散弾銃の弾道 - 弾道学

2003年 8月12日 築地
追記 2003年 8月13日 築地

私は長い間ライフル射撃を専門としていたので、どうしても弾道学という理論が頭から離れません、得意分野がライフルなので、不得意分野のクレー射撃を徹底的にマスターするため、ここ15年くらいは徹底的にクレー射撃を撃ち込んでいます。
先週、火薬の譲受け許可が満了になったので申請に行ったら、警察官に「随分撃ちますね!」と言われた。前の申請が5月だから、3ヶ月で5000発撃っていることになる。
とすると、年間20000発である。改めて諸費用を計算してみたら、弾代とクレー代で年間180万円使っていた。高速代やガソリン代まで入れると、250万円に以上になる。
私は射撃の腕前を上げると言うよりも、生来の凝り性のおかげで、メカ的な事を探求する事にその指向が向いている。クレー射撃はライフル射撃みたいに目標を狙い込んで撃つ射撃ではなく、感覚で撃つタイプの射撃である、従ってクレー射撃に於いては「理論と実際」というたぐいの弾道学の書物が意外と存在しない。断定するのも何だが、あるいは先人達の書かれた優れた書が在るのかも知れないが、私は不勉強で未だにそうした資料に遭遇したことはない。

クレー射撃で一番大切なのは、照準とスイングである。
ライフル銃の場合、照星照門を正確に合わすことにより、正確な射撃が出来る。
散弾銃には照星はあるが、照門は無い。つまり自分の目が照星と言う訳である。
従って、その照門となるべき目の位置が違ったら正確な照準は到底おぼつかない、目の位置が変わったら照星とクレーは一致していても、とんでもない所を散弾が飛翔していることになる。その様な理由で散弾銃は元々照門が無いのであるから、ヘッドアップしたら全然当たらないのである。
ライフル銃では照星照門が合ってさえいれば、あるいはライフルスコープのリチクルさえ合っていれば、必ず弾は目標に命中する。頬付けなんてどうでも良いのである。
私の所には初めてライフル銃を所持される方が数多く来社されるが、初めての方は多くの方がライフル銃のベンドが低いと良く言われる。しかし、ライフル銃の場合ベンドはどうでも良いのである、照準さえ合っていれば必ず命中するからである。
第一ベンドを高くしたらライフル銃のボルトが抜けなくなるではないか。
ベンドのことは別段このページで説明しなくても、常識以前の常識なので殊更説明するまでもないが、スイングについてはあまり論理的に書かれていないと思う。
それは何故スイングが必要かと言うために説明するのに欠かせない、弾道学が確立されていないためかも知れない、散弾が空中でどの様に飛翔するかについて、実験データーが今まで極端に少なかったからである。
散弾が銃口から飛び出した瞬間の写真はストロボを使えば比較的簡単に撮影することが出来る。過日、縁があって 防衛大学で応用弾道学を研究されている防衛大学教授、田村英樹先生からお話を頂き、マッハ30で飛翔する物体の画像を見せて頂いたが、真空中でレントゲンを使って1億分の1秒で露光すると、この様な超高速飛翔物でもはっきりとした画像が写し出される。超高速飛翔物体の撮影はこのレベルまで到達しているのである。

散弾銃で大切な、パターンテストは誰でも簡単に出来る。
射撃場でパターン用紙をはり、ズドンと一発撃てばおしまい、誰でも出来る。
しかし、これで散弾銃の弾道学を語るとトンチンカンな話になり、暴走すれば神懸かり的な与太話を展開することにも成りかねない。
散弾銃の場合は銃口から30~40m離れた所でんの散弾の飛翔映像がないと弾道学が語れないのである。その事こそが散弾がクレーに命中する瞬間の弾道学であるからである。
飛翔する散弾も高速度撮影機を30m離れた所に設置して撮影すれば、理論的には撮影できるのであるが一番の問題は"タイミング"である。通常の撮影では1分間に60~120コマで撮影するが、弾道を撮影するための高速度撮影では、1200~2400コマ撮影するのであるが、撮影機の構造上あまり長いフイルムは使えないので、撮影はホンの一瞬で終わる。
最大の問題は散弾が写っているかどうかである、現像して写っていなければ再度撮影しなければない成らないので飛翔する散弾の撮影は膨大な時間とコストがかかるので今まで出来なかったのであるが、時代の進歩はすばらしい! 現在は超高速ビデオが作られ、これで飛翔する散弾を簡単に撮影することが出来るようになったのである。
何と言っても、写ったかどうかを直ぐに確認でき、写っていなければタイミングをずらして何度でも、写るまで撮影が可能になったからである。
もったいぶらないで結果を言おう、散弾が銃口から30~40メートル飛翔している時点で散弾のコロンの長さは1mである。
言うまでもないが銃によって、あるいは使用する散弾によってコロンが微妙に変化するのは言うまでもないが、学術的に違いがあるだけで、実用上の違いは存在しない。
念のために言うが銃の値段が高いからと言って優劣が在るわけでもない。
コロンは全ての銃で約1メートルである、これを良く覚えておいて頂きたい。

ホースで水道水を水まきするときに、ホースを振らないと水は真っ直ぐに放水される。
ホースの出口を左右にスイングすると、水もその動きに応じて放水される。
スイングが速ければ早いほど、その水の動きは速くなる。

銃口をスイングさせる理由はまさしくここにある。
散弾は秒速1400フィートの高速で飛翔するが、いくら初速が早いと言っても散弾は真っ直ぐ一列になって飛翔する訳ではない、ホースを左右にスイングさせた時の水の動きと全く同じなのである、早くスイングさせればコロンの先端と後端はあたかも水道ホースをスイングさせた時の水流と同じ動きをするのである、時折テレビで飛行機を機関銃でスイングさせながら撃つシーンがあるが、あのシーンを思い起こして頂きたい、トレーサー弾頭が流れるように飛翔する、あれと同じイメージを描いて頂きたい。
散弾銃も銃口をスイングさせて撃つとあのように弾が流れて飛翔するのである。
しかしながら、散弾のコロンは、ホースの先端から出る水のように無限にある訳ではない。
機関銃のように連続して弾が出るわけではない。
散弾のコロンは1メートルしか無いという事である。
逆に言うと1メートルもあると言う言い方も出来よう。
横に飛翔するクレーに対して、銃口を素早いスイングで振ると、散弾のコロンは流れるように飛翔して、先頭の散弾がクレーに命中し、飛翔し続けるクレーに対して、次々と散弾が命中し続ける事になる。
まさしく、銃口をスイングさせる理由はここにある、コロンを有効に使うためにスイングさせるのである。
銃口から離脱した散弾はパターンを広げながら飛翔する、そのコロンは1mあると言うことである。この1mあるコロンを有効にクレーに命中させられれば、クレーは粉々に粉砕するが、コロンの先端だけ、あるいは後端しか命中させられないと、クレーは力無く2個割れ、あるいは4個割れになるのである。
言うまでもなく、クレー射撃のルールでは、割れれば1点である。
しかしクレーを粉々に粉砕することこそがクレー射撃の神髄である、少なくとも私はそう考えている。

コロンの長さが1mと言うことが解れば、少し計算すれば、クレーに対してどの位のスピードで銃をスイングさせれば良いか、簡単に計算できるはずである。
計算された物を見るのではなく、自ら計算することで銃口のスイングスピードがより正確に把握できるはずである。クレーに対してどれくらいのスピードが一番効率的か!
銃口のスイングのスピードは論理的に分析され無ければならない。
案外先輩方の今までの説明が間違っていることも充分あり得るのである。

言うまでもないがクレ-が飛翔する角度によって、銃口のスイングのスピードが変化するのは言うまでもないが、早すぎず、遅すぎず、正確なスピードで銃口をスイングさせることが絶対必要なのである。
但し、銃口をスイングさせる前の0.5秒の制止時間、「タメ」も忘れては成らない。
この銃口の静止時間である「タメ」はクレーの飛翔方向を正確に把握するためと、銃口のスイングのスピード、そして安定性、加速性を確保するためにどうしても必要なプロセスだからである。

銃のスイングが正確であれば、銃口は高付けであっても、放出口に付けてもどちらでもかまわない、高付けの方が銃のスイング量が少ない分、疲れないと言うだけの話である。

計算が苦手ならスイングのスピードは体感的に感じてもかまわない、クレーが粉々に粉砕した、そのスイングこそがコロンを一番有効に使った射撃である。
その瞬間の射撃を忘れないように記憶して頂きたい。
狙いは何処だったか、スイングのスピードはどうだったか、それを良く反芻して頂きたい。
そしてその射撃の再現に努める事である。
外れたら何故外れたか、命中できたら何故命中できたか!
考えながら撃つ、これこそが少ない予算で射撃を楽しむコツなのである。


追記 2003年 8月13日

散弾銃の弾の初速は銃口付近で、クレーのスピードの約10倍です。
しかしながら銃口から離れる毎に散弾の初速は急激に減少して行きます。

ライフル実包と違い、散弾の場合は散弾が大きく散開するの上に、飛翔する散弾にはコロンが存在するので、散弾の1粒だけを抽出して銃口から先の初速を計測すると言う事は事実上できません。

従って、あくまでも推測のレベルですが、銃口から30~40mで、散弾の初速は30%減少していると私は推測します。
とすると、散弾がクレーに命中する時点では、散弾はクレーの7倍位のスピードです。

これからスイング量を算出すると・・・・・・・・・

斜め45度に切れるクレーを30~40mで撃つには、45度ですからクレーの見かけの飛翔スピードは真横の半分になります。
従ってクレーを見た目のスピードの3.5倍の銃口のスイングが必要と言うことになります。

しかしながら横に飛ぶクレーを視認して捕らえられるのは現実には30~40mよりかなり先になるはずですから、散弾の初速はさらにもっと落ちています。ですから60~70mで撃つ場合は、銃口のスイングはクレーの見た目の飛翔スピードの、2.5倍~3倍位になるはずです。

正確な狙いで、しかも理想的なスピードでクレーを追えたかどうかは、クレーが粉々に粉砕されたかどうかが唯一の目安です。

かなり早くスイングしたとしても、横に飛翔するクレーを粉砕できないのは、まだ銃身の振りが遅いと言うことになります。

逆にほとんど上昇しないで、前に出るクレーは、クレーの見かけの移動量の1.1倍くらいのスイングスピードになります。

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