグリップで、フラットダイアモンドに仕上げるなんて論外ですね!
これでは、銃の根本が理解できていません。
案外パーデイですらそうかも知れません、そうだとしたらお笑いですね。(違っていたらごめんなさい)

両引きの引き金のストレート銃床なら、グリップが滑りやすいようにフラットトップダイアモンドに仕上げるのが正統です。
逆に単引き引き金のピストルグリップ銃床なら、ちゃんとエッジの付いたチェッカリングに仕上げるのが理に叶っています、これを間違ったら、ガンスミスの知識としては私以下と言うことになります。

スコープの件は、パララックスについて色々ご説明したり、逆に資料を頂いたりした結果のメールです。
前後の話がわからないと意味不明なメールになります。
私はコラムで普段から偉そうな事を書いていますので、こうしたレベルの高い問い合わせが少なくありません。毎日が研鑽の日々です。

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