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ライフル銃身の銃身長と命中精度の因果関係について

2000年 8月 7日 築地
更新 2000年 8月 8日 築地

突然お客様から電話で質問されたのだが、今月9月号の狩猟界、88ページに辻一献と言う方がライフル銃身のQ&Aを書かれていて、氏は、その中でライフル銃の銃身長とグルーピングの事に付いて書いています、その中で氏の主張は普段私の主張している事と大きな違いがありますのでここであえてご説明させていただきます。
氏は記事の中で良く当たる銃身は24~26インチだと主張されております。

さらに、なかには「ライフルは短銃身ほど命中する」と豪語する人もいますが、何の根拠もない与太話に過ぎません。とも説明されております。

私も短いほど当たるとは言いませんが、ベンチレスト射撃の世界を例にとって説明すると100%の人が20インチ銃身で参加しております、これってライフルの銃身では短い銃身では無いでしょうか? では何故全員が20インチ銃身をあえて使うかと言いますと、それは絶対的に当たるからです。

我々のベンチレスト射撃の世界では100メートルでクルーピングが1ミリ以下なのはすでに実証済みで、事実、大会でも1ミリ、2ミリ台はごく普通に出ております、従って練習では1ミリ以下、計測不能と言う記録も珍しくありません。

(こちらに日本ベンチレスト射撃協会 がありますのでご覧下さい。)

氏はこの様な驚異的な命中精度の世界を御存じないかも知れませんが、いずれも20インチ銃身で記録したのです、世界的なベンチレスト射撃競技に24~26インチ銃身で参加されるような無謀な人は一人も居ません。

また氏は、記事の中で削りだしバレル(カスタム銃身の事か?)はツイストからクラウン加工まで客のニーズに合わせた細かい設定が可能なので命中精度が良いと主張されています、そしてその分、値段はベラボーに高い、と結論付けられております。

当社ではシーレンのセレクテットマッチグレードの銃身を、シーレン社で外径、チャンバーねじ切りまで完全に加工させて¥79000です。この値段がベラボーに高い値段かどうかはその方の世界観にもよりますが、私はベラボーに高いとは思いません、皆さんは如何でしょうか?

さて、しからば射撃専用銃、又はヴァーミンターライフルで24~26インチ銃身が何故使われているかを説明しないと片手落ちになりますので以下説明を続けます。
ベンチレスト射撃の場合、銃を固定して撃つので20インチでも良いのですが、オリンピックなどで使われる射撃競技専用銃には20インチ銃身を使う人は絶対に居ません、私は何でも実験して納得しないと居られない性格ですから自らちゃんとした射撃銃の銃身をわざわざ20インチに切断して実験しました、結果は明らかに記録がダアウンしました、私はライフル射撃で3段を持っているので全くの初心者とは思わないでください。

銃身が短いと振り子の理論と同じで、引く瞬間簡単に銃身が動いてしまうのです、銃身が長いと銃身固有の命中精度はともかく、銃のモメントが長いので銃身の振れがスローなのでタイミングを合わせて射撃するライフル射撃では、タイミングが取りやすいのです。

それが射撃競技に28インチ銃身が使われる最大の理由です、バーミンターに26インチ銃身、狙撃用に26インチ銃身が使われる理由はまさしくここにあります。
人間が実用的に使うには24~26が一番使いやすい長さなのですが、単に命中精度を以て判断するなら20インチ銃身の方が命中精度が良いと言えましょう、少なくとも100メートルで1ミリ以下のグルーピングを出した24~26インチの銃身を私は見たことがありません、ベンチレスト射撃の世界は、技術の進歩に非常に従順でまた積極的に新しい考えを受け入れます、そうした土壌は完璧に身に付いています。ですから将来さらに新しい理論が出てくれば全員がその技術を受け入れる事は間違いありませんが、しかしながら目下の所100メートルで1ミリ以下の精度が確立している以上、これ以上の命中精度の銃身を作ると言うと現実的には難しいのが現状ではないでしょうか、100メートルで5発の射撃をして、弾痕はほとんど1発しかありません、同弾痕でも弾痕を5発数えられたらこれは我々の世界では勝負にはならないレベルです、私の説明が本当かどうか、私の主宰するベンチレスト射撃協会の大会を見学されれば一目瞭然です。

さらに命中精度の世界を極めたければベンチレスト射撃協会に入会されることをお勧めします。

入会金¥1000、年会費¥5000です、(なんだか宣伝になりましたがご容赦を)
日本ベンチレスト射撃協会


更新 2000年 8月 8日

このように書いた後で、ベンチレスト射撃協会の川村さんから計測不能の1ミリ以下の記録は24インチ銃身でも記録したと知らせがありました、従いまして20インチ銃身でも、22インチ銃身でも24インチ銃身でも1ミリ以下の記録を出せることが確認出来ました。従って20インチ以上あれば命中精度上の優劣は付けられません。

銃身寿命

2005年 2月 5日 築地
更新 2005年 2月20日 築地

「少年易老学難成」
少年(しょうねん) 老いやすく(おいやすく) 、学成り難(がくなりがた)し。
まるで私自身の事を指摘されたような言葉です。
私は来年で60才です、年月の過ぎるのは早い物で正しくあっという間に過ぎていった年月です。60才と言うと公務員でも、普通の会社の勤め人でも定年を迎える年です。
自衛官なら4年前に定年を迎え、毎日が日曜日と言うお気楽な毎日を過ごして居たに違い有りません。しかしながら、私は自営業者ですから、幸か不幸か定年はありません。
同級生達が定年を迎えると、何となく残りの人生と言うか、残りの寿命を考えてしまいます。「憎まれっ子、世にははばかる」と言う言葉もありますが、私も同業者から見れば「憎まれっ子」でしょうが、皆さん達ユーザー、あるいは読者の方達から見ればまた違った視点で私を見ておられるかも知れません。
そうすると短命なのだろうか?等と残り少ない人生をカウントしてみたくもあります。
人間には寿命があり、これだけは誰も避けて通ることは出来ません。
人間だけでなく、この世に存在するあらゆる物に寿命があります。
ここまで書くとコラムのテーマが読めてきますね。
そうです、今回は銃身寿命についてお話します。別に私の寿命について話してもしょうがないですからね、銃身寿命については大体の概念は解っているのですが、一般の人達に解るように説明できる資料はないのです。そうした資料を作るには実際に銃身を数本捨てなければ成らないし、第一相当な装弾を使い捨てなければ成らず、余程のお金持ちで暇人で出来ないとやらない実験です。
しかし、ブローニング社のホームページを覗いたら面白いデーターが開示されていましたのでご照会します。以下のアドレスに飛べば図表を見られます。

http://www.browning.com/products/features/detail.asp?id=79

取り敢えず私が図表だけを切り抜きましたのでそれをご覧頂いても構いません。

銃身寿命

この図表の左側をご覧ください、数字が1から4迄ありますが、これは弾の集弾をインチで示してあります。工場での試射は普通3発で行いますが、我々ベンチレストシューターは5発撃ちでグルーピングを言います。まあ、命中精度のレベルから判断して5発撃ちのグルーピングだと思います。図表の下に書かれた数字は弾数です。

この実験に使われた装弾は223WSSMと22-250装弾の銃身寿命の違いを説明した資料です。
これはブローニング社のHPですから、当然223WSMの性能が良いと言う事を言っている訳です。しかし、どちらも約4000フィート出る超高速弾ですから、こういう弾を使うと銃身寿命は極めて短いのです。
黄色とグリーンの線で示された線をご覧ください。下の数字の弾数、800発辺りで線は大きく上に上がっていますよね。弾数1000発では大きく上に4インチを切って上がっています。
4インチと言うことはグルーピングは10cmですから、これでは銃身寿命は尽きたと判断されますね。それとすると223WSSMは1500発位までは命中精度が保たれて居ると言うことを言いたい訳です。でも皆さんの感覚からすれば、1500発と言う数字も意外に感じられるのではないでしょうか?

メーカーにすれば、「1500発」保つと言うことを言いたいのですが、皆さんの感覚からすると「1500発しか」保たないと思われるのではないでしょうか?

案外銃身寿命って保たないでしょう、実は戦艦武蔵の砲身は500発しか保たないのです。
銃身寿命は弾の初速、言い換えれば火薬の圧力で大きく影響されるのです。
弾頭の初速が早いから「摩擦」で銃身が摩耗するのではなくて、弾頭の初速を上げるために火薬の圧力を高くすると、火薬の粒子が銃控内で猛烈なスピードで動き回るために、薬室近辺で銃控を損傷してしまうために銃身の寿命が尽きてしまうのです。
これを「エロージョン」と言います。
でもこうした超高速弾の銃身寿命は短いのですが、皆さんが使われるような初速が2800フィート程度の308や、30-06なら銃身寿命は6000発位ありますからご安心下さい。

さて、私の寿命も223WSSMを使う銃身にたとえれば、すでに1500発は撃ち尽くした銃身と同じかも知れません、さて後何発分、命中精度が残っているのでしょうかね?

子曰、吾十有五而志干学。三十而立。四十而不感。五十而知天命。六十而耳順。七十而従心所欲、不踰矩。

子 曰く 、 吾 十 有 五 にして 学 に 志す 。 三十 にして 立つ 。 四十 にして 惑わず 。 五十 にして 天命 を 知る 。六十にして 耳順 う。 七十 にして 心 の 欲する 所 に 従う 。 矩 を 踰 えず


更新 2005年 2月20日

どうも私は目も頭の回転も劣化した為か、何でも早とちりする事が多くなっています。
特に最近は英語はちゃんと読まなくなっています、見ただけで早とちりするのでこんな指摘を受けるのですね。
メールを送ってくれた人は、私の親切な友人ですから、私が恥の上塗りをしないように親切に教えてくれました。ここで訂正して、お詫びいたします。

銃身寿命
あれは223WSMの薬莢がいいのではなくて、よくグラフの注釈を見ると、223WSMはクロームメッキ(銃身内)22-250は普通のクロモリ、ガンブルーどぶづけだからだと思うのです。

解説を見ると、 In chromed barrels, the wear resistance is doubled (see chart).と書いてありますから、クロームメッキは倍は寿命があるぞ、といってますし。

It should also be noted that Browning has never sold a rifle in 223 or 243 WSSM without a chromed barrel.とかいてますから、
要は、ブローニングの鉄砲の寿命は銃身内をクロームメッキだから長いよ。といっているんです。
多くのハンター達から、過去に何度も相談された事がありますが、20~30メートルの所にいる鹿を撃ったら、マグナムライフルなのに逃げられたとか。30-06なら止まるのにマグナムで撃つとだと逃げられると言う相談が幾度と無くありました。
これはマグナムライフルの場合、初速が早すぎて鹿の体内に衝突した瞬間、弾頭が破砕するのがその原因です。
ですから回収した鹿の弾頭をよく調べて見ると解りますが、1発で鹿が倒れなかった場合、銅のジャケットと鉛のコアーが完全に分離しているはずです、実はこれが殺傷力を極端に減少させている最大の原因なのです。
多くのハンター頭とすると公差は一桁大きいはずです。命中精度から言えば良いことではありませんが、ベンチレスト射撃みたいにミリ単位のグルーピングを競うのでなければ十分な実用性が有ります。 

テーパードボア 銃身

2003年 7月21日 築地

時折メールでテーパードボア銃身について聞かれますので、コラムとして書いてみたいと思います。

テーパードボア、つまり銃身の内径がテーパーに出来ている銃身のことです。
こうした銃身は作るのが大変なので滅多に日本ではお目にかかれませんが、僅かですが存在します。但し、とうてい適正価格と思えないようなべらぼうな値段で取引されているのでその加工方法と意味と効果と適正価格と、そしてその歴史について説明してみます。

テーパードボアでゆっくり絞るのでパターンが良いとか、反動が少ないとか、逆に初速が上がる(反動が強い)とか色々な説があります。
私自身は実射実験をしていないので何ともコメントできませんが、これ以外の現用のチョークの銃でちゃんとクレー射撃は25満射が出来るのでテーパードボア銃身が特段優れていると私は全く思いません。
散弾銃はパターンだけで撃つのではなくコロンでも破砕するわけですから、パターンが大きいと言うことはコロンが短いと言うことになります。
私はクレー射撃を毎週撃っていますが、トーナンメント射撃はライフル射撃の世界で40年以上やっているので、クレー射撃でトーナメント射撃の世界に入るつもりはありません。では何故クレー射撃をそれほどやっているかと言うと、シドニーオリンピックで見た、クレーを粉々に粉砕する射撃を徹底的に追求しているからです。
日本のクレー射撃では、クレーを飛ばしてかなり遠く言ったところで(パターンの広いところで)撃って、やっとクレーに当たって力無く2枚に割れても1点は1点です。
私は、クレーを粉々に粉砕する射撃が好きなのです、何となくこれこそがトラップ射撃と思えてなりません、少なくともオリンピックで見た感想はそうでした。
割れさえすれば1点と言う考え方は確かに正解ですが、だからクレーを遠くまで飛ばして出来るだけ散弾の開いたところで取れば確率は良いかも知れません。
だからパターンの事を云々するのかも知れません、でもオリンピックでの射撃は違います。
クレーを粉々に粉砕します、明らかに日本の射撃方法とは違うと思います。
もしこういう射撃を目指すなら、パターンが広いとか、狭いとか言う理論は何処かにすっ飛んでしまいます。
クレーを粉々に粉砕するにはコロンを有効に使わないととうてい無理だからです。
私は、ブローニング,メルケル,ペラッチを使って徹底的に撃ち込んでいます。
メルケルの絞りが一番きついのですが、どの銃を使ってもクレーを粉々に粉砕することは可能です。但し、いずれの銃もスイングのスピードは相応のスピードが必要です。
銃のスイングを速くすると「銃身がぶれる」「狙いのラインが崩れる」「銃のスイングが速すぎる」種々の要因で外れることが少なくありません。
トーナメント射撃を想定すると、クレーをゆっくりと追って、散弾のパターンが広がったところでクレーをとらえた方が点数は稼げるかも知れません。
しかし、オリンピックでは「違う」と思います。
こういう撃ち方をすれば、国で違うクレーの堅さは問題ではありません。
外国の大会で硬いクレーが使われたとしたら、外国選手と日本選手との差はてきめんに出るはずです。ま、国内で和気藹々とクレー射撃を楽しむ分には問題ないですけどね。
さて、テーパーボア銃身の話をするのに余計なことを書いたように思われるかも知れませんが、テーパー銃身はパターンが良いと言われているので、パターンよりもコロンを重要視すべきだという意味でこういう話をしたわけです。
そもそも散弾銃のパターンと言うのは装弾の初速と極めて密接な因果関係にあります。
装弾の初速を上げると、散弾はドーナツ状に展開します。
装弾の初速が早い場合は、チョークの寸法を少し大きくする必要があるのです。
これは単にチョークの寸法だけで変化する問題ですから、コーンの長さが長いとか、チョークのテーパーがどうとか、チョークの長さがどうとか、チョークの形状により劇的な変化が生じる訳ではありません。もとより、チョークの形状と言うのは今まで色々なメーカーで色々なチョークを出しました。そして全てのメーカーが「当社のチョークこそ最高の性能」と宣伝した物です。30年くらい前はそうではなかったでしょうか?
「一部の会社は今でもそうですがね」で、違いはありましたか?
私はチョークはどれもこれも同じような物と思います。
これはパターンテストでは無くて、実際に撃った感想です。
パターンテストではコロンのテストは出来ないので、実際に撃って体験するしかないのです。私の体験では全部同じです、特にコロンで撃つという事に関しては優劣はありませんでした。ですから今時テーパードボアと言うのは怪訝に感じるのです。
勿論、テーパードボア銃身の優劣性を信じていらっしゃる方のお考えは否定しません、なんせ私が撃っていないのですからコメントのしようがないのです。
但し、はっきり言えるとはクレーに当てると言う本質はパターンの問題では無いということです。

私はテーパードボア銃身は撃ったことはありませんが、作った事はあります。
テーパー銃身の作り方は、穴を空けた銃身に角リーマと言う真四角の焼き入れした長いリーマを使うのです、真四角のリーマの1面に和紙を乗せ、その上に竹の割った物を乗せます、竹の背の部分が銃腔内の面に辺り、その反対面の角リーマの角で銃腔を削るのです。実際には削ると言うよりは摺り取ると言うよな感じで、鉄は削りかすと言うよりは粉状の鉄粉しか出ません、削り面は恐らく1/100~5/1000程度ではないでしょうか。
ですから1本の銃身を削り上げるのに2日ほど要します。
これは何の銃身かと言いますと、実は火縄銃の銃身なのです、前の会社では火縄銃の補修もしていたのでこうした作業もやっていたのです。
散弾銃の銃身の場合、2本ですから加工には4日かかることになります。
この4日と言う時間に幾ら工賃を見るかで銃の単価が判断できると思います。
実際の加工は時間もかかるし、大変ですから私自身は加工しませんが、作業工程はよく熟知しています。作業自体は時間がかかって大変ですが、高度なテクニックを要する加工ではありません、何も現在の名工にやって貰う加工ではないのです。
ですから加工工賃は自ずと常識の範疇の筈です。まあ、
銃身を作るのには、普通の工員の4日分の作業工賃です。
さて、何故火縄銃の銃身をテーパードボアにするかと言いますと、威力を高めるためです。言うまでもなく火縄銃は黒色火薬を使いますが、黒色火薬は威力が弱いため、威力を高めるために色々な工夫がされています。
火縄銃は先込式ですから、銃口の内径より大きい弾は使えません、そのためそのまま撃ったのでは火薬に圧力がかからず全然威力が無いのです。
そのため、テーパードボアに火縄銃の銃腔内を加工して、その銃身に黒色火薬を入れ、最後に鹿革を使い鉛の丸弾をくるみ装填します。
そして銃腔内に奥まで押し込みます、押し込んだところで、さくじょうで、ガンガン叩いて、奥の内径に革が密着するようにするのです、こうした状態で撃てば、火縄銃の中の丸弾はテーパードボアのために常に銃腔内に密着して撃ち出されるので大きな威力が出るのです。このアイデアを日本人は400年前に考えついていたのです。

ですからテーパードボアと言う理論は400年も前に日本で確立されていたのです。
全然新しいアイデアではありません!

多分散弾銃は違う! きっと別の方法で加工しているはずと言われると思います。
私も文献を見ていなければ同じ様に考えていたに違いありません。

所が、30年くらい前に製銃技術の文献を徹底的に読みふけっていた頃、イギリスで書かれた「ロンドンガン」と言う本に、ジェームス パーデイの製銃行程が書いてあったのです、その中になんと火縄銃を加工した"角リーマ"があったのです。
それを読んだ当時は、角リーマなんて知りませんからなんて面倒なリーマ加工だろうと思いました、当時はすでにガンドルもあったし、機械工作の見地から言うと角リーマはとんでもないガラクタとしか見えなかったのです、こんな事をするからパーデイは高い値段になるんだとも考えました。
所が大違いでした、火縄銃の加工をしてその本質にに初めて開眼しました。
角リーマが昔からヨーロッパに在ったのか、パーデイが偶然考えついたのか、それとも火縄銃の製作法から学んだのか、残念ながらそれについては不明です。
いずれにしても、パーデイのテーパードボアは、火縄銃と同じテーパーボアにして威力を高める為の工作だったのです。
上下二連と違い、水平二連は耐圧が弱いため、32グラム装弾以下の弾しか使えなかったのです、ですから同じ装弾を使っても威力を高めるために施された工作だったのです。
実際に角リーマで加工してみると、実に完璧なテーパーが作れます、他の機械工作を持ってしても絶対に不可能な工作だと断言できます。

でも現在の射撃装弾は24グラムと決まっており、初速も1400フィートですから、テーパーボアにして威力を高める意味は全くないのです。初速を上げる必要もありません。

テーパードボアを使うとパターンが良くなると言うなら、それも宗教ですから、別に否定はしませんが!

テーパー銃身と言うには些か語弊があるかも知れませんが、ライフル銃でも銃口が絞ってある物もありました、ありましたと過去形で書くのは現在は無いからです。
1970年代までは、アンシュッツ、ワルサー等の22口径射撃専用銃の銃身は銃口が少し絞ってあったのです。これは22口径の弾頭だけを外して、薬室からロッドで押していけば簡単に解りますが、銃口付近でグッと抵抗が増えるのです、計器で計測できないのでこうして確認するしか方法がないのですが、誰でも実感できる体感なのです。
何故こうしたことをするかと言いますと、鉛の弾は銃腔内を前進していく最中に弾頭の直径が少しずつ削られるかのでその削られた分に合わせて銃口を細くしたのです。
これは油圧で微妙な力加減を加えて外側から押し縮めて加工したのですが、当時は門外不出の技だったのです。私もトライしてみましたが絞りすぎると全然当たらなくなります。
私も長年これこそライフル銃の命中精度を上げる秘策だと勘違いしていた次期がありましたが、アメリカのカスタムライフルを知ってから、これが全く意味のない工作だと次第に解って来ました。私が理解できた後、アンシュッツもワルサーも銃口の絞り加工はやらなくなりました。

テーパードボアについて色々書いてみましたがが、これは一部の射手の間で、値段は高いが、画期的で革新的な工作だと勘違いされて情報が伝達されているので、すでに400年も前に火縄銃で確立されていた日本の加工技術だと言う、歴史のお勉強でした。 

銃身破裂

2002年 7月 5日 築地

ある日突然、この銃のオーナーから怒りの電話を受けた!
射撃場で射撃中に突然銃身が破裂したと言うのである。

銃の全体図
銃の全体図

「何もしないのに突然銃身が破裂した」と言われて私も当惑した。
突然銃身が破裂したので、お怒りの様子であったが原因が無くて銃身が破裂する事はない。必ず原因が有る筈なので、順序を追ってお話しを伺った。
まず、火薬が原因の場合は主に機関部が損傷する、今回の場合は銃身の破裂、それも銃身の中心付近と言うことなので、そうすると異物の残留が原因と考えられる。
その事を話すと射撃中に突然起こったので異物が有るとは考えられないとの事で、お客様は何か銃身素材が不良だったのではと言うような雰囲気であった。
私は、お客様に装弾はハンドロードかどうかお尋ねしたところ、ハンドロードだとのお答えであった。私は思い当たるフシがあったので、銃身破裂する前、ちゃんと弾が出ましたかと聞いた、一瞬沈黙の後、ちゃんと出たとお答えが帰ってきた。
私はさらに質問を重ねた"反動が有りましたか?" 数秒の沈黙の後、「反動が無かったと」との答えである。
その答えを聞いて、私は原因を指摘した。

"その弾には火薬が入っていませんでしたね!"

つまり原因はこういう事である。
雷管の圧力だけで弾頭が押し出され、雷管の火薬ガスだけでは火薬の絶対量が不足しているので銃身の途中で弾頭が停止し、その後ちゃんとした弾を撃ったので、途中で停止した弾頭に次の弾の弾頭が追突して異常高圧が発生し銃身破裂が起きたのである。私はその事を順序立てて説明し、その時点でやっと原因がご自分に有ったとご理解されたようである。

破裂した銃身
破裂した銃身
割れた先台
割れた先台


火薬ガスは気体なので、皆さんにはあまり実感を持って考えにくいと思いますが、弾頭が急停止した場合、火薬ガスは銃口に向けて突進している最中なので気体であっても急停止は出来ない。列車事故で先頭の車両が何かとの追突により急停止した場合、後続の列車が次々と折り重なって来るのと同じような現象だとお考え頂きたい。
この銃身はバーミント用の太い銃身なのであるが、そうした異常高圧が起きるとこんな頑丈な銃身でもひとたまりもない。

レミントン700の銃身素材はクロームモリブデン鋼である、この材料は粘りや引っ張りに強い鋼材で充分な強度を持っているのであるが、その素材がこの有様なのである。

銃身接写
銃身接写

こんな強力な破砕作用が起きたのであるから、撃った人は大丈夫妥当かと思うのが当然であるが、思いの外ほとんど無傷である。但し、この射撃中はベンチレスト射撃をやってたまたま指の一部を銃身にかけていたので、飛散した弾頭の破片で指に傷を負われたようであるが、通常の様に先台を握って、ちゃんと構えて撃たれていれば無傷であった事は間違いない。何故なら機関部とボルトは完全な状態であるからである。
銃の鋼材はすべてクロームモリブデン鋼を使用している、しかしながら銃身が破裂して機関部が無傷なのはどうしてだろうかと思われるかも知れないが、実は熱処理でそれぞれの硬さに違いを持たせてある、一番硬度が低いのが銃身である、その次に硬いのは機関部で、一番硬いのはボルトである。この様に硬度を変化させて異常高圧が発生した場合はまず、最初に銃身が裂けるように作られているのである。
銃身が裂ければ圧力は瞬時に低下する、そうする事により機関部の損傷を回避しているのである。

無傷のボルト
無傷のボルト
無傷の機関部
無傷の機関部

この銃の機関部の写真をご覧頂きたい、写真でお解り頂けるように、機関部には全く異常はない、ボルトも全然痛んでいない、銃身が破裂する事により、こうして機関部が安全に守られたのである。

無傷のボルト 側面
無傷のボルト 側面

もう40年くらい前の話になるが、今は無くなった神奈川県の富岡射撃場で、当事唯一の国産ライフル銃を製造していたYSSと言う会社の銃をこの会社のオーナーが試射している最中に突然ボルトが抜けて射座の後の板に突き刺さったという事件があった、幸い試射なので銃を構えたわけではなく、サンドバックの上に置いて撃っていたのでけが人は無かったか、見学していた射撃部の学生の間では有名な話として語り継がれ、当事からYSSライフルを敬遠する人たちは概ねこうした噂話が記憶の底に残っていたのかもしれない。
ウインチェスターやレミントンの半値くらいしかしなかったYSSも国内では全然売れず会社は倒産してしまった。私はYSSの工作が駄目だったのではなく熱処理が硬すぎたのが原因では無かったかと今でも密かに思っている。
この様に、銃器の場合は熱処理が非常に大切な事なのである。
機関部は、不必要に硬ければ良い、不必要に強ければ良い、と言う物でもないのである。

今でも時折、名もないメーカーの機関部破損等の事故を見ることがあるが、ほとんどの場合機関部の硬度が硬すぎるようである。機関部の硬度が硬すぎると、逆に今度は火薬ガスの圧力がボルトに集中することになる。
銃身が破裂するのが一番の、そして最初の安全回避策であるが、火薬を間違えて、ライフル火薬の替わりに散弾銃の火薬を間違って装填したような場合、弾頭が前進する前に機関部付近で異常高圧が発生するので銃身が破裂する前に機関部に火薬ガスの圧力が集中する、その場合、雷管の穴からガスが逆流しファイアリングピンの穴を通過してボルトのガス抜きから弾倉の方に抜けるのである。ファイアリングピンの穴と言うと非常に細いのでにわかに信じられないかも知れませんが、ガスも非常に高速ですと、曲がる事がないのでほとんど直線上を逆流する事になる。そのため機関部の横方向にガス穴が有ってもほとんどそちらには流れない、最初はファイアリングピン穴にそって逆流をする、そして開放された部分に来て、初めて方向を変えて弾倉方向にガスは流れ始めるのである。
有る程度圧力が下がったと言っても、この時点で弾倉はほとんど破砕され、底蓋は間違いなく抜け落ちる、これが機関部で起きる破砕現象である。

無傷の弾倉
無傷の弾倉

このガス回避策が設けられていなかったり、機関部の強度が必要以上に強いと、ボルトが破砕され、ボルトが銃を狙っている人の顎を直撃する事になる。

残念ながら、こうした事例も現実に起きているのである。

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